【サイエンス教育の現場から】人と違うことに価値がある!研究者・井上浄さんが考える、「子どもの夢中」を見つける方法とは?

Life is Tech(ライフイズテック)の讃井康智さんによる連載「アフターコロナ時代の教育クエスト」。第5回の新時代教育のキーマンは、サイエンス教育をリードするリバネスCTOの井上浄さんです。後編では、サイエンスが得意な子に育てたいと思う保護者に向けて、持ってほしいマインドセットや知っておくべきことをお聞きしました。

研究は、人と違うことに価値がある

(左)リバネスCTOの井上浄さん・(右)讃井氏

讃井 研究の夢中と遊びの夢中は似たところがあると思いませんか。今回の対談の中編では「夢中になることが研究の第一歩」という話をしていただきました。夢中になる瞬間は遊びの中にもよく見られます。例えば、子どもが公園の砂場で一生懸命何かを作っていて、暗くなっても完成するまでまだまだやりたいと没頭している姿はまさに「夢中」。今の小学生なら『マインクラフト』で世界を作ることに没頭する子も多いですね。

井上 『マインクラフト』は息子に見せてもらいましたが、ラピュタみたいな世界も創ることができてすごいですね、あれは!

讃井 ギミックもたくさんあって、畑を耕して作物を育てたり、道具を作ったり、パンを自動で焼いたりいろいろできるんですよ。

井上 その子たちが研究者になったら、かなわないなぁ。

讃井 そういう子たちも出てくるでしょうね。ただ、『マインクラフト』は遊びなのか学びなのか保護者の間では議論があって。熱中してすごい作品を作っていても、親から見ると「これが何の役に立つの?」と心配になるという声も聞かれます。

井上 研究者って人と違うことが唯一の価値じゃないですか。親が言っていることっていうのは親の価値観です。僕としては、訳がわからなくてもマニアックに何かをやっている人を応援できる仕組みが作れたらなと思います。

讃井 でも親御さんの中には「うちの子、食べていけますか?」と心配する方もいます。

井上 僕自身も20年前は食っていけるかどうか、わからなかったですよ(笑)。でも「人と違うことをやっているのが勝ちだ!」くらいに思っていました。今、未来を考えたときに、スマートに物事をこなす人よりも、新しいことをやっている人のほうに価値があります。そして、それを必要としてくれる人は必ずいます。

だから「未来に必要とされるのはどっち?」と聞かれたら、新しいことをやり続けることだと思うから「人と違うことをやれ」と言いたいですね。

讃井 AIで今の仕事がなくなるとか、週休3日になるという時代で、どんな人が食べていけるか、稼げるかと考えると、やりたいことを続けられる人かもしれない。そういう人は、どんな仕事でも学びながら形にする能力が身についていくし、分野を超えた新しいプロジェクトをまわすこともできるはず。結局、「これをやろう!」と旗を立てた人のところに、仲間が集まってくるわけですから、やりたいことを突き詰めていける人は時代を超えて強い。

井上 親という立場で言えば、シンプルに面白いことをやってほしいなと思いますね。

讃井 子どもたちがいきいきしていることが親の願いです。親の希望とは違うことにわくわくして熱中している子供を見ると心配かもしれないけど、本当に心配なのは、高校3年、大学4年、あるいは仕事を始めてからもわくわくすることがない大人になってしまうこと。これが一番辛くないですか。

だから、何かに子どもが夢中で何かに没頭したら言ってあげたいです。「あなたの家では生涯の問題が解決しましたよ」と。赤飯炊いてもいいくらい素晴らしいことです!

夢中になると必ず学習がそこには生まれます。ハマったものがゲームでも、レベルアップするために試行錯誤を繰り返すし、その情報を発信して誰かの役に立つという体験もできます。その体験で、さまざまな場面で使える共通の方法論が習得でき、これは他の分野でも必ず役立ちます。

子どもが夢中になることを見つける方法

讃井 夢中になることは素晴らしいけれど、夢中になれるものを子どもが見つけられない場合、親はどうしたらいいと思いますか。

井上 親が楽しむことが一番です!「まず人生楽しいの?」と親が自分に問うてみてください。あなた自身が何かを楽しんでいる、それを子どもに見せられればいいじゃないですか。

讃井 いいですね。ライフイズテックでは『テクノロジア魔法学校』というディズニーのプログラミング教材があるんですが、この教材を使っている中高生の親御さんが興味を持って自分もやり始めたんですよ。そうしたら夢中になってですね。子どもより先に全部クリアして、副業でホームページを作るまでになりました。

井上 そういうのいいですね〜!僕らの上の世代の大企業のクライアントさんにお会いすると「実はずっと、こんな風に新しいことをやってみることが夢だった」と言ってくださる方がいます。新しいことにチャレンジして、今まさに花開く瞬間を僕らの上の世代の方も体験している。この人たちが子どもに与える影響は大きいと思いますね。

讃井 ワクワクに遅すぎることはない!ワクワクって、どうしても子どもたちのものになっているじゃないですか。

井上 いや、僕は渡さないですよ!

讃井 大人たちがワクワクすることを持っていた方がいいし、自分がワクワクすることを持っていると子供の邪魔をしちゃいけないとわかります。大人になるとワクワクは途中でやめなきゃいけない、と思っているのはもったいないです。

井上 それを強要する社会だったということもあります。大人ほどやらない理由を探してきますからね。とにかく親が楽しんでもらうことが一番!一緒にリバネスと仕事してもらえたら間違いなくワクワクできます(笑)どんな業界でも世界で初めてのことはありますから。自分の会社や仕事場を壮大な実験室だと思えば、考え方も変わるんじゃないかな。

讃井 やりたいことないという子どもから「じゃあママ・パパはあるの?」と聞かれた時、自分のやりたいことを語れる親でありたいですね。

井上 うちの子どもは、友達に「お父さんの職業は?」と聞かれて、答えあぐねたそうです。パパに聞いても「世界を変える」としか言わないからだって、こっそり妻に聞きに来たらしいのですが(笑)。そうなればしてやったりですよ。職業別に将来やりたい仕事ランキングってありますけど、いま言葉になっていない仕事ほど面白いんじゃないかと思っています。だから子どもたちには「職業を作れ」って言ってますね。新しい職業を自分で作っていけばいい時代です。

ワクワクしている子どもには、親の常識を外してみる

讃井 我が子をサイエンスが得意な子に育てるために、親ができることはありますか。

井上 研究の原点となるワクワクは伝染するんですよ。夢中になっている子のそばにいると影響を受けるかもしれない。

また子どもが興味を持ったことがあれば、親も「それはすごく面白いね!」と声をかけてあげて、一緒に楽しめたら最高です。僕も経産省のSTEAMライブラリーを子どもと一緒に見たんですけど、息子が「全部おじさんが出てくるよ!」って言うんです。たしかにどんどん見ていくと、ほとんどの動画におじさんが出てきて、内容よりもそっちが気になってしょうがないと()。なるほどそういう視点かと、子どもと一緒に笑いながら、ライブラリー子ども委員が必要だなと思いました。

身近に面白いことはたくさんあるので、大人の常識を外して子どもと接してみることが大切だと思います。大人の常識に捉われていても、もう自分たちが描いていた成功のストーリーはないわけですから、一つの常識や成功モデルにしがみついている人ほどリスクが高いと思いますね。

未来の研究者を育てる親へ

讃井 未来の研究者を今まさに育てている保護者の方へ、メッセージをお願いします。

井上 これから10年後、20年後には、今はまだわからないことがもっとわかるようになるでしょう。違う分野同士がもっと融合していけばいいなと思います。異分野が混ざりあって、そこから尖ったものが出てきて新しいものが出てくる。研究の民主化とでもいうべき状況、つまり今よりもっと身近に、仮説検証できる環境が出来上がっていくと思います。

AIの活用で世界はどんどん便利になって、ますます何も考えなくても生活できる世の中になっていきます。だからルーティンで使っていた時間や脳みそを新しいものを生み出すことに使っていきたい。人間らしく面白いことをやるという原点ですね。そういった視点で、今の子どもたちの世代と将来どんな仕事をしたいか考えてみたら面白いと思います。

 

◆対談を終えて

井上さんとの対話は「研究」が持つ爆発的な感動や興奮を呼び覚まされるような時間でした。

まず、研究には「世界で初めてを明らかにする感動がある」という言葉に目を見開かされました。自分の興味があることを突き詰めていけば、人類史上初と言える瞬間にも出会える可能性がある。研究の持つ可能性と魅力の大きさを再確認できた言葉です。

そして、研究はどこでも誰でもできることを井上さんは強調します。つまり、僕らは一人ひとりが研究者になれるのです。それは年齢関係なく、小中学生もその中の一人です。

研究は大学の研究室でしかできないと思っていることが誤った固定概念で、自宅でも学校でも、研究することはできる。学校であれば総合的な探究の時間などの教科や部活など課外活動でも、自宅であれば自由研究や遊びの中などでも、何かを探究・創作していくことは、研究の道に足を踏み入れていると十分言えます。

これからのAIの時代には、人とは違う面白いことをやること、今はない仕事をつくりだすことが価値になるという話がありました。それがまさに研究者の仕事なのですが、そんな研究者となる上での重要なキーワードは「夢中」です。大人から見てわからないことでも、子どもたちが「夢中」になることを見つけられたことはお祝いするレベルの話。夢中になれるテーマを持てれば、それを起点に探究が深まり、その過程で様々な学び・経験を重ねて、自分の進路を自己決定できるまでに成長していきます。

まずは、子どもたちの夢中を大切に。そして、私達大人自身もワクワクすることを大切に。身近な夢中やワクワクの先に、世界初の研究が広がっています。

讃井 康智

リバネススクールNESTラボは全国から受講できます!

株式会社リバネスの運営するスクールNEST LAB.(ネストラボ)は、小中学生のための研究所です。自分の好きなものや興味のあることを追求し、社会の課題と結びつけて、チームで研究活動を実践します。「好きを究めて知を生み出す」ことのできる子どもたちが形にはまらず、挑戦し続けられるような基礎を養います。

くわしくはこちら>>

プロフィール

リバネス 代表取締役副社長CTO
井上 浄

博士(薬学)、薬剤師。大学院在学中に理工系大学生・大学院生のみでリバネスを設立。博士課程を修了後、北里大学理学部助教および講師、京都大学大学院医学研究科助教を経て、2015年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授、2018年より熊本大学薬学部先端薬学教授、慶應義塾大学薬学部客員教授に就任・兼務。研究開発を行いながら、大学・研究機関との共同研究事業の立ち上げや研究所設立の支援等に携わる研究者。

https://lne.st

 

 

ライフイズテック株式会社 取締役 最高教育戦略責任者
讃井 康智

東京大学教育学部卒業後、リンクアンドモチベーションでのコンサルタント勤務を経て、東京大学教育学研究科にて研究者として博士課程まで在籍。専門は教育政策・学習科学。学習科学の世界的権威、故三宅なほみ東大名誉教授に師事し、全国の学校や保育園での協調的・創造的な学びづくりを支援。

2010年にライフイズテックを創業。ITキャンプ・スクールには累計4万6千人以上が参加し、中高生向けIT教育サービスでは世界2位まで成長。ディズニーとコラボした「テクノロジア魔法学校」や学校向け教材「ライフイズテックレッスン」などオンライン教材も提供。

現在は各地の教育委員会の専門委員やNewsPicksのプロピッカー(教育領域)も務める。生まれも育ちも福岡という地方出身者として、首都圏と地方の「可能性の認識差」を埋めるべく全国を奔走中。

https://life-is-tech.com

文・構成/HugKum編集部

編集部おすすめ

関連記事