「答えのあるクイズは得意。でも大学以降の“答えのない問い”に向き合う学びには苦労した」クイズ王・伊沢拓司さんと画家・真田将太朗さんが講演会で語った“学びの深め方”【QK GO特別編レポート】

2026年5月13日、東京・目白にある中高一貫の女子校「私立川村中学校・高等学校」で、講演イベント「教科書の先を楽しみつくす学び方 with 画家&クイズ王 -QK GO特別編!-」が開催されました。主催はQuizKnockによる学校訪問プロジェクト「QK GO」。今回はクイズ王・伊沢拓司さんと、アート系クリエイター集団「アートゥーン!」で活動する画家・真田将太朗さんが登壇し、探究学習をテーマにした特別編が実施されました。

知ることや学ぶことの楽しさを届けるため、QuizKnockが2019年から無償で全国の学校を訪問している「QK GO」。今回の特別編では、クイズとアートという異なる表現領域を行き来しながら、「正解のない問題」にどう向き合うかが語られました。講演では、ライブドローイングや生徒参加型のワークも行われ、会場にはその場でしか生まれないやり取りが広がっていました。

QK GOの活動内容とは?

QK GOは、QuizKnockが2019年4月から取り組んでいる学校訪問プロジェクトです。知ることや学ぶことの楽しさ、進学・進路に関する情報などを多くの人に伝えることを目的に、全国の中学校・高校を無償で訪問し、クイズ・教育をテーマにしたレクリエーションや講演会、ワークショップなどを実施しています。

QK GOは2025年に47都道府県への訪問を達成。今回の川村中学校・高等学校での講演は、その一環として行われました。さらに今回は、QuizKnockと同じく株式会社batonが運営するアート系クリエイター集団「アートゥーン!」とのタッグによる特別編。探究学習にフォーカスし、伊沢さんと真田さんがそれぞれの視点から「学び方」をひもとく講演となりました。

「答えのある問い」と「答えのない問い」、伊沢さんが語った今回のテーマ

講演の冒頭では、まず伊沢さんと真田さんが軽快なやり取りで会場を和ませます。真田さんはその場で絵を描き始め、画家という自身の仕事について紹介。伊沢さんは生徒からクイズを出してもらい、クイズ王としての顔を見せました。

そのうえで、本題となる進路や学びの話へ。伊沢さんは、自身の経験をもとに、学びには大きく分けて2つあると話します。

伊沢さん世の中にある学びって2つあるなと。答えのある学びと答えのない学び。高校までの学びは前者が多くて、大学の研究とか、探究学習は後者。もっと言うと、自分で答えのない問いを見付けてきて、それについて調べて、こんな発見がありましたということを報告する。それが大学以降の勉強になってくるわけです。

本講演のテーマは「正解のない問いにどう向き合うか」

クイズは「答えがあるものを解く」営みであり、伊沢さんはそれが得意だった一方で、大学で求められた「答えのない問い」に向き合うことには苦労したそう。そう率直に振り返りながら、伊沢さんはその後の仕事を通して、少しずつ向き合い方を見付けていったと語りました。

そしてこの日の講演で何度も示されたキーワードが、「アンサー」と「レスポンス」です。

伊沢さん正解のない問いに立ち向かうときに必要なのは、「答え」=アンサーではない。何度も繰り返す「応え」=レスポンス。これが大事なんじゃないかなと思っています。

大きな問いに対して、まずここは分かるな、とりあえずこれは実行できるなというという小さなレスポンスを出す。少し分かるとまた新たな問いが生まれて、さらにそれにレスポンスをしていく。問いとレスポンスを繰り返す中で、だんだんと正解や真理に近づいていく。これを繰り返すことが、答えのない問いへの取り組み方なんじゃないかなと気づいたわけです。

常に生徒と同じ目線で話していた伊沢さん

クイズ王としての道も、誰もやったことのない「正解のない問い」だったと伊沢さんは語ります。そんな実感を込めた言葉に、生徒たちは真剣に耳を傾けていました。

真田さんのライブドローイングで見えた探究のプロセス

今回の講演の大きな見どころのひとつが、真田さんによるライブドローイングでした。まずは学校の正門の風景を木炭で描き、その後、その絵をもとに抽象化していく過程が会場で披露されました。

真田さんは、最初に目に入ったものや、その景色の中で強く印象に残ったものを軸に構図を考えていきます。近代の西洋的な建物(校舎)と、その中央に大きな自然物=木が1本生えている様子が印象深かったと真田さん。

記憶をもとに躊躇なくサッサッと風景を描いていく真田さんの姿はさすがプロ!

その後、真田さんは具象的に描いた風景を、印象や感覚を残しながら大胆に変えていきます。建物は「壁」のような圧迫感として、木はその場で最も強く感じた存在として再構成されていきました。

真田さん建物がコの字型なんですよね。だから集中線というか消失点というか、自分の目線に立ったときに木のあたりを中心として建物が真ん中に向かっていっている。木にエネルギーがあって、広がっていくイメージはこの構図だったら伝わるので、どちらかと言ったら学校の堅牢な建築としての雰囲気のほうをとりたい。

具象画を抽象画に変化させていく過程を披露

校舎の硬い“壁感”を出すために木炭で大胆に黒く塗り重ねる真田さん。具象から抽象に向かう中で真田さんが手を加えるたび、会場からは「お~」「へ~!」などと声があがりました。

伊沢さんもそのプロセスを見ながら、真田さんの制作が「問いとレスポンス」の連続であることを引き出していきます。

真田さん:これくらい描いていくと、さっきリアルに描いた絵よりも若干見応えが出てきたような。

伊沢さん:パワーがあるよね。真田が伝えたい“壁感”が、最初の絵よりも圧倒的に印象が強くなっている。

真田さん:僕が最初に正門を見て受けた印象はこんな感じです。これが抽象化するということになるわけですね。

描くことは、見たものをそのまま写し取る行為ではなく、自分が何を見て、何を見ていなかったのかをたどり直す行為でもあること。その過程が、生徒たちにも視覚的に伝わる時間になっていました。

生徒参加型ワークで体感する「問いとレスポンス」

講演中盤では、生徒たちが参加する2つのワークが行われました。

1つ目は「今日1日で印象に残ったものを描く」というもの。真田さんは、大切なのは「うまさじゃない」と語り、生徒たちが完成させた絵について「なぜそう描いたのか」を問いかけます。作品を描くことそのものだけでなく、何をどう捉え、表現したかを言葉にするプロセスは、まさに「正解のない問い」に対する「レスポンス」の実践でした。

生徒たちの描いた絵を見せてもらいながら、対話を重ねる二人

続くワークは「3回で真円を描く」という、「正解のある問い」への挑戦です。生徒たちは試行錯誤を重ね、伊沢さんはその過程で「過去や他者と比較することで新たな問いが生まれる」と解説。このワークは、学校で学ぶ「答えのある問い」の経験が、社会で求められる「答えのない問い」に向き合うための土台となることを示していました。

伊沢さんは講演の最後に、こう締めくくっています。

伊沢さん答えのない問いに対して、みなさんが少しずつ、こうかな、こうかな、というレスポンスを投げかけ続けながら立ち向かっていただけたら、僕はうれしいなと思います。

クイズの実演に笑いが起こり、ライブドローイングに見入り、生徒たちが自分の絵を見せながら言葉を探す。そんな時間を通して、「答えのない問い」に向き合うことは難しさだけではなく、面白さを伴うものだと感じられる講演会でした。

講演後の取材会で語られた、伊沢さん&真田さんからのメッセージ

特別編開催の経緯「真田の絵を描くときの深め方が面白い」

――今回、お二人で特別編をやることになったきっかけを教えてください。

伊沢さんキャリア教育などで最近は探究学習に対しての興味が広がっています。答えのない問い、問いを深めるみたいなことのロールモデルが真田だなというのはかねてずっと思っていたところでした。

深夜に飲んでいるときに、「真田の絵を描くときの深め方が面白いよね」と、言ったような、言っていないような…(笑)。そういうことで、このプロジェクトが立ち上がりました。

真田さん僕たちがやっている仕事はなんなんだろうか。物を作ったり演奏したりというのは、世の中に対するどういう応え方なのかというのを考えたときに、自分なりにやってきたこと、それ自体を正解にする仕事だなとは常々思っていて。伊沢さんがやってきたクイズとは、世の中の問いに対する応え方が違う。

似ているようで違うキャリアを歩んだ2人が学生の皆さんに向かって、こういう応え方もあるし、一方でこういう応え方もあるという解説をさせていただくことで、皆さんの今後の指針の1つになれたらいいなと思って参加させていただきました。

「正解のない問い」を探究する子に育てるために、親ができること

――今回のテーマである「正解のない問い」に立ち向かえる子どもに育てるために、保護者はどう寄り添ったらよいのでしょうか。

伊沢さん:最初は、問いの道を舗装してあげることが大事かなと思います。疑問を抱いたときにそれをつぶさない、大事にしてあげる。 答えを出すわけじゃなくて、問いを投げかけてあげる。こういった場合はどうか、といった別の選択肢を提示してあげる。

今日、比較を通して問いを提案してきましたが、まさにその比較材料を用意してあげることは周りの力だと思います。

真田さん日本には「守破離」という言葉がありますが、守るべき部分、最初のステップアップの部分に関しては、それこそ舗装というか、親御さんがある程度整えてあげたほうがいいかなと。ただ「破」と「離」の部分、学んできたことや教養を使いながら、あるいはそれを破壊しながら、次のステップに進んで独自の発想で何かやることは、自由度を持ってやらせてあげるのがいちばん大事だと思います。

――今回、生徒さんからの質問コーナーでは勉強のやり方についての質問も多かったですが、子どもの疑問としてよくありがちな「なんで勉強しなきゃいけないの?」という問いには、お二人ならどう答えますか。

伊沢さん僕は多分質問返しします。 「なんでそんな疑問を持ったの?」って。むしろこれこそが学びのきっかけになる。本人の学びに対しての意識感がどのようなものかを問いかける1歩目。レスポンスを繰り返し、何を学びたくて何が嫌なのかという課題意識をともに見付けていく、ともするとビジネス的な掘り下げをやりますから、人によっては嫌がられるでしょう(笑)。

真田さん僕は少し現実的な話をすると(笑)、よく「語彙力」という言葉を使って説明します。

語彙力があるというのは、同じ意味を表すいくつかの言葉の中から、その場に合った言葉を選び取れるということだと思うんです。自分の中に、すぐに切れる手札みたいなものを何パターンか持っておく。相手がどういう立場で、どれぐらいの知識を持っていて、どういう状況でその場にいるのかを考えながら、その場に合った言葉のカードを切ることができる。

そのためには、やっぱりたくさんの手札を持っておく必要があります。その数を増やすことが、人に何かを伝えるための最低条件だと思うので、勉強しておいたほうがいいよ、ということは伝えたいですね。

問いを重ね、自分なりの「応え」に近づいていく時間

QK GO特別編は、知識を得る場であると同時に、自分で問い、自分で試し、自分の言葉や表現で返してみる場でもありました。クイズ王と画家、異なる道を歩んできた2人のやり取りは、学びの幅広さと奥行きを、会場にいた生徒たちに強く印象づけたはずです。

これからのQK GO、そしてQuizKnock、アートゥーン!の活動にも注目です。

QuizKnockとは

QuizKnock(クイズノック)は、クイズ王の伊沢拓司さんが中心となって運営する、エンタメと知を融合させたメディア。「楽しいから始まる学び」をコンセプトに、何かを「知る」きっかけとなるような記事や動画を毎日発信中。YouTubeチャンネル登録者は260万人を突破し、2026年10月2日に迎える10周年に向けて「QuizKnock10周年プロジェクト」を展開中です。

アートゥーン!とは

「芸術をもっと身近に」をコンセプトに、真田将太朗さんをはじめとした東京藝術大学出身のメンバーで結成されたアート系クリエイター集団。 美術や音楽を軸に、芸術の楽しさや奥深さを体感できるエンタメコンテンツを発信しています。2024年8月よりYouTubeチャンネルを開設し、現在は登録者数18万人を突破しています。(2026年5月時点)

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取材・文/HugKum編集部

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