「座右の銘」には原典があった⁉
「座右の銘」には世界で最初のオリジナルが存在します。その原典が由来となって、それ以降、信条や信念を言葉にしたものを「座右の銘」と呼ばれるようになりました。
では、その「座右の銘」の原典とは、いつの時代のどんなものだったでしょう。次のどれが正解だと思いますか?
1)
昔の中国の文人が作った漢詩
2)
ギリシャの神殿の柱に刻まれていた言葉
3)
鎌倉時代の将軍家に伝わる掛け軸
正解は
1)中国の昔の文人が作った漢詩
「座右の銘」の意味を確認
まずは「座右の銘」という語の意味を確認しておきましょう。
いつも心に留めておいて、生き方の参考とすることばのこと
出典:『小学館 故事成語を知る辞典』
そんなことばを最初に「座右の銘」と名付けて掲げた人物は、1~2世紀の後漢時代の中国の文人、崔瑗(さいえん)です。この人物が書いた漢詩文のタイトルが『座右銘』でした。
「他人の短所を指摘するな、自分の長所を自慢するな」から始まる、原文では全体で200字の文章で、崔瑗は、これを実際に自分の座る場所の右側に書き記しておいて、いつも戒めとしていたそうです。
出典:『小学館 故事成語を知る辞典』
「座右の銘」オリジナルの内容がすごい…!
では、このオリジナルの「座右の銘」には、どんな信条がつづられていたのでしょうか。ちょっと長くなりますが、原文を訳したものを見てみましょう。
人の短所は追及するな、
自分の長所は自慢するな。
人に恩を施したら早く忘れろ、
人から恩を受けたら決して忘れるな。
世間の名誉を得ようなどと思うな、
ただ仁を心のより所にせよ。
心のなかで十分考えてから行動に移せ、
そうすれば人に誹謗され心を痛めることもないだろう。
実績以上の評判がたたないようにせよ、
愚直を守ることこそ聖人の奨励すること。
黒い泥の中にあっても黒く染まらないことが大切、
おろかなようでいて内に輝きをもて。
柔らかくしなやかなことがこの世を生きる道、
老子も剛強を戒めている。
強がりで威張りくさって生きるのはつまらぬ男の考えること、
悠々とした生き方は、はかり知れないほど深い。
言葉を愼み暴飲暴食をせず、
足りることを心得ておれば災いにも勝てる。
以上のことを常に行えば、長い間おのずから香り続けるであろう。出典:『新釈漢文大系 93 文選(文章篇 下)』(明治書院)
いかがでしょうか。
いやはや、これだけのことを座右の銘として心に刻んで生きていけたら、たしかに人徳が「おのずから香り続ける」ことでしょう。
凡人の私たちは、崔瑗の原文にあるすべての戒めを守って生きていくのは難しいですが、どれかひとつでもピンとくるものがあれば、自分だけの座右の銘として心に留めておくとよいかもしれませんね。
構成/HugKum編集部
協力/小学館 辞書編集部
イラスト/もとき理川
小学館 故事成語を知る辞典
編/円満字二郎 定価/1900円+税
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