「発達支援のWeb相談」国内初の試み!学校現場ではじまった専門家向けサービスとは【栃木県那須塩原市の取り組み】

発達障害のある子を支援するシステム作りは各地で始まっていて、福祉、医療・療育機関、教育委員会など、関係機関が連携して子どもと保護者を支え、継続できるように考慮されています。そんな中、栃木県の那須塩原市が、今年の6月末より、インターネット(Web)会議システム(Skype for Business)を利用した「発達支援Web相談」を始めました。

小・中学校・義務教育学校の教師が対応に悩んだ時に、スカイプで専門家に相談

発達障害者支援法が施行されて14年。保育者や教育者たちの発達障害への理解はかなり深まりました。とはいえ、発達障害のある子が見せる様子は一人ひとり違うもの。また、保育現場や学校などの集団の中に入ると、家庭や病院などでは落ち着いている子が、全然違う様子を見せることもあり、保育・教育現場の先生たちが戸惑うケースもあります。

 そこで、那須塩原市では、学校と病院をWebでつないで相談ができるシステムを作りました。今のところ対象は市内の「国際医療福祉大学病院」を受診し、病院で発達支援のリハビリを受けている児童生徒のみ。保護者もWeb相談の実施に同意していることが条件です。

それら生徒について、小・中学校・義務教育学校の先生たちが、対応に悩んだ時に、専門家(作業療法士・言語聴覚士・理学療法士)にアドバイスが受けられるというものです。

放課後にしか出来なかった、専門家への相談が日中に可能に

那須塩原市ではこれまでも病院と連携して、教師たちが電話相談や来院して相談していましたが、教師たちが病院に連絡したり訪れるのがどうしても放課後になってしまい、病院の療育専門家たちの勤務時間外になることが多かったのです。そのため時間を決め、かつWeb相談をすることになったそうです。時間は毎月第2、第4木曜日の14時と15時からで、一人につき30分ずつ。まず学校から教育委員会へ相談を申し込み、教育委員会が病院側に連絡を取って日程を調整し、相談内容に応じて療育の専門家たちが対応します。

 学校現場の悩みの多くは、一人ひとりの特性や対処の情報が、集団の中でうまく生かせないこと

専門家のいる病院にカルテがあり、保護者の同意が得られた児童が対象

那須塩原市教育委員会学校教育課、稲垣俊弘指導主事のによると「それぞれのお子さんの特性や対処についての情報は、あらかじめもらっていることがほとんど。しかし、実際に教室の中では、その対処法ではうまくいかないことも多々あり、療育の専門家の声を聞きたいという声は現場に多いです」とのこと。

那須塩原市のWeb相談は、通常学級か特別支援学級かなどの在籍は関係なく、お子さんが国際医療福祉大学を受診して、病院にカルテがあることが条件。プライバシーに関わることでもあるため、保護者の同意がない子について、勝手に相談することはできません。また、学校で相談する際には、ヘッドセットを使用するなどして、個人情報が漏れないよう対策しています。

相談の際はヘッドセットをつけて個人情報の漏洩を防ぐ

 電話では伝えきれない情報も画面共有でわかりやすい

  Web相談のメリットは、子どものノートなどの、具体物を見てもらいながら相談ができることです。実際にWeb相談をした教師の一人は「対象となる子が書いたノートを画面で見せて相談しました。言葉だけでは正確に伝えきれないことがあるので、具体物があると伝えやすいです。そのうえで、どう対応したらいいのか、具体的にアドバイスをもられえるのが助かります」と言います。

相談を受ける療育の専門家も、図を書いてアドバイスするなど、イメージを共有しながら会話ができるのがメリット

療育の専門家と学校現場が情報を共有することで期待される「よりよい支援作り」

  稲垣指導主事は「先生方はすでに本や研修などで、発達障害の特性や対処法についてよく勉強しています。しかし、1対1での関係での対処法はわかっても、いろいろなお子さんとの関係が絡んでくる教室の中では、どうしても基礎的な知識だけでは対応できない難しさが出てきます。発達障害のお子さんにとっては環境はとても大切。クラス作りや仲間作りは、これからの課題です」と、言います。

病院にいる療育の専門家たちが、学校の中で子どもがどういう生活や学習をしているのかを見ることはなかなかできません。「Web相談でもらったアドバイスを、教師たちがいかに個別の指導計画に活かしていくのかが肝心。そして、実際にどんな支援ができたのかを確認するなど、互いにフィードバックしながら、よりよい支援体制を作りたい」と稲垣指導主事は言います。

地域に広がってほしい Web相談

那須塩原市の取り組みに興味をもち、視察に訪れる自治体もあるそうです。発達障害のあるお子さんが増えている現在、支援する学校と医療機関が、互いに負担を軽減しながら持続可能な形で連携が取れるのが理想ですね。

また、専門家とのWeb相談の仕組みがもっと広がりを見せれば、近くに専門医がいなくて困っている地域の人や、病院に行けない事情がある人などにも救いの道が開けるのかもしれません。これからの動きにも注目したいです。

取材・構成/江頭恵子 イメージ写真/石川厚志

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