子どもの下あごに前歯が生えてきたとなれば、いよいよわが子の虫歯ケアがスタートとなります。ただ、市場にはケアグッズがいっぱいあって、フッ素塗布など歯科医院でやった方がいいと言われるケアもたくさんあります。一体、何をいつのタイミングで、どのように始めればいいのでしょうか。
そこで今回は、富山県小矢部市で予約が取れないほど人気の渡辺歯科医院で院長を務める歯学博士・渡辺智良先生に、乳歯のケアを年代別に聞いてみました。
赤ちゃんに前歯が生えてきたら
最初は、赤ちゃんに前歯が生えてきたときのケアについて。渡辺先生によると乳歯は普通、下の前歯(A)が2本生えてきて、後に上の2本が生えてくると言います。合計で4本。この時期だと歯科医院では、特に何もする必要はないと言います。しかし、自宅では、
「可能であれば、フッ素入りの歯磨き剤を1ミリくらい歯ブラシにとって磨いてください。歯ブラシが難しいようでしたら、ガーゼで食べかすや歯垢を落としてください。下の前歯は虫歯になりにくいですが、上の前歯が生えてきたら、特に要注意です」
との話です。『キッズメディカ 子ども医学館』(小学館)でも、
<上の前歯、とくに歯と歯のあいだ、歯のつけ根に要注意。下の前歯はいちばん最初に生えてきますが唾液がたまりやすく、絶えず唾液にさらされた状態なので、虫歯になりにくい>(小学館『キッズメディカ 子ども医学館』より引用)
とあります。上の前歯は唾液がたまりにくい分だけ、虫歯リスクが高まるのですね。
1歳~3歳のケア
1歳ごろになると、最初に生えた合計4本の前歯の隣(B)にも生えてきて、前歯が合計で8本になります。さらには上下の奥歯(D)、上下の犬歯(C)も順次生えてきます。合計で16本。このタイミングでは自宅と歯科医院の両方で、次のケアをするといいそう。
自宅
・泡状やジェル状のフッ化物歯磨き剤を使って磨く
・(奥歯が全て生えそろったら)フロスを始める
歯科医院
・フッ化物歯面塗布(フッ素塗布)を3~6カ月に1回行う
・機械的歯面清掃(歯科医師や歯科衛生士による歯の掃除)を始める
このタイミングで本格的に、フッ素の使用が始まるのですね。フッ素を歯に塗ると、フッ素がフッ化カルシウムと言う物質に変わって、酸に溶けにく歯を作ってくれると分かっています。健康面は大丈夫なのかと心配になりますが、
「フッ素は食品(食塩や味噌)や人の歯や骨にも含まれている安全な物質です。疫学調査を見ても、虫歯予防の効果は確認されています」
と渡辺先生は語ります。フッ素入り歯磨き剤の量については、
「2歳までが約1mm、3~5歳が約5mmのフッ素入り歯磨き剤を歯ブラシにとって磨いてください。うがいはペットボトルのキャップ2杯分くらいの水を使います」
との説明がありました。
フッ素塗布については、3~6カ月に1回のペースで行うと効果的だと言います。虫歯の有無のチェック、機械的歯面清掃も含めて、定期的に歯科医院に通うといいのですね。
2~3歳になると、2本目の奥歯(E)も生えそろってきます。いよいよ乳歯は合計で20本。この段階になって初めて、フロスの使用がスタートします。
「最初に生えてくる奥歯(D)と2本目に生えてくる奥歯(E)の間は、虫歯が多いです。普通の歯ブラシでは掃除できず、虫歯の発見も遅れて、4歳くらいで虫歯が見つかるケースも多いですから、歯と歯の間は必ず清掃する必要があります。毎日の仕上げ歯磨きをしてあげるときに、子どもは歯間ブラシが入るスペースがありませんので、必ずフロスをしてほしいです」
奥歯が生えそろったら、徐々にフロスの習慣を身に着けさせたいですね。ちなみにフロスとはデンタルフロスの略語で、歯と歯の間の汚れを落とす糸状のデンタルケア用品ですね。
4歳~5歳のケア
幼稚園、保育園に子どもを通わせているご家庭では、この時期に保育園や幼稚園でフッ素洗口が始まると言います。渡辺先生によれば、
「フッ素洗口では、フッ化ナトリウムの粉を溶かした水でうがいをして、お口のフッ素濃度を保つ狙いがあります。欧米の場合は水道水にフッ素が入っていますので、うがいをすれば虫歯予防になります。しかし、日本では水道水にフッ素を入れられませんので、保育所や幼稚園でフッ素洗口を行います」
との話。一方の自宅と歯科医院でも、この時期はケアにちょっとした変化が必要だと言います。
自宅
・ペースト状のフッ素入り歯磨き粉に切り替える
歯科医院
・シーラントを行う
この年齢になると子どもも上手にうがいができるようになりますから、ペースト状のフッ素入り歯磨き粉に切り替えても構わないそう。
一方のシーラントとは、奥歯のかむ面の溝が深く、歯ブラシが届かないときに、高濃度フッ素が入った材料を溝に流し込んで固め、溝を埋めてしまう虫歯の予防法になります。
「シーラントは保険適用で行えます。地域によって自己負担が無料になる場所も少なくありません。シーラントの中に含まれたフッ素は放出されると量が減ってしまいますが、3~6カ月のペースでフッ素塗布を継続してもらえれば、フッ素塗布材の中のフッ素がシーラントに取り込まれて、歯の溝にフッ素を放出してくれます」
1~3歳の場所で、フッ素塗布について書きました。シーラントを行った後も引き続きフッ素塗布を続ければ、シーラントの「寿命」が延びて(フッ素濃度が上昇して)一石二鳥なのですね。
シーラントまで来ると、なかなかなじみのない親御さんも少なくないと思います。しかし、わが子の奇麗な歯を守るためにも、試してみてはどうですか?
文/坂本正敬 写真/
【取材協力】
※ 渡辺智良・・・歯学博士。日本歯周病学会歯周病専門医、日本補綴歯科学会専門医。富山県小矢部市で予約がとれないほど人気を誇る渡辺歯科医院の院長を務める。一方で、近隣のこども園や学校での歯科検診も行う。
【参考】