コロナ禍による登校自粛や個人的な不登校、病気……昨今、さまざまな事情によって、子どもたちの「学校へ行く機会」が失われています。学校に行けないと、子どもの生活からは、学習や運動のみならず人とのかかわりまでもが不足しがちに。いざ登校を再開できる日がきても、懸念が先立ち、復帰が億劫になってしまうケースも珍しくありません。
そんな子どもたちのスムーズな復帰に向けた「学校に行けない期間の過ごし方」「復帰への心がけ方」に役立つとして、昨今注目を集めているのが「病弱教育」の視点です。
「病弱教育」のノウハウと視点で語る、学びへの復帰
「病弱教育」とは、病気で学校に行けない子どもたち向けの院内学級での教育のこと。院内でさまざまなことを制限されている子どもたちが、まずは「学ぶ力」を楽しく身に付けられることを目指し、指導をしています。
提案するのは、あの「赤はなセンセイ」
「病弱教育」が病気以外の理由で学校へ行けない子どもたちの育ちにも役立つのではないか。そう考え、そのノウハウを提案するのが、昭和大学大学院准教授であり昭和大学附属病院内学級担当の副島賢和先生です。
副島賢和先生は、公立小学校教諭として25年間勤務ののち、8年間昭和大学病院内さいかち学級の担任を担った、学校心理士スーパーバイザー。ホスピタル・クラウンでもあり、2009年にはドラマ『赤鼻のセンセイ』のモチーフとなって注目を集めました。
学校復帰までに身につけたい「学ぶ力」を伝える一冊
「病弱教育」を役立てて、学校へ行けないすべての子どもたちの「学び」を守る。そのために副島賢和先生が筆をとった本が『ストレス時代のこどもの学び』です。「病弱教育」の視点を活かした、学校を休んでいる期間の過ごし方や、学校に戻るために必要な「学ぶ力」の身につけ方が語られています。
学校に戻るまでにチェックしたい10のこと
本書『ストレス時代のこどもの学び』の中では、学校に行けない期間の不安の軽減方法や、学びに向かう前の心構えをはじめ、子どもたちが家や病院にいる時間を前向きに捉えられるようなヒントが綴られます。
今回は、その中から「学校復帰に向けてチェックしておきたいこと」をご紹介。子どもにとって久しぶりに学校に行くことは大変なことです。感染症対策による登校自粛の解除や長期休暇明け、不登校からの復帰の際に、今一度確認しておきたいことをお伝えします。
1)いままでも教室に自分の居場所があると思えていたか
学校にふたたび通える日がやってきたのに登校を拒絶する子は、決して珍しくありません。その場合、拒絶の原因のひとつとしては、登校していたころから教室内に自分の居場所を見出せていなかったことが考えられます。お子さんが学校での居場所についてどのように感じているか、今一度確認してみましょう。
2)休んでいた間も学校とつながりを保てていたか
学校を休んでいる間も学校の人たちとのつながりを保てていましたか? 実際に会うことは難しくても、先生やお友達とオンラインなどでコミュニケーションがとれると学校とのつながりを感じられますね。まだ時間があるのなら、無理のない範囲で試みてみましょう。
3)復帰にあたっての不安を軽減させられているか
学校復帰に際して、子どもが感じる不安は多岐にわたります。お子さんが今どんな不安を抱えているのか、その詳細をまず明確にして、いっしょに話し合いながらひとつずつ軽減を目指してみましょう。復帰前に一度、親子で登校のリハーサルをしたり、先生と状況を共有するだけでも気持ちが楽になります。
4)その子が見通しを持てているか
今後の学校生活について、お子さんが見通しを持てているかを確かめることも大切です。「勉強についていける?」「給食は食べきれる?」といった復帰直後に関するものから、学年を通しての長期の課題まで、前もってシミュレーションをしておきましょう。
5)困ったときに相談できる場所があるか
なにか困ったときにお子さんが相談できる場所が学校にあるか、誰に相談すればいいのかも確認しておくと安心です。担任の先生か、保健の先生か、それとも保健室の養護の先生か……お子さんにとって誰なら話しやすいのかも聞いておきましょう。
6)学校以外の場所でエネルギーをためるところはあるか
学校の外にお子さんの心の拠り所はありますか? 塾や習いごと、友だちとの集まりなど、学校以外にもお子さんがたのしく過ごせる場所があれば、学校だけが自分の生活のすべてではないことがわかり、学校生活にも心のゆとりを持てるはず。「ここがあれば大丈夫」とエネルギーをためられる心の拠り所をつくっておきましょう。
7)お休みしたことを、その子が生きていくエネルギーの種にできたか
学校に行けなかった期間は、決してただの空白の時間ではありませんでしたよね。些細なことでもいいので、学校に行けなかったことによって生じた「よかったこと」を心に留めておくようにしましょう。「あの休みにも意味があった」と思えることは、学校生活にふたたび向き合うためのエネルギーの種になります。
8)本人にしんどさを凌ぐ力がつけられたか
学校復帰の直後は、勉強の進度に差があったり、がまんしなければいけなかったり、さまざまなしんどさに直面することもあるかもしれません。お子さんにはしんどさを凌ぐための、自分の感情をコントロールする力が身についていますか? 心配であれば、しんどいと感じたときには、先生や友だち、ご家族に助けを求めるように助言してあげましょう。
9)受け入れる側が成長しているかどうか
お子さんが復帰する先の学級はどうでしょうか。「いろんな子どもがいて大丈夫」「誰かが困っていたら手を差し伸べられる」そんなクラスでしょうか。お互いに支え合えるクラスができていれば、スムーズに復帰が実現されますよね。
10)組織としての体制を整えられているか
クラスの子どもたちだけでなく、学校の大人たちはどうでしょうか? お子さんが病気や個人的な問題でお休みをしている場合、先生方はお子さんの事情に理解を示してくれているでしょうか。組織としての協力体制が整えられていますか? バリアフリーやアレルギーに対することなども含めて、受け入れの体制がきちんとできているか確認しましょう。
【副島先生からのメッセージ】子どもの想いや願いにそっと触れて
誰もがストレスを抱えやすいこの時代、大人がまず子どもにしてあげられることは何なのでしょうか。育児中のお母さんとお父さんに向けて、副島先生からメッセージをいただきました。
皆さんの目の前にいる子どもたちはどんな様子ですか?いつもと変わらない様子で過ごしている子。ちょっと甘えん坊になった子。なんかイライラしている子。幼くなった感じがする子。急に大人びた様子の子。どれも子どもたちのストレスに対する反応かもしれません。
大人が我慢し、頑張っている時は、子どもたちもじっと我慢し、もっと頑張ろうとします。そんな子どもたちの想いや願いにそっと触れていただけたらと思います。この本が、そのヒントになれたら嬉しいです。
あかはなそえじ o(´・●・`)o
子どもの「学び」を止めないために
子どもの「学び」において大切にされるべきことは「授業時数」や「評価・成績」ばかりではない、と副島先生は語ります。まず保障されるべきは「学び方」「学ぶ機会」「学ぶ楽しみ」「学ぶ意欲」など、学ぶための原動力。それはたとえ環境が変わっても、自ら学ぼうとする力でもあります。
本書『ストレス時代のこどもの学び』は、そういった「まず大人にできること」を副島先生とともに試行錯誤する一冊です。「学び」だけではない子どもたちの「生きる」活力を育むヒントがつまっています。
構成・文/羽吹理美
誰もがストレスを抱えやすいこの時代、子どもたちもさまざまな不安とともに日々を過ごしています。本書は、そんな子どもたちと親に向けて「病弱教育」(病気による困難を抱えた子どもたちの教育)のノウハウと視点を提案。「病弱教育」から活かせる子どものこころの状態を見るポイントや、大人としての関わり方など、ストレス時代を生きるすべての子どもの「学び」を支えるヒントが満載の一冊です。