クリスマスセーターの失敗
クリスマスシーズン到来!
この季節がきて思い出したのですが、私は去年のクリスマスにひとつ失敗をしたのです。
息子が通っていたブリティッシュスクールでは、12月半ばに「クリスマスセーターの日」がありました。欧米はこの時期にド派手クリスマセーターを着る習慣があるのです。
でも、私はこの風習自体をよくわかっていませんでした。学校SNSやメールでおしらせがきてたのですが「クリスマスセーターって何?着たい人だけ着ればいいってことみたいだし、別にいっか!」とスルーしてしまったのです。
ところが、当日、学校に行ってみたら生徒のほとんどがクリスマスセーターを着ているではないですか。それはなかなかにかわいい姿で、「そういうことだったのか!せっかくの海外ならではのイベント、ちゃんと参加させてあげればよかった〜!」と後悔したのでした。
ああ、ママ友と普段から密にコミュニケーションをとっていれば、イベントの詳細についても確認しただろうし、皆が着てくるという情報もつかめていたのに。息子がせっかく頑張って英語をマスターし、積極的に学校生活を楽しんでいるというのに、親の私がその足を引きずってどうする!!と大反省…。
以前、この連載で「海外に住めば、外国語が話せるようになるのか問題」と題して、私の英語についてや、似顔絵を使ってクラスのママパパへの歩み寄り作戦について書いたことがありましたが、あの話の背景にあったのは、実はこのクリスマスセーターの失敗でした。
じゃあ結局、帰国までに私の英語やママ友つきあいはどうなったのよ、ということを今回は描きたいと思います。
ファミリー似顔絵作戦、ついに決行!
クラスファミリー似顔絵作戦、最初は失敗したものの、実はその後、無事成功したのです。
怖じ気づいた前回の失敗を繰り返すまいと、私は次のバースデーパーティの前に、皆に勇気を振り絞ってこんなメッセージを送りました。
「私は英語もヘタだし、顔を憶えるのが苦手。でも皆のことをもっと知りたいと思っている。実はイラストの仕事をしているので(イラストまとめ添付)よかったらパーティで皆の似顔絵を描かせて!」
そしてパーティ会場では鉛筆書きスケッチをし、念のため写真を撮らせてもらい、家で仕上げる。それを毎回パーティのたびごとにやって、描いた人数を増やしていきました。そうやって描いた似顔絵がこれです。
クラスのまだ一部とはいえ、9カ国31人の人々!!
…ふう、オレ、がんばった…。
これ、イラストレーターとしてもかなり貴重な経験でした。描いていくうちに、だんだんと欧米人の顔を描くコツもつかんでいったからです。たとえば、凹凸の激しさの表現。写真だと目の色が暗くうつって何色かわかりにくいので、必ずスケッチのときに目の色もメモすること。
興味深かったのは、似顔絵を描かれる人の反応に国籍の差はないということでした。描かれている間は嬉しそうな澄まし顔になり、似顔絵を見せるとパアッと笑顔になるか、はにかんだ顔になる。それは世界共通の幸せな姿でした。
そして毎回、新しい似顔絵を足して、皆にイラストデータを送ると、
「amazzzzzzzing !」
「so cooooooooool!!」
「Woooooooow!!Thanks!!」
みたいな反応がドバーッときて、皆がハイテンションで褒めてくれる。
そんな似顔絵作戦で、皆との距離はちょっと近づきました。たぶん私は「英語はヘタだけど興味深い人ポジション」をゲットしたのです。お迎えのときにご近所同級生親子といっしょに帰ったり、プレイデート(親が約束していっしょに遊ぶこと)をするようになりました。
私が人生で語学力のかわりに培ってきたイラスト力。それは予想以上に有効なツールだったのです。
そこで、そのイラスト力を利用して、もっと語学力を上げることを思いつきました。バルセロナの一般の人相手に、仕事として似顔絵を描こうと思ったのです。どんな設定でやるかを考えるため、まずはモニターで何人か試しました。モニター時は、似顔絵のお礼としてネイティブの語学レッスンをしてもらいました。
さらに、スペイン語を話すしかない場に自分を追い込もうと、ものすごく勇気を振り絞って、イラスト営業イベント(イラストマーケット)にもエントリーしてみました。
そうやって海外暮らしの次の階段を登ろうと準備をしていたのですが、結局は、帰国でそれらは叶わなくなりました。
正直、悲しかったし、拍子抜けした気分でした。
ああ、これからだったのになあ…。
海外暮らしの終わりと新しい始まり
2年間の初めての海外暮らし。スペインの生活。息子のブリティッシュスクール。
仕事面では、スペイン以外の海外にも取材にいき思っていた以上に頑張ることができたけど、語学は中途半端で終わってしまいました。スペイン語、カタルーニャ語、英語の3カ国語ミックスは、私には荷が重すぎたとも思います。
そして、正直に言えば……
すっっっっっごく、
小さな悔しいことがたくさんありました。
たとえばトラブルを言葉でうまく説明できなかったとき。銀行や郵便局の窓口でしどろもどろになったとき。そして、学校のママパパたちと喋っているとき。
私はインタビューもする職種だし、もともと人と喋るのが大好きです。自分で言うのもなんですが、会話を続かせるコツも知っている。日本語だったら、ママ友を作るのだって今までそんなに苦労はしてこなかったのです。もちろん、性格が合わないママ友に会うことはありましたが、この人は気が合いそうだ!という人には今まで積極的に自分からアプローチして、ちゃんと仲良くなってきました。そして心が通じ合った人とは、ちゃんと表面的じゃないつきあいをして、お互いに深い話や重い人生相談だってできていました。
でも、海外では語学の壁でそれがうまくいかないことがありすぎました。ママ友つながりはできても、深い話をするまでには至れなかったのです。なまじ、日本語ではコミュニケーションが取れるだけに悔しくて…。
語学力がもう少しあれば、もっと…。仕事だって、もっと…。
そんな悔しさが後押しして、帰国後は、あらためて語学にちゃんと取り組もうという気持ちになりました。
だから、帰ってからすぐに受けたのは、TOEFLの英語スピーキングテスト。今のレベルをちゃんと確認するためでした。そしたら、予想以上にいまいちな結果で呆然。あはは、このレベルで私、よくブリティッシュスクールに通わせる母親やってたな!!!なんていうか、いろんな意味で、頑張ったねえ、自分…。
そんなわけで、最近は、また英語の勉強頑張ってます。あ、スペイン語も忘れない程度にちょこっとやってます。
帰国から、また新たに再スタートした語学とのつきあい。
恥ずかしいようなスローペースだけど、これが私の順番なんだなあ…。あせらずにコツコツ勉強を続けようと決めましたよ、うん。
海外で息子が得た、英語以上のもの
さてさて、息子のほうはといえば。
いま通っている公立校は、息子にとっては初めての日本の小学校。最初はかなり苦労したようでした。何しろいろんなルールを知らないし(校内は上履きとか、「起立!礼!」のポーズとか)、日本語の読み書きはどうしても他の子に比べて遅れている。「外国人のような読み方をする」とまで先生に言われてしまいました。さらに友達関係も苦労があるらしい。
まあそうなることは想定内で、しばらく登校拒否になるかもくらいの覚悟はしていたのです。あまりに環境が違いすぎるし、前の学校になじんでいたから。
でも、今のところ息子はなんとか学校には通っています。
「まあ大丈夫。なんとか頑張るよ」
そう言う息子の様子を見て、思いました。
ああ、海外生活を経て、この子は鍛えられたんだ!日本人学校に通い、スペイン語のサマースクールに入り、言葉の通じなさに知恵熱を出し、それを乗り越えた。さらに英語メインの学校に転校し、多国籍の子どもたちと過ごした。いろんなところに旅もしたし、いろんな友達との出会いと別れを繰り返し、精神的に前よりタフになったんだ。
ブリティッシュスクールの友達何人かとは、たまにメールのやりとりをしたり(サポートありで)、動画で話したりしています。
先日、ブリティッシュスクールのことを少し話したら「いつかまたみんなに会いたい」と言ったあと、こんなふうにも言っていました。
やっぱり、いろいろ頑張ってるんだなあ…。
「寂しいよね。でもそういう風に思える友達に会えたのはよかったよ。いい経験ができたね。また会いにいこうね」
そんなふうに私は返しました。
最近は息子も私も、少しづつ日本の小学校生活になじんできて、スペインでの生活は夢だったんじゃないかという気もしたりします。
でも、息子の中には、スペインで得たものはちゃんと残っている気がするのです。
先生たちに褒められまくって培われた自己肯定感。
自分から声をかける積極性。
おそらく語学がゼロなときに身につけた、ボディアクションやダンスで笑いが取れるファニー力。
海外の学校やサマースクールにちゃんとなじめたという自信。
英語よりも、こっちのほうが得難いものを得たという気がします。
これを消さないようにするのが親の仕事だろな、うん。
息子ぽっちん、
すばらしい成長を見せてくれてありがとう。
君は本当にかっこいい男の子だよ。
愛しているよ。
いつかまた、いっしょにバルセロナに遊びにいこうね。
ハラユキ
イラストレーター&コミックエッセイスト。夫の駐在赴任により、2017年6月より〜2019年7月までスペイン・バルセロナ在住。雑誌やWEBなどでイラストやマンガを描いたり、コミックエッセイ書籍を出版。「東京くらし防災」(東京都)のイラストも担当。「世界の家族の家事育児分担事情から知る、つかれない家族を作るヒント」や現地ごはん情報なども発信中。おいしいごはんと宴会と祭りとお風呂屋さんが大好き。7歳男児の母。家族をテーマにしたオンラインサロン「バル・ハラユキ」も主宰中。Twitterでは日々の生活や考えたこと、instagramでは主に食いしん坊メモを発信中。
■第1回目・ハラユキファミリーのバルセロナ暮らしの概要はこちら
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