引きこもりとは?
そもそも引きこもりとは、どういった状態を指すのでしょうか? 基本的には自宅から外に出ない人を引きこもりと呼ぶイメージがありますが、正確な定義を見てみます。
引きこもりの定義
厚生労働省のホームページによれば、
<さまざまな要因によって社会的な参加の場面が狭まり、就労や就学などの自宅以外での生活の場が長期にわたって失われている状態>(厚生労働省のホームページより引用)
とされています。自宅の外に出られない理由は、心の病や発達の障害などもありますが、こうした医学的・生物学的な理由がないまま外に出られなくなった人を特に、引きこもりと呼ぶようです。
厚生労働省の「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」によれば、「長期」とは具体的に6ヶ月以上にわたって家庭にとどまり続けている状態(他人と交わらない)をいいます。数日や1週間、学校を休んだところで、引きこもりとはいえないのですね。
さらに内閣府の「若者の意識に関する調査(ひきこもりに関する実態調査)」報告書によれば、引きこもりも、完全引きこもりと準引きこもりに分けられるそう。
完全引きこもり
完全引きこもりは、さらに
・普段は家に居るけれど、コンビニエンスストアなど近所には出かける
・自分の部屋からは出るけれど、家からは出ない
・自分の部屋からもほとんど出ない
という状態に分けて考えられます。
準引きこもり
一方の準引きこもりは、
・普段は家に居て、自分の趣味などで用事があれば外に出る
といった状態を呼ぶそうです。
引きこもりになってしまう原因
引きこもりは心の病や障害によっても起き、一方で医学的・生物学的に問題がないのにもかかわらず、家から出られなくなってしまう人も居ると分かりました。では、特に後者の場合、どういった原因があって引きこもり状態になってしまうのでしょうか?
環境の問題
「10代・20代を中心とした『ひきこもり』をめぐる地域精神保健活動のガイドライン」という資料があります。その中には、引きこもりの原因として、環境の問題が挙げられています。
いい学校に入る、いい仕事に就くという価値観しか認められない家庭環境に育つと、成長とともに生きづらさ、生活のしづらさが強くなって、そのプレッシャーから逃げるように引きこもりになってしまうケースもある様子。
さらに、「レール」からそれる人生が「悪い」という考えがあるため、身の回りの家族に相談できずに、長期化するケースも目立つようですね。
思春期の挫折
何らかの大きな挫折をしたり、心の傷を負ったりした体験が引き金になって、引きこもりになってしまうケースもあるといいます。
茨城県ひきこもり相談支援センター、茨城県精神保健福祉センターが作成した「茨城県ひきこもり相談支援マニュアル」によれば、特に思春期(10~18歳)において、
・両親(とりわけ母親)を離れる
・自分を探す
という2大テーマに向かって、子どもが成長を見せ、特に同性の仲間とのつながりを過剰に強めると書かれています。思い起こしてみれば容易に分かりますが、そのつながりをつくる作業に失敗してしまうと、子どもには強い挫折と恥らいが生まれます。
その挫折・恥じらいのストレスに耐えきれなくなると、日々の暮らしや所属していた集団から逃げよう、自宅に閉じこもろうという動機が働くそう。
逆に日常の暮らしや集団への復帰は、大きなストレスを意味しますから、強い拒否の反応が出て、引きこもりが長期化してしまうケースもあるようです。
医学的・生物学的な問題との絡み合い
医学的・生物学的な問題でも引きこもりは起きると先に触れました。
体内時計やホルモンの分泌が狂って昼夜が逆転してしまう、心の病が背景にあって意欲の低下、不安感、緊張感が強まり、外出ができなくなってしまうケースです。
最初はこうした問題が原因の引きこもりではなくても、引きこもりの毎日がストレスになって、後から心の病など医学的・生物学的な問題が起きてしまうケースもあるようです。
引きこもりは、さまざまな原因が絡み合っているため、「なぜ、引きこもってしまったのか」という原因を突き止めようとしても、一筋縄ではいかないのが現状です。
引きこもりや登校拒否の体験談
HugKumが行ったアンケート調査に寄せられた、引きこもりや登校拒否の体験談をご紹介します。
引きこもりを防ぐなら。親が注意したいポイント
引きこもりはさまざまな原因が絡み合っていると分かりました。その意味で予防策を考えようとしても、単純な話ではないと分かります。ただ、引きこもりにもサインとして、厚生労働省も以下の兆候を挙げています。
- 睡眠が乱れる(なかなか寝付けない、朝起きられない、寝すぎる、リズムが崩れる)
- 食欲が乱れる(食欲がない、食べる量が減った、食べすぎる、炭水化物ばかりを欲しがる、やせた、太った、体重を過度に気にしている)
- 体調が崩れる(だるそう、疲れている、元気がない、顔色が悪い、腹痛や頭痛、めまい、吐き気がある)
- 行動に変化が見られる(学校に行きたがらない、家から出たがらない、友達と遊ばなくなった、身だしなみに構わなくなった、無口になった、あいさつをしなくなった、同じ動作や行動を繰り返す、ぼんやりする時間が増えた、暴力が見られる、無表情になった、話が支離滅裂になった、独り言が増えた)
こうした変化が目立つ・続く場合は、親だけでも早めに専門家に相談をしたほうがいいとされています。
引きこもりを解決するために親が注意したい接し方
子どもから発せられる何らかの兆候を見逃しているうちに、引きこもりという状態になってしまったら、親としてはどうすればいいのでしょうか。
茨城県のホームページ上に「ひきこもりへの対応Q&A」という情報があります。親のかかわり方として、とても有益な情報が載っていますので、整理してみました。
共感を忘れない
引きこもりの始まった子どもとの会話で、最も大事なポイントは共感だといいます。放っておけば「将来が心配だ」「わが子は怠けている」などと、子どもをネガティブに評価してしまいがち。
しかし、引きこもりをする子どもは、何らかの事情があって、引きこもりという選択肢を仕方なくとっているわけです。
親自身も人生を振り返り、自分が最も落ち込んでいた時期(失恋や挫折、大切な人との死別など)を思い出して、その時の痛みを思い出しながら、子どもに共感して接してあげるといいみたいですね。
禁句を避ける
引きこもりの子どもにはつい、「いつから学校に戻れるの」「いつになったら仕事に就けるの」と、将来を不安視する言動になってしまいがちです。しかし、引きこもり子どもと接する際、
・学校や仕事など将来の話
・同世代の友達の話題
は禁句だとされています。何も考えられない子どもに、「何がしたい?」だとか、「○○君が××大学に行った」、「○○ちゃんが××に就職した」といった話題をしても、追い詰める形になります。
正論と理詰めをやめる
学校も行かない、働かない、だらしない生活を送っている子どもを目の前にすると、親としても怖くなって、思わず責め立ててしまうと思います。時にはわが子の行動が「怠けている」「親への反抗だ」と思えるかもしれません。
だからといって、議論になれば、引きこもりをしている子どもは圧倒的に弱い立場に居るので、反論の余地もありません。議論や正論は子どもを追い詰めるだけだといいます。
だらしない生活が誰かの迷惑行為になっていないのであれば、辛抱強く丸ごと受け止めて議論を避けてあげたいものです。
生活とは遠い話題を
一方で親は引きこもりの子どもと、何を話せばいいのでしょうか。基本的には本人の生活とは遠い距離にある話題を話すように心がけましょう。例えば時事的なニュースの話、芸能界の話、スポーツの話など。
ペットを飼い始めて、会話が増えたという例もあるそうです。
一方通行でないサポートを
引きこもりは、何らかの事情で外に出られなくなった人が、元気や自信を失い、なんとか自分を守ろうとして見せる行動だと分かりました。
生活が不規則になろうとも、部屋が汚くても、部屋にこもってゲームやインターネットばかりしていても、まずは丸ごと受け入れる、思わず口から出てきそうな禁句を飲み込んで、共感の姿勢を見せる努力が必要だとも分かりました。
逆に一方通行の対処法は、百害あって一利なしだといいます。例えば無理やり社会との接点を持たせようと一人暮らしをさせたり、夢中になっているゲームを壊したりインターネットを解約したりと、目に付く部分をとりあえず荒療法で対処するやり方です。
「わが子が引きこもりになるなど恥ずかしい」と、隠したくなる気持ちも想像に難くありません。しかし、子どもの前向きな意思が見られないうちは、家族がひきこもり相談支援センターのような場所に出かけ、相談に乗ってもらうなどの工夫を続けていってください。
文/坂本正敬、写真/石川厚志
※全ての写真はイメージです。
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