三田国際科学学園の人気英語教師・尹龍貴(ゆん たつき)先生が語る。自律的な学びは「習慣」こそが鍵!できている生徒とできていない生徒の違いは…?

「毎日30分は勉強してほしい」——そう願うほど、親の声かけは増え、子どもは机から遠ざかってしまう。そんなすれ違いに、心当たりはありませんか。三田国際科学学園中学高等学校の英語教員、尹 龍貴(ゆん たつき)先生は、2025年10月に『ずっと知らなかった、本当の学び方 自律的な学習者への第一歩』(セルバ出版)を出版。「勉強は量や気合いでは続かない」と話します。「できた」という肯定感を重ねることで、少しずつ自律的な学びの習慣が育っていく。同校でも大人気の尹先生に、小学生の今、親が本当に整えるべき「学びの土台」についてうかがいました。

まずは1分からでOK!「もっとやりたい」が習慣に

― 保護者はつい「毎日30分はやってほしい」など、理想を高く設定しがちです。習慣化を成功させるための最初の一歩は、実際にはどれくらい小さくてよいのでしょうか。

尹先生:どんなに小さくてもいいと思っています。大切なのは、お子さんが確実にクリアできる設定にしてください。1分や2分でも、「できた」という実感が持てると、それ自体が子どもの自己肯定感につながる。そこがとても重要なんです。

―ご著書で、「できた」という肯定感を持たせてあげないと、学ぶ習慣は育ちにくいと書いていらっしゃいました。なぜ肯定感が大切なのでしょうか。

尹先生:最初は「1分だけやってみよう」と親から与えられた目標でも、「できた」という肯定感が、「これならできるな」「もう少しやれそうだな」と内的な動機に変わっていくので、習慣化しやすくなるんです。

私は中1から高3まで担任をしてきましたが、勉強ができないと感じている子ほど自己肯定感が低い傾向にあります。大人にとっては、勉強ができるかどうかは数ある能力の一つにすぎません。でも、子どもにとっては順位がついたり、評価されたりと勉強が人生の中心にある時期。だからこそ、「できない」という感覚を持ってしまうと自己肯定感が低くなってしまうのです。

― 勉強が習慣になっている子の特徴はありますか。

尹先生:いくつかありますが、習慣化できている子は忘れ物をしない、メンタル面も安定している。余裕があるんでしょうね。文化祭や部活で忙しい時期もちゃんと生活を回せています。逆に、勉強が習慣化できていない子ほど「すごく忙しい」と言うことが多い。日頃の積み上げがないから、波が大きくなる。時間の使い方がうまいかどうか、という違いもあります。

本校ではオンライン英会話を導入していますが、中2で毎朝6時に英会話をやっている子がいて驚きます。365日、ほぼ毎日、行動がほとんど決まっている。こういう子は、勉強が習慣になっていると思います。

親からの信頼と愛がメンタルの安定に

― そういうお子さんの保護者の関わり方には特徴がありますか。

尹先生:お子さんを信頼していると思います。あとは抽象的で申し訳ないですが、親からすごく愛情を受けている感じがします。正しい意味での関わり方で、愛情を受けて信頼されている。それが、肯定感を持ってやれている背景にあるのかなと思います。

これからお子さんに勉強の習慣をつけてあげたいのであれば、親が設定するのは、あくまで入り口まで。「できた」という感覚を積み重ねられるかどうかが、勉強を「やらされるもの」にするか、「自律的に勉強するサイクル」にするかの分かれ道になります。一度、それが回り始めれば、大人になっても自分で学び続ける力になりますよ。

文献の「10秒スタート」を、“とにかく早く始める”発想で尹先生流に「1秒スタート」とアレンジ

― 肯定感を高めるという点で、貴校が英語の指導でも意識されていることはありますか。

尹先生:かなり意識しています。本校では入学前の春休みに英単語200語に取り組んでもらうのですが、最初は「覚えられない」「テストで点が取れない」という子も少なくありません。でも、やり方を知って、同じ方法を繰り返していくと、少しずつ点数が上がっていく。その変化が、「やればできる」という肯定感につながっていきます。単語は成果が点数として見えやすい分、「やってできた」が実感しやすいんですね。英検に挑戦して結果が出たときも自信になる。その自信が英語だけでなく、他の教科にも波及していくケースもあります。

「やる気」を待たない。1秒で始められる環境づくりを

― 著書でも触れられていた「1秒スタート」について教えてください。

尹先生:やる気が出てから始めるのではなく、考える前に1秒で行動に入れる状態を先につくる考え方です。勉強に入る前に、机の上を整える、教材を探る、何からやるか決めるなどの小さな判断や準備があると、脳は無意識に疲れてしまい、やる気が下がります。そこで、あらかじめ教材を出しておく、机の前に座るだけで始められる配置にするなど、1秒で始められる仕組みを用意することで、行動が先に起こり、あとから集中力ややる気が自然についてきます。

―1秒スタートを実践しやすくするには、家庭でどのような工夫が有効でしょうか。

尹先生:夕食後に勉強すると決めているなら、夕食前に机を全部セットしておく。部屋に入って座ったら、すぐ始められる状態をつくる。それだけで、心理的なハードルはかなり下がります。スマホはなぜ1秒で使えるのか。手に取って、顔認証して、ほぼ1秒で使えるからです(笑)。

オンライン英会話も、予約するまで、開始ボタンを押すまでが一番重い。でも、いったん始めたら「もう終わった」と言う子が多い。だからこそ、気合いではなく、始めやすさを設計することが大事だと思います。

中学受験、二人三脚のつもりが“過干渉”に?

中学2年生から始まる尹先生のゼミは最大人数の10名が希望するほどの人気ぶり

―中学受験で、つい子どもに「ああ、あれやったの、これやったの」と言ってしまうことがあります。親がよかれと思って言っているつもりが、過干渉になってしまうのはどうしたらいいでしょうか。

尹先生:それはとても難しい問題ですよね。特に中学受験は、親子で二人三脚というイメージが強い分、どこまで手綱を持って、どこまで関わるのか、バランスに悩む方はとても多いと思います。

こう考えてみてはいかがでしょうか。私たち大人でも初めてチャレンジすることに対して「いいですよ、やってみなさい」と言われても、実際にはどうやって進めればいいのかわからないことがありますよね。中学受験も最初はそれと同じで、方向性やきっかけとなるヒントを与えてくれる存在は必要だと思います。

ただ、その先まで親が決めてしまったり、やり方を矯正し続けたりしてしまうと、どうしても子どもは嫌がってしまう。そうなると、サポートではなく過干渉になっている可能性があります。素直に言うことを聞いているように見えても、言われたこと以外をやらなくなっているとしたら、それは内的な動機で勉強できていないサインかもしれません。

過干渉にならないように、勉強の習慣がつくまで待ちながらお子さんの様子を見てほしいですね。雑談の中で今何か抱えていることはないか、それとなく話をしてみる。親子の信頼関係ができていれば、子どもは何かしらボソッと言うと思うんです。「話したら怒られる」「話したらもっとやらされる」と子どもに感じさせないことがすごく大事だと思います。

― 子どものやる気を引き出す声かけはあるのでしょうか。

尹先生:三者面談でもよく同じ質問を受けますが、正直に言うと、「これを言えばやる気が出る」という魔法の言葉はないと思っています(笑)。だからこそ習慣化が大切なんですね。

自律学習ができる子になるかは、中1のスタートで決まる

― 自律的に学ぶ習慣は、将来的に大学受験にもつながっていくのでしょうか。実際に高3を見てこられて、「自分でできる子」とそうでない子の差は感じましたか。

尹先生:高3で自律的に勉強できないと、中学受験のように、塾や学校に「やってもらう」状態に戻ってしまう。でも、今の大学受験は暗記が通用しないからこそ、自分で考えて、選んで、進められる力がないと厳しいんです。

今は教材も解説も情報があふれていて、本当に解決できない問題はほとんどないはずなんです。自律的に学べる子は、自分で調べて考えて、壁を破っていきます。基礎的な文法について「わからないので、教えてください」と聞きに来ることはありません。

― そうした差は、いつ頃から生まれるのでしょうか。中1は小6の延長のようにも感じますが、最初は少しずつ積み上げていくものなのでしょうか。

尹先生:中1は、実はかなりバラバラです。すでに自分で回せている子もいれば、全くやれていない子もいる。

やれていない子の特徴として多いのが、中学受験で燃え尽きてしまっているケースです。週7日で塾に通い、毎日やらされて、合格したら「もう勉強しなくていい」と気が抜けてしまう。志望校やコースまで親が決めていた場合ほど、中学校に入ってから勉強しなくなることは多いですね。

― 中1のスタートは、やはり重要なのでしょうか。

尹先生:ものすごく大事です。中1の1回目の中間テストで非常に良かった子が、6年間で大きく下がったというケースはほとんど見たことがありません。

最初の段階で、「自分で考えて進める」「止まらずにやり切る」というマインドセットができるかどうか。中1のスタートで差がつく背景には、小学生のうちに「止まらずに進む経験」をどれだけ積めているか、という土台の違いがあります。だからこそ、早い段階から、自律的に学べる子になってほしいですよね。

三田国際科学学園が育てる「自ら学ぶ力」。英語教育カリキュラムも自主性が特徴

― 三田国際科学学園の英語教育についても、ぜひ伺いたいです。先生が「自ら学ぶ」ように導くために意識されている仕掛けやカリキュラムはありますか。

尹先生:いろいろな取り組みはありますが、英語は6年間かけて育てていくものだと考えています。特に中1で一番大切にしているのは、「学習法を知ること」です。入学前は、私が担当する動画で、英単語を「どう覚えるか」といった学び方を伝えています。最初は苦戦していた子も、同じ方法を繰り返すうちに平均点は急上昇。中2になる頃には、単語の学習をこちらが細かく指示することはほとんどなく、子どもたち自身で覚えられるようになります。

「学習と習慣を科学する」ゼミのメンバーは先生の著書のイラストなどにも協力。

― 中2から始まるゼミも、特徴的ですよね。尹先生のゼミは大人気だとうかがいました。

尹先生:ありがとうございます(笑)。私のゼミでは「学習と習慣を科学する」をテーマにしています。学習はどうしても主観的になりがちですが、サンプル数1の成功体験ではなく、多くの人に当てはまる考え方を探していく。そのために、本を読んだり、議論したりしながら、情報を選び、考える力を育てています。最終的には、学び方を自分で選び取れる人になってほしいですね。

尹 龍貴 セルバ出版 1,870円(税込)

三田国際科学学園中学高等学校で現役教員として教壇に立つ著者が、これまでの実践と研究をもとに「本当の勉強法」をまとめた一冊。やみくもな努力に頼るのではなく、科学的根拠に基づく学習法を通して、成果につながる学び方を提示する。学生生活だけでなく、その先の人生を主体的に切り拓く力を育てる点が大きな特徴だ。中高生はもちろん、中学受験に向き合う小学生や、資格試験に挑む大学生・社会人にも役立つ内容となっている。

お話をきいたのは

尹 龍貴(ゆん たつき) 三田国際科学学園中学校・高等学校 英語教諭

1988年、埼玉県さいたま市生まれ。University of York(イギリス・ヨーク大学)大学院修士課程修了。英語科教諭。2016年より三田国際科学学園中学校・高等学校に赴任し、中1から高3まで全学年を担当。生徒一人ひとりの自律性を育てる教育を追求し、「生徒と共に学び、共に成長する教師」を信条とする。英語コーチング協会認定英語コーチ、イングランドサッカー協会認定指導者、学習コンサルタント。Aoba Learning Base代表(2026年設立予定)。

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取材・文・撮影/黒澤真紀

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