もともとは「糸」じゃなくて「縄」
生涯のパートナーとなる人とは、出会う前から「赤い糸」で結ばれているという言い伝えがありますが、この赤い糸はもともと「赤い縄」でした。
「赤縄(せきじょう)」という言葉が古くからあることをご存じでしたか?
赤縄:夫婦を結びつける縁のこと。
『小学館 故事成語を知る辞典』
この「赤縄」は、7世紀の中国、唐の伝奇小説集『続玄怪録』におさめられている話です。あらすじは『小学館 故事成語を知る辞典』に詳しいので見ていきましょう。
韋固(いこ)という人物が、早朝、まだ暗いうちに歩いていたところ、月明かりの下で、韋固には読めない文字で書かれた書類を見ている、不思議な老人に出会いました。その書類は天界の結婚名簿で、そこに載せられた男女の足を、老人が持っている人間には見えない赤い縄で結ぶと、二人は必ず結婚するのだとのこと。そこで、韋固が自分の結婚相手を教えてもらうと、それはまだ幼い、貧しい娘でした。
その娘の貧しさを不満に思った韋固は、人を雇ってその娘を亡き者にしようとしました。
ひどい話ですが、当時は婚姻関係を結ぶ女性の家柄や財力が、出世や社会的成功に影響したのでしょう。あらかじめカップリングされている運命でも、相手がいなくなれば運命を変えられると彼は思ったのです。
けれどもその計画は失敗して、雇人は娘の額に傷を負わせただけで終わってしまいました。
それから14年後、韋固は、ついに気に入った女性とめぐり会い、めでたく結婚をしました。あるとき、妻がいつも隠している額に傷があることに気づいた彼は、彼女に子ども時代のことを尋ねます。すると、実はあのときの貧しい娘だったことがわかり、夫婦の縁の不思議に感じ入ったということです。
最愛の人の命を奪おうとしておいて、夫婦の縁の不思議に感じ入ってる場合か!と突っ込みたくなりますが、「将来結ばれる二人は赤い紐状のもので繋がれている」という謂れは、この唐時代の話に遡ることができるのですね。
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いつから「小指」の「糸」に?
けれども、上の故事では、天界の結婚名簿によって結ばれるのは「互いの足を赤い縄で」ということでした。それがいつから「互いの小指を赤い糸で」に変化したのでしょうか。
「指」は約束・契約の象徴
「足」から「指」へと変化したのがいつか、はっきりしたことはわかっていませんが、日本の江戸時代には、将来を誓い合った男女の間で「指切り」をするという風習がありました。もともとは遊女がダンナに対して、実際に指を切って見せて情愛の深さを誓ったことが由来となって、やがて「指切りげんまん」が約束事のジェスチャーになったようです。
また、それとは別に、不変の関係性を誓う結婚指輪の風習がのちに西洋から伝わってきたこともあり、指は男女の愛を誓う際の重要なモチーフになっていきました。
それがやがて赤縄の足から互いの「指」へと変化し、指に見合う太さの「糸」に変化していったと考えられます。
「赤」にこめられた意味は
もともと赤い色は、それが人体から流れる血液の色であったからでしょうか、昔から世界中でさまざまな意味をもっていました。
仏教では仏の徳を表す五色のうちのひとつに赤があり、慈悲心・精進などをあらわし、魔除けに使われたりもします。キリスト教でも赤はイエスが流した血の発想から、神の愛・罪と救済をあらわし、高位聖職者や聖人の衣装にも赤が使われます。
その他、多くの民族や宗教で赤は聖なる色とされることから、運命の糸が赤いとされるのも頷けますね。
言い伝えやことわざとして現在に伝えられている言葉は、その言葉を生んだ故事や由来について調べてみると意外な発見があります。この機会に下記記事についてもチェックしてみてくださいね。
構成/HugKum編集部
協力/小学館 辞書編集部
小学館 故事成語を知る辞典
編/円満字二郎 定価/1900円+税
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