亡き息子の姿をしたヒューマノイドを迎えた夫婦! 名匠・是枝裕和監督作『箱の中の羊』は親世代必見!

第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された、綾瀬はるか×大悟(千鳥)のW主演、是枝裕和監督最新作『箱の中の羊』がいよいよ本日より公開です。子どもを亡くした夫婦が、息子の姿をしたヒューマノイドを迎えるという物語。今の時代、すでにこの設定はSFのジャンルを超え、かなり地続きの物語となっている分、観る者にリアルな課題を投げかけられます!

是枝裕和監督が描く、ある家族の形。大事な家族の死といかに向き合うか

©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.

是枝裕和監督といえば、日本を代表する名匠の1人ですが、テーマとして様々な家族の形を世界に問いかけてきた監督でもあります。カンヌ映画祭に特化して言えば、柳楽優弥に史上最年少および日本人として初の最優秀男優賞をもたらした『誰も知らない』(2004年)では、育児放棄された子どもたちを描き、審査員賞受賞作の福山雅治主演映画『そして父になる』(2013年)では、親と子どもとの血のつながりについての葛藤を掘り下げました。

また、カンヌ最高賞のパルムドール受賞作『万引き家族』(2018年)や、エキュメニカル審査員賞と主演のソン・ガンホが韓国人俳優初の最優秀男優賞を受賞した『ベイビー・ブローカー』(2022年)で紡ぎあげたのは、逆に血のつながりを持たない家族の絆でした。そんな中、是枝監督が新たなオリジナル脚本で描く最新作『箱の中の羊』は、最新のテクノロジーで、亡き息子を蘇らせた夫婦の物語です。

主演は、現在公開中である主演映画『人はなぜラブレターを書くのか』も高い評価を受けていて、今年は“映画の当たり年”である綾瀬はるか。綾瀬さんと是枝監督とは『海街diary』(2015年)以来のタッグとなりました。もう1人の主演は、お笑いが主戦場である千鳥の大悟。以前から俳優としても活躍していますが、本作では重責ある映画初主演となり、今年は“映画俳優開眼の年”となりそう。

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また、息子の翔(かける)とヒューマノイドを演じたのは、200人のオーディションから抜擢された桒木里夢(くわきりむ)。彼は、映画初出演どころか、本格的な演技も初挑戦と聞いてびっくり。子どもの演出にも定評がある是枝監督ですが、今回も綾瀬さんたち3人での親子のやりとりが実にナチュラルです。そして、そこが自然体であればあるほど、息子を亡くした親の喪失感もよりくっきりと浮かびあがり、大切な人の死を乗り越えていくということは、一筋縄ではいかないことだと、痛感させられます。

劇中に散りばめられた「星の王子さま」や木の温もり

©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.

綾瀬さんが演じるのは、建築家の音々(おとね)。そして大悟さんが演じるのも、工務店の2代目社長を務める健介と、“建築”つながりの夫婦です。彼らは2年前に、息子の翔を不慮の事故で亡くしていますが、その理由は最初から明かされません。ただ、翔の死が、この夫婦にある“しこり”を残しているらしいことは伝わってきます。

そんな夫婦が迎え入れたのが、息子の姿をしたヒューマノイド。見た目は翔そのものだし、物腰についてもまったく違和感がなさすぎです! なので、その姿を見た音々の第一声は、喜び全開の「おかえり、翔!」でしたが、健介は「いらっしゃい」と、戸惑いを隠しきれない様子。これ、どちらのリアクションも非常にうなずけました。

ところが、最初の反応と違って、やがてヒューマノイドの息子の特性を少しずつ受け入れ、歩み寄っていく健介に対し、だんだん違和感やある種の嫌悪感さえ抱いていく音々。最新の生成AIを使った翔は、だんだん成長を遂げ、夫婦の知られざる行動をとっていきます。そんな翔と向き合いながら、音々と健介は、今まで口に出せなかった息子の死への想いを吐露することに……。

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是枝監督のオリジナル脚本は、丁寧な取材を経て作られるので、説明台詞がなくても、キャラクター造形やセットも含めたすべてのものが多くのことを物語っています。例えば、最新生成AIという無機質なものと対比しているかのような有機物である“木”という素材が、あちこちに散りばめられています。夫婦の職業が建築に携わっていること、家族の歴史を見つめていく庭の木などもしかり。また、音々という名前にも込められた“音”へのこだわりも見え隠れします。

タイトルの『箱の中の羊』は、サン=テグジュペリの「星の王子さま」からつけられたそうですが、劇中でも様々なシーンで登場。是枝監督の「目に見えないつながりや目に見えないものの大切さを描きたい」という想いが、随所から伝わってきます。

©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.

夫婦のやりとりも実に生々しいので、HugKum世代のママやパパたちは、大いに感情移入できそう。是枝監督によると「初めは家族の物語として脚本を書き始めましたが、夫婦の物語として着地したのは、綾瀬はるかさんと大悟さんが魅力的だったから」と語っていますが、音々たちの親としての顔、そして妻と夫としての顔が存分に引き出されています。

特筆すべきは、音々の母親(余貴美子)や、翔以外のヒューマノイドと暮らす親たちも含め、いろいろな親が差し込まれている点も是枝作品ならでは。親の心無い虐待は、過去の是枝作品でも描かれてきましたが、そういった面も、一部、登場人物のバックグラウンドとして入れ込んであります。物語は決して予定調和に進みませんが、そこに説得力を持たせるのは、そういうぬかりのない設定の成せる業かと。

時代を超えてもなくしたくないものとアップデートしていくものを考える

最後に1点だけ、是枝監督が、カンヌ映画祭での会見で語った言葉をご紹介させてください。それは、是枝監督が本作を作る上で読んだという、建築家の西沢立衛さんの本にあった内容について触れたコメントです。 「建築家は模型を手放さず、自分の手で形作った模型というものがいちばん建築という世界を把握するために重要だと考える人たちが多いということを知り、それにすごくシンパシーを感じました」とのこと。

さらに「手作業を無駄ととらえず、人間がふんばっていくということが映画作りにおいても大事なのかなと思います。効率化は労働時間を短くするためには必要な部分ではあるのですが、その場その瞬間にしか生まれない奇跡もあると思っていて、そういう瞬間を求めて映画を作っています。人間の営みとして」とも言っています。

そういう意味では、時代を超えてもなくしてはいけないものを再確認しつつ、これからくる未来に備えて、何をアップデートしていくべきかと考えさせられるという心の準備もできそうな『箱の中の羊』。特に子育て中のHugKum世代の方には、より一層響く人間ドラマになっていると思いますので、ぜひ映画館でご覧ください。

『箱の中の羊』は5月29日(金)より公開中
監督・脚本・編集:是枝裕和 音楽:坂東祐大
出演:綾瀬はるか、大悟、桒木里夢、清野菜名、寛一郎、余貴美子、田中泯…ほか
公式HP:gaga.ne.jp/hakononakanohitsuji/

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この記事を書いたのは

山崎伸子 ライター

三重県出身の映画ライター、編集者、時々カメラマン。ファミリー向けエリア情報誌編集長を経てフリーに。2022年より高知へ移住し、時々上京。映画やドラマなどのエンタメ関連のインタビューや舞台挨拶、コラムなどをメインに執筆。好きな俳優はブラッド・ピット、生涯ベスト映画と座右の銘は『ライフ・イズ・ビューティフル』。好きな動物はパンダで、家中がパンダまみれ。趣味はゴスペル、ケーナ演奏、食べ歩き、顔ハメ写真撮影。お酒好きが高じ、2024年に土佐酒アドバイザーを取得

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