「世の中の固定観念を、少しずつ覆してくれる一手になれたら」
脚本との出合い、そしてオファーを受けたワケ
――安田さんは企画から携わっていらっしゃいましたが、脚本を読んだときの率直な感想を聞かせてください。
安田さん:最初の実感は「ここからより進化していくな」っていうことでしたね。関わっていくうちにもっともっとブラッシュアップされて、どんどんよくなっていくんだろうなって思いました。それと同時に、この作品が世の中に出ることで、世の中が少しでも変わってくれるかもしれないという感覚がありました。
だって、世の中って本当に変わらないじゃないですか。人の考え方や人との接し方、“普通”っていう言葉に、何をそんなに右にならえで踊らされてんだろうって。いつも考えていたんです。「誰が決めた? 普通って」って。固定観念みたいなものって、なかなか動かない。そういうものがこの作品を通して一つずつ覆っていってくれる一手になれるかな、と感じましたね。

――のんさんは、監督から手紙をもらって脚本を読んで出演を決めたとのことですが、どんな印象でしたか?
のんさん:本当に素敵な物語だと思いましたし、届ける意義がたくさん詰まった作品だなと感じました。大貴と希の2人の日常が続いていく中で、困難が通過していったり、仲直りしたり……。その積み重ねの中で、大切な人と関わることへの希望を感じられる作品だなって思いました。
監督からお手紙をいただいたのにもびっくりしましたね。私が以前に出た短編映画で、若手監督育成プロジェクトの中の1作で一般には公開されていなかった作品だったのですが、それを監督が観てくださっていて、「そのときからいいなと思っていた」って手紙に書いてあったんです。「それなら!」と素直に思えました。

「のんちゃんがいなかったら、きっと違う作品になっていた」
徹底した役作りと、撮影現場で生まれた化学反応
――障がいを持つ大貴の日常や、言葉にできない大貴の心の中を、観ている側に想像させる演技が印象的でした。また、妹ながら時に姉のように大貴を受けとめる希の気持ちも胸を打ちます。安田さん、のんさんはどのように役作りをされたのでしょうか?
安田さん:「さくらんぼ教室」という、ASDなどの特性を持つ方々が通う教育機関を訪れて、4歳のお子さんから働いていらっしゃる方まで、10人以上にお会いしたんです。皆さんそれぞれに自分らしさがちゃんとあって、めちゃくちゃ和やかで温かい雰囲気でした。「障がい」という言葉が邪魔をするくらい、何ら変わりないんですよね。むしろ、僕たちの方がよっぽど気持ちを閉ざしていることもあるんじゃないかって思えるくらい。だから大貴という役を“なぞる”必要はなくて、オリジナルでいいんだと気づいたんです。計算してやったというより、セッションの中で生まれた芝居でしたね。のんちゃんがいてくれたからこそ、今回こういう仕上がりになった。1人じゃ絶対に無理でした。

のんさん:私も最初の撮影のとき、安田さんが演じる大貴を目の前にして、「あ、大貴がいる」ってすごくストンと心に落ちてきたんです。だから「希はこの人に対してこう接していけばいいんだ」というふうに思えました。安田さんの中に大貴がちゃんと存在してくださったおかげで、本当に希として入れたな、という感覚があります。
――のんさんご自身の役作りで、特に大きかったことは何でしょう?
のんさん: ASDのきょうだいを持つカウンセラーの方々、3人にお話を聞かせていただいたのが大きかったです。同じ質問をしても、皆さん違う答えを持っていらっしゃいました。印象的だったのは、ある方が「期待するしかない」とおっしゃっていたこと。期待しながらコミュニケーションを取ることが日常の一部、という感覚がすごく心に残りました。3人に共通していたのは、きょうだいはまず“家族の1人”ということが大前提で、「ちょっと違うかも」という情報は後から外側から入ってくる、ということ。だから希にとって大貴との日常はあくまで“日常”なんだ、というのがすごく大きな気づきになりました。

音楽でつながる2人、そして主題歌への思い
――お2人とも芸能のお仕事を始める前からギターをやっていたと伺いましたが、現場でも音楽の話で盛り上がったんですか?
のんさん:そうなんです! 音楽が先ですよね。それって2人の共通点としてすごく大きかったです。先日、安田さんのソロステージをフェスに観に行ったんですよ。もうほんとにかっこよくて、私もアコギでの弾き語りができるようになりたくて、今めちゃくちゃ練習しています(笑)。
安田さん:来てくれたんですよね、うれしかったです。僕も子どもの頃から音楽に浸っていたなぁ。子どものときの勉強机に、昭和の頃によく見たようなラバーのマットがあって、そこに音楽番組のランキングを毎日書き込んでいましたね。よく考えたらランキングなんて毎日はそんなに変わらないんですよ(笑)。それでもほとんど同じことを書き続けていて。なんで気づかへんかったんやろって。でもそのくらい音楽はずっと好きでしたね。

――安田さんは主題歌にもかかわられたそうですね。
安田さん:はい。プロデューサーさんとやりとりする中で「浮(ぶい)さんがいいな」と思って提案したら、みなさんも「いいね」となって。それで実際に撮影現場にも来てもらって、台本も読んでもらいました。上がってきた曲がもうほぼほぼ完成形でしたね。あとはBPM(*)を少し調整したり、楽器まわりをちょっと提案したりしたくらいで。実はのんちゃんも一緒に歌ったら面白かったかも、って頭の中でずっと構想していたんですけど、そのカードを出しきれなかったのが惜しかったですね。今日初めて言いました(笑)。
のんさん:入りたかった(笑)! でも完成した曲を映画のあとに聴いて、本当にグサっと胸に刺さりました。すばらしかったです。
安田さん:のんちゃんの音楽への感性って、僕が好きな方向性だと思うので、いつかぜひ一緒に楽曲制作とかできたら面白そうだなって思っていますよ。
のんさん:楽しそう! ぜひご一緒してみたいですね。
(*「Beats Per Minute(ビーツ・パー・ミニット)」:1分間に刻む拍数)
兄と妹の、不器用で真っすぐな愛の物語
ストーリー
自閉スペクトラム症(ASD)の大貴(安田章大)と、幼い頃から兄を支え続けてきた妹の希(のん)。2人は幼くして母親を亡くし、ネグレクト気味の父親から距離を置きながら、それでも互いを頼りに懸命に生きてきた兄妹です。
グループホームから独立し、一人暮らしを始めた大貴には、独自のこだわりがあります。身のまわりのものはすべて平行と垂直に整然と並べ、机の上の食器も丁寧にそろえる几帳面さ。そして週に一度、希と過ごす食事の時間は、必ず19時ちょうど。1分でも遅れると、落ち着きを保てなくなってしまいます。言葉は少なく、表情の変化もあまり見せない大貴ですが、清掃の仕事に就き、周囲のサポートを受けながら自分らしい日々を着実に歩んでいます。
一方、カウンセラーとして働く希は、恋人からプロポーズを受け、一抹の不安を胸に抱えています。変わらず続くと思っていた兄との日常——でも自分が結婚すれば、大貴の生活はどうなるのか。そんな思いを抱えながらも、希は兄とともに婚約者の両親に会うために東京へと向かいます。
その旅を経て、2人はこれまで向き合ってこなかった”お互いの本音”と、そして”これからの生き方”に正面からぶつかっていくことになります。不器用だけれど真っすぐで、時にすれ違いながらも、確かな愛情で結ばれた兄妹の姿が、温かくも胸に響くヒューマンドラマです。
映画『平行と垂直』
2026年8月28日(金)新宿バルト9ほか全国公開
出演:安田章大 のん 伊島空 高山トモヒロ 谷村美月 福田転球 芦川誠 早織 久保田磨希 河野咲良 髙田幸季 武藤凪 林英世/神野三鈴 菅原大吉
監督:小林聖太郎
原案・脚本:山野海
音楽:富貴晴美
企画:安田章大
企画プロデュース:佐藤現
プロデューサー:樫﨑秀明 竹下新悟
製作:「平行と垂直」製作委員会 (東映ビデオ、アスミック・エース、メディアプルポ、中京テレビ、テレビ大阪、ストームレーベルズ、ローソン、東映シーエム)
製作幹事・配給:東映ビデオ ©2026「平行と垂直」製作委員会 公式HP:https://www.toei-video.co.jp/heikoutosuichoku/ X:@heikou_suichoku Instagram:@heikou_suichoku
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取材・文/HugKum編集部