今、最も注目すべきTVドラマのトピックをドラマライターが紹介するコラム。今回は、10月にスタートした秋の連続ドラマから、女性向けコミックの実写化作品で、失恋したヒロインの悪戦苦闘ぶりが女性視聴者の共感を集めている2作、「モトカレマニア」(フジテレビ系)と「G線上のあなたと私」(TBS系)を紹介します。
高良健吾演じる鈍感なモトカレに振り回されるヒロイン!
「モトカレマニア」(フジテレビ系)は、5年前に別れた“マコチ”こと元カレ・真(高良健吾)をあきらめきれない27歳のヒロイン・ユリカ(新木優子)の悪戦苦闘を描くラブ・コメディーです。最初にこの企画を知ったときは「今をときめく美人女優である新木さんのような人をふる男が、この世に存在するだろうか?」という疑問がわきましたが、これがなかなかのハマり役。スタート時のユリカは真と別れた後、ろくでもない男とばかり付き合い、彼氏なし。仕事運にも恵まれず、失業中でしたが、不動産会社になんとか仮採用され、そこで思いかげず真と再会しました。
このチャンスを活かし、できれば真とヨリを戻したいユリカ。鈍感で気まぐれなところがあり、その気持ちに気づかなかった真。2人を遠巻きに見守る会社の社長たち“ハラミ会”(ハラスメントを未然に防ぐ会)の面々など、それぞれのキャラクターが立っていて、映像に楽しい仕掛けもあるので、構えず楽しく見られます。
“あるある”や妄想シーンが視聴者の心の内を気づかせる
コメディながら、失恋の“あるある”も満載。フェイスブックなどのSNSで元カレの名前をつい検索してしまう。アカウントを見つけたらステータスが独身かどうか確認してしまう。男性の顔を見ると、元カレに似た部分を探すなど、ユリカの言動は誰もがやってしまいがち。劇中でマグロを釣り上げる妄想シーンにも出てきますが、まさに「逃した魚は大きかった」という後悔にさいなまれるしんどさと、それゆえに取ってしまうイタい行動をリアルに描いています。
はっきりしないけどどこまでもイケメンなマコチの本心は!?
真役の高良健吾さんは、15年のキャリアを持つ中堅俳優。映画では大作「シン・ゴジラ」、「多十郎殉愛記」などに出演し、ドラマでも「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」などシリアスな作品のイメージが強く、こういったお気楽ラブコメでの萌え要員ではありませんでした。ところが、今回は、性格もいいけれど、とにかく顔がいいマコチ役。整った顔立ちでの満面のスマイル、脳内会議するときの“漢気マコチ”など和服のコスプレなどを披露し、「あの映画俳優がここまでしてくれるの?」と驚くほど、サービス精神たっぷりに演じています。また、それがいちいちうまい! もともとハイスペックなイケメンだけに、本作で人気がどーんと上がりそうです。
「私が欲しいのは『俺が大切にする』なんだよ!」というセリフは全女性の魂の叫び!?
しかし、そんなマコチ、第3話でユリカが思わず心の声を口に出してしまい、「好きです」という告白を受けたのに、そして、その後、泣いているユリカにキスをしたのに、「付き合うとは言っていない」とはっきりしません。ユリカが「私が欲しいのは『俺が大切にする』(という言葉)なんだよ!」と不満をぶちまけたシーンには、「そうそう」と共感した人も多かったのでは? 第4話(11/7木曜放送)では、本当に優しいのかどうか分からない真に、ユリカが不信感を抱き「もう、こうゆうのやめたい」と拒絶する展開になります。それに対してマコチはどう出るのか? ついに元カレの真価が見える、その瞬間に注目です。
中川大志演じる“年下の男”にときめくが…!? 婚約者に裏切られたヒロインの心の傷はそんなに簡単には癒えない。
もう1作、「G線上のあなたと私」の主人公は、27歳の也映子(やえこ)。結婚を控え寿退社しようとしていたとき、いきなり婚約者に「(他に)好きな女性がいる」と言われてフラれてしまいます。也映子役の波瑠さんは前作「サバイバル・ウェディング」でも婚約破棄&失業のダブルパンチにあった主人公を演じていたので、その始まりには「また?」という既視感がありましたが、本作では傷ついた也映子がバイオリンの演奏を始めることによって、新たな人間関係を築き、どん底から這い上がっていく様子をじっくりと描いています。
まったくの他人だから本当の思いを打ち明けられ、仲間となっていく3人
也映子がバイオリン教室で出会ったのは、同時期にバイオリンを始めた大学生の理人(中川大志)と主婦の幸恵(松下由樹)。理人は兄の恋人だったバイオリン講師の真於(桜井ユキ)に片思いしていて、幸恵は自宅で姑(夏樹陽子)に小言を言われていました。それぞれ思うように生きられない3人が、まったくの他人だからこそ自分の胸の内を打ち明け、性別や年代を超えて仲間になっていきました。
3人の会話の中でも、第2話での也映子の言葉が印象的でした。理人とカラオケボックスに行ったとき、彼から「どうやって別れた男のことを忘れた?」と聞かれ、いったんは冷静に自己分析しますが、その後、キレたようにこう言います。
也映子「ふられたからって、前にも後ろにも進めませんよ。5分前にはふっきれたって思っていても、5分後にはまた同じ沼にハマっているんです」
「(婚約者と)もっと向き合っていればよかったって? 向き合っていましたよ、それなりに。当たり前でしょ、結婚するんだから」
也映子は結婚がダメになって以来、親や友人たち、周囲から「早く立ち直れ」というプレッシャーをかけられてきました。そこで、バイオリン教室の発表会に出たり、婚約者と選んだ思い出のドレスを売りに出したりしていたので、もう立ち直ったのかと思われたのかもしれませんが、そんなに簡単に忘れられるわけありませんよね。婚約破棄や浮気など、男性のひどい裏切りにあった経験のある人には、響くセリフではないでしょうか。
仲間から新しい恋の相手に変わる!?
そして、この作品の胸キュン担当は、理人役の中川大志さん。也映子にとっては8歳下の“年下の彼”で、最初はお互いに恋愛感情はなかったものの、それぞれの辛い胸の内を打ち明けているうちに急接近していきました。第3話のラストでは、失恋して酔っ払った理人が也映子に壁ドン!(正確にはシャッタードン) とろんとした目で「焦った。今日、かわいいから」とささやくという突然のツンデレを見せ、このシーンに萌えた女性が続出。「破壊力ハンパない!」「かわいくてヤバい」などとツイッターにも興奮気味の感想が投稿されました。
中川大志さんは、朝ドラこと連続テレビ小説「なつぞら」(NHK)ではヒロインの夫である生真面目なアニメ制作者役。東大卒のスーパーイクメンで、妻の才能と生まれた娘を大切にしている様子が好評でした(「なつぞら」レビュー記事)。そこから間を空けず、一転して恋愛ドラマの胸キュン担当となったわけですが、この振り幅の広さは、小学生のときから10年以上ドラマに出演してきた演技経験の為せる技でしょう。
後半も抜けられない!?いつまで続く昔の恋の呪縛
後半はいったん離れた也映子と理人が最終的にどうなるかに注目で
まさか「モトカレマニア」のユリカだけで なく、也映子までも元カレという恐ろしい底なし沼にずぶずぶとハマってしまうのか?
ユリカも、也映子も、元カレのせいで新しい恋ができないという状況は同じ。ドラマを見ている私たちだって誰もが、片思いの経験も含めれば、“好きな男性に選ばれなかったしんどさ”を経験したことがあると思いますが、あなたなら2人のヒロインにどんなアドバイスをしますか?
「モトカレマニア」 フジテレビ系列 木曜夜10時から放送
「G線上のあなたと私」 TBS系列 火曜夜10時から放送
文/小田慶子
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