「ヤバい」「すごい」は悪い言葉ではない

――子どもが「ヤバい」「すごい」など短い言葉ばかり使うと、不安になる保護者もいると思います。
荒木さん:もちろん、ご家庭によって考え方はさまざまだと思います。ただ、「ヤバい」や「すごい」という言葉をすべて否定する必要はないと考えています。大切なのは語彙力ではありません。「何がヤバいのか」「何がすごいのか」という部分です。その子が何を見て、何を感じたのかを一緒に考えることが、言語化につながります。
最近は言語化が大切だと言われていますが、「何を言語化するのか」という視点は意外と語られていません。
私は本の中で、「良い言語化」と「悪い言語化」について書いています。自分の考えを言葉にしていても、それが独りよがりだったり、周囲を傷つけたりするものもあります。一方で、言葉にすることで周囲に良い影響を与えることもできます。言語化は、ただ自分の思いを表現するためだけではなく、人との関係をより良くするためにも役立つものだと思っています。
また、子どもが「ヤバい」と言ったときに、「何がヤバかったの?」「どこがすごかったの?」と聞いてみるだけでも違います。子ども自身も、なぜそう感じたのかを改めて考えるきっかけになります。言葉を増やすことよりも、感じたことを言葉にしてみる経験を重ねることのほうが大切だと思います。
子どもの言葉を引き出す会話のコツ

――荒木さんご自身は、お子さんとの会話の中で、言葉を引き出すためにどのようなことを意識していますか。
荒木さん:子どもと話すときは、まず出来事を聞くようにしています。例えば、「今日はどうだった?」と聞くと、「楽しかった」で会話が終わってしまうことがあります。大人でもそうですが、いきなり気持ちを聞かれても、うまく言葉にできないことがあります。そこで、まずは「今日は何をしたの?」「誰と遊んだの?」など、出来事から聞くようにしています。その後で、「どう思った?」「どんなところが楽しかった?」と気持ちを聞いていくのです。
出来事を話しているうちに、子ども自身もその日のことを思い出します。その中で、「実はこんなことがあった」「少し嫌だった」「うれしかった」といった気持ちが自然と出てくることもあります。
私自身、以前は保育園から帰ってきた子どもに「今日はどうだった?」と聞いていました。しかし、それだけではなかなか会話が広がりませんでした。子どもが話しやすい順番を意識するだけで、会話の内容は大きく変わると思います。
子どもが話した言葉を深掘りする
――思春期になると、「何を聞いても一言しか返ってこない」と悩む保護者も少なくありません。そうした子どもと会話をするときのコツはありますか。
荒木さん:すぐに答えが返ってこなくても待つことだと思います。子ども自身がまだうまく言葉にできていない場合もありますし、自分の気持ちが整理できていないこともあります。そんなときは、答えを急がせるのではなく、ヒントになるような問いかけをします。
例えば、「どこが好きなの?」「いつ楽しいと思ったの?」など、その子が使った言葉を深掘りしていきます。これはインタビューの仕事でも意識していることです。相手が使った言葉を手がかりにしながら、少しずつ考えを引き出していきます。子どもとの会話でも同じで、親が答えを用意するのではなく、子ども自身の言葉で考えてもらうことを大切にしています。
子どもの“いいところ”を日々、言葉にする

――ご自身の子育ての中で、「言語化」について考えさせられた出来事はありますか。
荒木さん:保育園の書類で、子どものいいところを書いてくださいという欄があったのですが、それがなかなか書けなかったことです。毎日子どもと接しているのに、いざ言葉にしようとすると、ありきたりなことしか出てこなかったのです。それが自分の中ではショックでした。子どものことはよく知っているつもりでしたが、本当に見られていたのだろうかと考えさせられました。
それをきっかけに、妻と共有の「子ども日記」をつけ始めました。その日にあった出来事や、自分たちが感じたことを書き残しています。毎日続けられなくても構いません。気づいたときに記録するだけでも十分です。子どものいいところは、その瞬間には気づいても、時間が経つと意外と忘れてしまいます。一度言葉にして残しておくことで、子どもへの見方も少しずつ変わっていきました。
また、夫婦で共有しているので、自分が見ていなかった子どもの一面を知ることもあります。同じ出来事を見ていても、感じ方や言葉の選び方は違います。「そんな見方もあるのか」と気づかされることも多く、子どもをより多面的に見られるようになったと思います。

「神経質」は「丁寧」とも言える
――子どもの“いいところ”を見つけて言葉にするために、大切なことはありますか。
荒木さん:一つの見方にとらわれないことだと思います。例えば、「神経質」という言葉があります。短所のように聞こえるかもしれませんが、「丁寧」「気がつく」「慎重」と言い換えることもできます。同じ特徴でも、見方を変えると長所として捉えられることがあります。子どもを見ていると、どうしても気になる部分に目が向きがちです。しかし、その特徴が別の場面では強みになることもあります。
私は、子どものいいところを言葉にすることで、親自身の見方も変わると思っています。「この子はこういう子だ」と決めつけるのではなく、「別の見方もできるかもしれない」と考えることで、子どもとの関わり方も変わっていくのではないでしょうか。
絵本や映画の感想が言葉を育てる

――家庭で今日から取り入れられる「言語化」のヒントがあれば教えてください。
荒木さん:特別なことをする必要はないと思います。例えば、絵本を読んだあとや映画を観たあとに、「どう思った?」と感想を聞いてみるだけでも十分です。わが家でも、絵本を読んだあとや映画を観たあとに感想を聞くようにしています。「どの場面が印象に残った?」「主人公のことをどう思った?」といった会話をすることがあります。
もちろん、大人が驚くような感想が返ってくるわけではありません。年齢相応の素直な感想です。ただ、その子が物語をどう受け取ったのかを言葉にすること自体に意味があると思っています。読書や映画鑑賞はインプットですが、それを言葉にすることはアウトプットです。
最近は子どもも大人も、たくさんの情報に触れています。一方で、自分が何を感じたのかを言葉にする機会は意外と少ないのではないでしょうか。感想を話すことは、自分の考えを整理する練習にもなります。
「ありきたりの言葉」で十分
――最後に、「言語化が苦手」と感じている保護者へメッセージをお願いします。
荒木さん:言語化というと、難しい言葉や特別な表現が必要だと思われがちです。しかし、私はそうではないと思っています。本のタイトルにもあるように、「ありきたりの言葉」で十分です。大切なのは、うまく言おうとすることではなく、自分が何を感じたのか、相手のどんなところがいいと思ったのかを言葉にすることです。
子どもに対しても同じです。日常の中で感じたことや、子どものいいところを少しずつ言葉にしていく。その積み重ねが、親子のコミュニケーションを豊かにしてくれるのではないでしょうか。
***
『言語化は「ありきたりの言葉」でうまくいく。』は、「言いたいことがうまく言葉にできない」「伝えたいことが伝わらない」と悩む人に向けた一冊。言語化に必要なのは語彙力ではなく、“いいところを見つける視点”だと説きます。「ヤバい」「すごい」といった言葉を否定せず、日常の見方を変えるヒントを紹介しています。
お話を伺ったのは
一橋大学卒業後、電通に入社。コピーライターとして手掛けたプロジェクトの数は100以上、活動は5大陸20か国以上。世界三大広告賞うちCannes LionsとThe One Showのダブル入賞他、国内外20以上のアワード獲得。著書『こうやって頭のなかを言語化する。』は累計20万部超のベストセラー。
この記事を書いたのは
美容師として働いた後、子育てをきっかけにWEBライターとして活動をスタート。現在は親子向けWEBメディアを中心に、子育て・教育・ライフスタイル分野の記事を執筆している。親子イベントや商品レビュー、専門家インタビューのほか、映画や配信作品のレビュー記事も手がける。
こちらの記事もおすすめ