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発達に特性がある子どもの”大好きなほう”を伸ばしていけるほうが、明るくていい
Branchは発達障害や不登校の子どもとそのご家族に向けた、オンラインとオフラインのサービス。それぞれに好きな分野や得意なことがあるメンターと呼ばれるスタッフが、子どもの“好きなこと”に1対1でじっくり寄り添うプログラムが大きな特徴です。
――Branchを開設したきっかけやエピソードを教えてください。
中里さん 僕の息子が小学1年生のときに発達障害と診断されました。
当時の彼にはいろいろな凸凹があり、学校に行けなくなった時期もありましたが、レゴが大好きで、言語能力も高く、そういったいい面を伸ばしていけたらいいなと思ったんです。
そんななか、東大レゴ部が東大の学園祭に出店していることを知り、息子を連れて行きました。目をキラキラさせてレゴ部の方に質問をしている息子を見て、大人になってもレゴブロックを続けている人とレゴブロックが好きな子どもをマッチングさせるのはどうかなと思いつき、現在行っているメンターサービスを作った形です。

――発達障害や不登校の支援としていろいろな形が考えられるなかで“好き”をテーマにしたのには理由がありますか?
中里さん 今お話しした息子のエピソードのほかにも、このサービスをつくる際、実際に療育を受けられている方、放課後等デイサービスを運営されている方などいろいろな方にお話を聞いたら、どちらかというとマイナス面をゼロに戻すようなこと、例えば集団生活が苦手な子どもがどうしたらなじめるようになるのか、というアプローチが多かったんです。
僕はそれも大事だと思っていますが、自分の息子を見る限り、レゴや言語能力という「好きなことや得意なこと」を伸ばすほうが、明るくていいんじゃないかと思いました。
――保護者からは”好きなこと”に対する要望や需要もありましたか?
中里さん そうですね。サービスインする前にFacebook広告を出して100人くらいの保護者さんにインタビューしたら、自分の子どもの凸凹の凸の伸びている部分をどう育んでいったらいいかわからないと言っている方が結構いて。親が教えられる範囲を超えていることの方が多いと思うので、わかる大人が近くにいてくれたらいいんじゃないかというのも発想のスタートです。
子どもの“好き”に寄り添う大人と、1対1で自分の好きなことを一緒に楽しめる
――実際のサービス内容を教えてください。
中里さん 完全オンラインの「Branch home+」と東京都渋谷区代官山に教室があるオフラインの「Branch room」の2つのプランがあり、好きな方を選べます。
どちらもメンターと呼ばれる、子どもの“好き”に寄り添う大人と1対1で自分の好きなことを一緒に楽しめる“好きなことプログラム”と、 “好き”を通して、認められることで自信がつく居場所“好きなことコミュニティ”を利用できます。
“好きなことプログラム”は、「Branch home+」の場合はオンライン、「Branch room」では実際の教室にボードゲームやレゴブロック、鉄道に関するものなども置いてあり、そのときに子どもがやりたいことを対面で遊べます。
コミュニティはともにオンライン形式で、子どもたちが遊ぶ場所と保護者同士が相談する場所の2つがあります。

――メンターがいる“好きなことプログラム”は、主にどんなジャンルがあるのでしょうか。
中里さん うちの場合は、不登校になった直後で家から出られない、学校も勉強も嫌になり、大人への信頼感も失われているからこそ、好きなことを家でやるしかない、という状況が多いのでゲームをやる子が多いです。
そのほかにも、マイクラから派生してプログラミングをやっている子、鉱物の教授のメンターさんがいるので石が大好きな子も定期的にきます。昔から折り紙も人気です。展開図を作るためのツールがあって、それをメンターさんと子どもが一緒にやることもあります。
――家から出ることが苦手でも、“好き”なことの先輩と一緒に遊んだり学んだりできる貴重な機会ですね。メンターはどう探していますか?
中里さん メンター探しについてはこれまでに変遷があります。最初は科学実験できる人、生物について詳しいなど子どもの好きなことを大人になっても続けている人を探して、大学の研究室やサークルにメールで問い合わせて依頼をしました。今はメンターの紹介で来ることが多いですね。
また、高校生になるとアルバイト代を払えるので、通っていた子には積極的にメンターになってもらっています。慣れた場所で、さらにオンラインの仕事でアルバイト代がもらえるというのは、社会へのつながりのきっかけにもなると思うんです。
彼らは自分自身が不登校だったため不登校の子の気持ちがよくわかりますし、通っている子も大人に言われるよりもちょっと年上のお兄さんから言われるほうが、自分の道しるべやロールモデルになると思うんです。例えば鉄道好きで今学校に行っていない子どもからすると、鉄道好きで昔学校に行ってなかったお兄さんが、どう外に出て行ったかを知りたいだろうし、その答えも刺さると思うんです。

――担任制ですか?
中里さん いえ、予約をする際にメンターを自分で選べるので、不信感が強い子ほど毎回同じ方を選びがちです。少しオープンになってきたころにいろんな人と触れ合いたいと、月4回あるうちに全部違うメンターを選ぶこともあり、それも成長ですし、うれしいな、よかったなと思いますね。
マイクラや推し活、鉄道まで! 好きなことを部活動にして楽しむ
――コミュニティはどんな活動をしているのでしょう。
中里さん 子どもたちの方は部活動があって、マイクラPVP部、マイクラ建築部などマイクラやゲームに関するものは多いです。また、推し活部、友だち作りたい部などがあり、好きな物について話したり、子どもたち同士でつながりを持ったりしています。
また鉄道部も部員が絶えません。鉄道好きには特徴があって、つながりを作るのがうまいなと感じます。鉄道好きの子は例え不登校でも「鉄道を見に行きたい・乗りたい」という欲求から家から出られて、遠出も嫌がらないので、オフ会を開いて、県をまたいで鉄道に乗りに行きます。
――いろいろな好きなこと、得意なことが集まっていますが、文化祭のようなイベントは行っていますか?
中里さん オンラインでは、部活のなかのイベントとしてフォートナイトやマイクラ、ボードゲームを日常的にやっています。
ほかにも、現在(25年11月時点)オンライン文化祭に向けて、作品を募集しています。オンライン上の作業に長けている子が多くいて、みんなAIも使いこなすので、曲を作ったり、キャラクターを動かしたり、ポケモンカードを大量に自作し、1枚ずつめくる動画をアップしたり、みんないろいろなことができるので、大人は追いつけない感じかもしれないですね。
北海道から沖縄まで全国の子どもが参加! なかには海外からの参加者も
――これまでにどんなお子さんやご家族が利用されていますか? 年齢や住まいはさまざまでしょうか?
中里さん これまで小学校・中学校向けとしていましたが、中学校を卒業してもBranchに残りたいと言ってくれる子が多かったので、今年(25年)の6月から高校生までOKとしました。
以前は小学校高学年が一番多くいましたが、今は高学年から中学生が多くなっています。オンラインを選ぶ家庭が多いこともあって、住まいは北海道の方も沖縄の方もいらっしゃいます。発達障害や不登校の子に限定しているわけではないので、海外在住の方が日本に戻ってくる下準備として、情報収集と友だち作りをしたいという理由で利用されている方もいます。
「子どもを尊重する」「子どもがやりたいことを誘導しない」がルール
――Branchをはじめてよかった! と感じられた出来事はありますか?
中里さん 発達に特性があり、それを気にして学校に行けなくなった、自分がマイノリティな存在であると悩んで社会への不信感を抱いている、親御さん以外とは半年ぐらいコミュニケーションをとっていない。
そのような状態で来ていたお子さんが、「利用して半年ぐらいで外出できるようになりました」とか「友だちっていう友だちが初めてできました」とか「外へのつながりができて、子どもの笑顔が増えた」。ほかにも、「Branchに来たことで社会への不安がなくなった」など、変遷を聞かせていただくのがうれしいです。
――そこに至ったのは、子どもの大人への不信感を払しょくしたからだと思います。子どもと接する際に心がけていることを教えてください。
中里さん グランドルールとしてスタッフに言っているのは「子どもを尊重する」ことです。
例えば、親御さんが期待していることと子どもがやりたいことがずれていることが結構あるんです。親御さんとしては“好きなことプログラム”をやる1時間の間で知識やスキルを身に付けるなど勉強的なことをしてほしい、でも、子どもにとっては、”ここだったら自分のやりたいことをやらせてくれる”と思えることが居場所の第一歩です。そうなるために、親御さんには「ここでは子どもがやりたいことをやりますよ」と伝えています。
似ていますが、「子どものやりたいことを誘導しない」ことも大切にしています。
親御さんが「うちの子は●●が好きなので、●●をやると思います」と言っていて、実際に子どもに聞いてみると「それ、僕全然好きじゃないんだよね」ということもあります。だから、「誘導はしないで、子どもがやりたいことをやります」と、最初から親御さんには断言しています。
発達に特性のあるお子さん、不登校のお子さんの居場所を作ることを引き続きやっていきたい
――最後に、Branchとして今後のビジョンを教えてください。
中里さん 発達に特性のあるお子さん、不登校のお子さんの居場所を作ることは、引き続きやっていきたいと思っています。加えて保護者さんの支援やコミュニティづくりも頑張っていますので、そちらも維持していきたいです。
新しいこととしては、長期的には自立するまで支援したいです。就職するとなると22、23歳になってしまうので、その前の段階を細かく分解して“進路”だったらお子さん、親御さんにどんな支援ができるかを考え、長いスパンでフォローしていくような企業になりたいと思っています。
中期的なものとしては、今、podcastで【親の「のろい」をとくラジオ-子育てのべき思考を手放す時間-】を「雑談の人」という看板を掲げる桜林直子さんと一緒にやっています。こちらは発達障害や不登校に限らず子育て全般の話を多くの方に聞いていただいているので、こちらのコミュニティなど間口の広いサービスを作っていきたいと考えているところです。
ネガティブな面でなく、伸びていること好きなことに注目することで自信が持てる
子どもに特性があったり、学校に行けないなどネガティブと思える状況になったりすると、どうしてもマイナスな面に意識がいきがちですが、そうでなく伸びている部分、好きな部分にフォーカスすること、そしてそれを一緒に楽しんでくれる大人がいることで、子どもも親御さんも前を向け、自信を持てるようになるのだと感じました。自宅を出るのがつらい状況では、それをオンラインで体験できるのも貴重な機会です。気になった方は、ぜひホームページなどをチェックしてみてくださいね。
お話を伺ったのは
早稲田大学卒業後、㈱サイバーエージェント入社。子会社の役員など約7年務めた後にサイバーエージェントから投資を受ける形で独立。自分の子どもがレゴが好きで、東大レゴ部の方に会いに行った時に目をキラキラさせていたのを見てこのサービスを思いつきました。好きなことは、漫画やアニメを見ること、音楽を聞くこと、サウナ、トレイルランニング、かなり多趣味です。Branchの子どもたちに鍛えられて子どもが好きな遊びはたいていできるようになりました。
取材・文/長南真理恵