親切にしても「ありがとう」ゼロ? 3児の母がフランスに移住して驚いた文化のズレ。「他人の領域」に干渉しすぎる日本人との決定的な違いとは【vol.15】

「パリに行ったら汚くてびっくりした」という声をよく聞きます。たしかに現地の友人の家でも、とんでもなく散らかっていることがあるのです。
フランス在住ライターが日本とフランスの違いを紹介するこの連載。今回のテーマは「自分ごと」についてです。

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髪の毛を放置する彼女と、感謝されない洗濯物 

ある​地方都市で、フランス人女性の家に泊まったとき。​私はシャワーを浴びたあと、排水口に落ちていた黒い髪の毛に気づきました。

彼女は金髪ですが、私のものは黒いので、どうも目につきます。掃除をしようと彼女に雑巾はあるかたずねると、こう返ってきました。

​「ああ、ほっといていいよ。家政婦さんがやるから」

​どうやら、週に1回、4時間ほど家政婦に来てもらっているんだとか。国から補助が出て、1か月で150ユーロ(日本円で3万円)ほど。日本ではお金持ちが雇うものという印象が強い家政婦ですが、フランスでは彼女のような一般人でも呼べるとのことです。

そのせいか、彼女の部屋は、お世辞にも片付いているとは言えません。長い毛の犬と暮らしているので、犬の毛はいたるところについてるし、食器はシンクに置かれたまま。

でも、彼女はソファで平然とタバコを吸って、くつろいでいます。部屋がどんな状態でも、気にならないようでした。

​また、別の日に、ベランダに出しっぱなしだった洗濯物を、畳んであげたことがありました。彼女はそれに目をやり、「今日はどこに行こうか」と全く関係ない話をはじめました。

ありがとうって言ってほしかったな……。そう思いつつ、不思議でたまりません。​片付いていない状態が、気持ち悪くないのか。どうして感謝をしないのか。

その謎は、パリに帰ってから解けました。

オフィスで誰もデスクを拭かない理由と「感謝の仕組み」 

それは、パリにある業務委託先に顔を出したときのことでした。

そのオフィスは、​ゲストが来るとき以外は、いつも散らかっています。デスクには前日のコーヒーのカップが残され、床には誰かが放置した紙屑が残されている。誰ひとりとして片付けようとしません。​

見かねてカップを洗い場に運ぼうとしたら、ある社員がぎょっとして、声をかけてきました。

「置いておきなよ。それは清掃員がやる仕事だから」

それより、他のやるべき仕事をやってほしい。言葉の裏には、そんな思いが見えました。

​あぁ、そうかーーと、私は思いました。人が誰かに感謝をするのは、自分がやるはずだった仕事を肩代わりしてもらったときだけなんだ、と。

​彼らにとって、洗濯物を畳むことも、部屋を掃除することも、カップを洗うことも、自分がやるべきことではない。それらはすべて家政婦や清掃員という、他者がやることでした。

これは私の問題じゃない。そう明確に境界線を引いているからこそ、そこに何かが起こっていても気にならないし、解決されてもありがたがらないのです。

掃除の時間を、「自分の問題」として捉える日本の美徳 

では、日本ではどうでしょうか。

小学校には掃除の時間があります。自分の使った教室や廊下は自分たちで、その日の汚れはその日のうちにきれいにする。整理整頓、立つ鳥跡を濁さず、といった言葉も習います。

日本にいた頃に働いていた銀行でも、上司は毎朝デスクを拭いていて、新人が朝一番に店を掃除する文化もありました。空間を清々しく保とうとする、日本人の美徳ともいえます。

フランスの小学校には掃除の時間がありません。この教育の違いは、うちの3人の子どもを見ていると伝わってきます。

10歳の長男は、家でも脱いだ服や使ったおもちゃを片付けようとします。一方で、8歳の長女と5歳の次女は、部屋をきれいにしておくという発想がありません。だから、彼はよく彼女たちに「ちゃんとしまって!」と叱っています。

この違いはどこから来るのか。もちろん個性の違いもあるけど、彼だけが、日本の小学校に通った経験があるのです。

掃除の時間のおかげで、部屋が汚いことを「自分の問題」として捉えることができる。それが分かれ目となっている気がします。

思い通りにいかない世界で、肩の荷を静かに下ろす

「これは私のやるべきこと」だと考えて、丁寧な世界を作り上げるのはいいけど、それが増えすぎたり、あるいは一緒にいる人と違っていたりすると、くたびれてしまいます。世界って、思い通りにいかないことの方が多いですから。

一方でフランス人は、「これは私のやることじゃない」と境界線を引くことで、身の回りで何か起きても、罪悪感を持たずに生きている。

私も少しだけ「自分ごと」を手放してみてもいいのかもしれない。散らかしたおもちゃの真ん中で「片付けて!」と怒る長男と、どこ吹く風の娘たちを眺めながら、そんなことを思いました。

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この記事を書いたのは

綾部まと ライター・作家

三菱UFJ銀行の法人営業、ユーザベースのセールス&マーケティングを経て独立。ビジネスやマネーの取材記事から、恋愛小説まで幅広く執筆。2025年よりフランスに拠点を移し、フランス企業の日本進出支援(ローカライズ)やフィクションの翻訳にも携わる。3児の母。

X:@yel_ranunclus
Instagram:@ayabemato

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