乳腺炎とは
出産して母乳育児を行っているママに起こりやすい病気のひとつが「乳腺炎」です。乳腺炎は、なんらかの理由で乳腺が炎症を起こしてしまうことを指します。また、乳腺炎は炎症が起きる原因によって2つの種類にわけることができます。
乳腺炎の種類と原因
乳腺炎は、乳管が詰まり母乳が溜まってしまい炎症が起きる「うっ滞性乳腺炎」と、乳腺が細菌に感染して炎症を起こす「化膿性乳腺炎」の2種類があります。
うっ滞性乳腺炎
「うっ滞性乳腺炎」は、母乳の通り道である乳管が十分に開いていないことや、赤ちゃんの母乳を飲む力がまだ弱いことなどが原因で、乳汁が乳房に溜まったことで起こると考えられます。
化膿性乳腺炎
一方「化膿性乳腺炎」はうっ滞性乳腺炎が進行したもので、何らかの原因で傷ついた乳頭から細菌が入り、乳管から乳腺組織の中で広がってしまい起こる乳腺炎をいいます。乳児が母乳を吸う際に飲みが浅かったり、赤ちゃんに乳歯が生えて乳首を噛んだりしたことで傷が生じ、そこから黄色ブドウ球菌、レンサ球菌などの細菌が侵入します。
どんな人が、どんな時期になりやすいの?
乳腺炎になりやすいのは、赤ちゃんが産まれて授乳を開始してから1ヶ月くらいの間。このころは赤ちゃんがまだ一度にたくさんの母乳を飲むことがでず、母乳が滞りやすくなります。
また、夜の時間帯や仕事などで忙しい時期などに、授乳や搾乳の間隔が空いてしまうと母乳がたまりやすくなり、これも「うっ滞性乳腺炎」を引き起こす原因となってしまいます。
さらに、母乳がたくさん出るママは母乳が溜まりやすく、断乳時などにもうっ滞性乳腺炎を起こしやすくなります。また陥没乳頭の方は、乳腺炎や乳輪下膿瘍を起こしやすいので、乳首の周りを清潔にすることが大切です。
乳腺炎の症状
症状には個人差がありますが、乳腺炎が起きると次のような症状がみられます。
熱
乳腺炎は熱感を伴う症状がよく見られます。さらにひどくなると、高熱が出たり、悪寒を感じたりします。
赤み・かゆみ
胸全体に赤みが出たり、かゆみを感じたりすることもあります。
しこり
乳腺炎では、胸にしこりが出ることもあります。初期は痛みを伴わない場合もあります。
頭痛
胸以外の体の節々が痛んだり、頭痛が起きたり、全身の倦怠感を感じる人もいます。
乳腺炎に関する体験談
Hugkum編集部では、乳腺炎を経験したママたちにアンケートで聞いてみました。体験談をご紹介します。
「赤ちゃんが飲んでくれなかった時、関節痛と寒気がして40度を越える熱が出た」(30代・東京都・子ども1人)
「いつもは夜中何回か起きて授乳しているのに、6時間まとめて寝てくれた日の翌朝乳腺炎になった。熱が39度まであがった。」(20代・静岡県・子ども3人)
「片方の胸だけであげてしまった際、乳腺炎になった」(30代・福岡県・子ども1人)
乳腺炎になりかけの初期症状と対処法
はっきりとした乳腺炎の症状がまだなくても、「なんとなく胸に違和感がある」「授乳しても胸がスッキリしない」といった異変を感じたときは、乳腺炎になりかけているのかもしれません。
なりかけの症状
乳腺炎の初期症状として、胸のしこりのほか、熱感や赤み、痛みを感じることがあります。「痛みはないけれどしこりがある」「なんとなく胸全体が赤い」「おっぱいを押すと痛い」などの異変があったら、乳腺炎を起こしかけている可能性があります。
乳腺炎に繰り返しなっているママは、そんな小さな変化にも気づきやすいでしょう。おかしいなと感じることがあったら、その前兆を逃さず対処すると、乳腺炎を悪化させないことにつながります。
対処法
乳腺炎は早い段階で気づいて対処することが大切。症状が感じられる方の乳房からおっぱいを赤ちゃんに飲んでもらい、溜まった母乳を排出するようにしましょう。乳腺炎になった胸から出る母乳を赤ちゃんに飲ませても問題はありません。
また、胸に熱を感じたら、水で濡らして絞ったタオルをあてて冷やしてもOK。冷却ジェルなどで急激に冷やすと母乳の出に影響を及ぼす可能性もありますので、注意しましょう。また母乳パッドをこまめに替え、乳房や乳首を清潔に保つようにしてください。
乳腺炎になったら授乳してもいい?
では「なりかけ」ではなく、発熱や痛みなどつらい症状が出てきて「乳腺炎になった」と気づいたときは、どうしたらよいでしょうか?
授乳はしてもOK
乳腺炎になると、赤みやしこりが生じた乳房から出た母乳を赤ちゃんにあげてもよいか、不安に感じるママも多いはずです。しかし乳腺炎は母乳が溜まってしまうことが原因のひとつのため、授乳を継続して行うことが大事。乳腺炎を起こした胸から出た母乳でも、赤ちゃんが飲んで問題はありません。
病院は何科へ?行くタイミングは?
乳腺炎になったら、症状が悪化しないうちにできるだけ早く医師に診てもらうようにしましょう。受診するのは、産婦人科。38度を超える発熱が見られたとき、頭や体の節々に痛みが生じたり、悪寒を感じたりしたら、病院に行くことをおすすめします。乳腺炎は触診だけで診断されることが多いですが、場合によって血液検査や画像診断などが行われることもあります。
乳腺炎の治療法
乳腺炎の治療法としては、うっ滞性乳腺炎の場合は母乳が滞ってしまっていることが原因のため、そのたまった母乳を出すことが大切です。乳房マッサージで母乳を出すようにします。このときのマッサージは一般的な「おっぱいマッサージ」ではなく、しこりのある部分に親指をおいて、乳頭のほうへやさしく胸をマッサージすることが多いでしょう。産婦人科での受診で具体的なマッサージ法が指導されるので、それに従って行いましょう。
薬を飲む
胸の張りや痛みがひどい場合は、カロナール(アセトアミノフェン)、イブプロフェンなどの消炎鎮痛薬、セフゾン、メイアクトなどの抗生物質が処方されることもあります。これらの処方薬は授乳中のママや妊婦さんでも飲むことができる薬のため、授乳中であっても安心して服用できます。化膿性乳腺炎の場合も、抗生物質や消炎鎮痛剤を服用することとなります。
切開でしこりを取る
化膿性乳腺炎でしこりが大きくなってしまった場合は、手術でその部分を切開して内部に生じた膿を取り出すこともあります。
乳腺炎の予防法
授乳中のママなら、誰でもかかる可能性があるのが乳腺炎です。乳腺炎を経験したママたちは「痛くてツラい」と口を揃えます。そこで乳腺炎を予防するために、普段から次のようなことを注意するように心がけましょう。
授乳方法
赤ちゃんがしっかり乳首を口に含んで、飲み残しなく母乳を飲めるようにすると、母乳が滞りにくくなります。そのためには、授乳時の姿勢に気を配ってみましょう。また、いつも決まった横抱きで授乳するのではなく、さまざまな授乳姿勢を行い、色々な方向から授乳することで、複数の乳腺からバランスよく母乳を飲ませることができます。
また、目安の授乳時間や授乳回数を気にしすぎると、赤ちゃんがまだ母乳を飲んでいる途中で授乳をやめてしまうことにもなりかねません。赤ちゃんがおっぱいを欲しがるときに合わせて、赤ちゃんにもママにも心地よいペースで授乳しましょう。
マッサージ
乳房を包み込むようにしながら、ゆっくり力を加え、乳頭にむけてやさしく押し出すようにします。乳頭や乳輪のまわりもゆっくりもむと、母乳が出やすくなります。マッサージは部屋や体が温かい状態でやさしく行うようにしましょう。ただし、自己流の誤ったマッサージで症状を悪化させてしまうこともあるため、助産師や産婦人科でのアドバイスをもとに行うようにしてください。またマッサージを行って痛みなどを感じたら中止しましょう。
食事やお茶などの飲み物
食事や飲み物は温かいメニューにして、体を冷やさないようにすることが大切です。また水分をしっかりとることで血行がよくなり、母乳の流れもよくなるでしょう。
葛根湯がいいの?
乳腺炎になったママに、漢方薬のひとつ「葛根湯」が処方されることもあるようです。葛根湯には母乳の出を促進して、うっ滞を改善する働きがあるといわれています。ただし妊娠中の葛根湯については、安全性が確立されていないともいわれています。乳腺炎だからといって市販の葛根湯を自己判断で飲むのは、さまざまなリスクも伴います。必ず医師の診断をあおぐようにしましょう。
乳腺炎になったら体を休めて
乳腺炎になり、思うように授乳できなくなると、ママはストレスを感じるものです。ただでさえ慌ただしい育児で大変なのに、痛みや発熱などの症状に加わってストレスまで感じてしまうと、ツラさが倍増します。乳腺炎になったり、なりかけたりしたら、水分をしっかりとって体と心を休めてあげるようにしましょう。
記事監修
金子 法子
1989年川崎医科大学卒業後、同年山口大学産婦人科学教室入局。同大学病院、関連病院勤務を経て、1998年より実家である針間産婦人科副院長。2001年より現職。2016年第五回西予市おイネ賞全国奨励賞受賞。2017年山口県医師会功労賞受賞。日本産婦人科学会専門医。日本性感染症学会認定医。日本産婦人科学会女性のヘルスケアアドバイザー。敷居の低い産婦人科をモットーに、地域のかかりつけ医として、悩める全女性の良き相談相手となるべく、性教育や女性の健康教育の講演活動も精力的に行っている。二男一女の母でもある。
針間産婦人科
文・構成/HugKum編集部