そうだったのか! 知らなかった!!
そんな瞬間に使われる「目から鱗(うろこ)が落ちる」という言葉。長らく疑問に思っていたことや、疑問にさえ感じてなかったことに、「なるほど!」と心から納得できる答えやからくりを与えられたとき、この言葉ほどしっくりくる表現はありません。
でも、なぜ鱗なのでしょう。いつからこんな表現が使われるようになったのでしょうか。
起源は1世紀のキリスト教世界から⁉
いかにも魚くさいこの表現、海の幸豊富な日本ならではの言い方…と思いきや、なんと起源は1世紀のローマにありました。
新約聖書―使徒行伝にあり、のちに「サウロの回心」といわれるエピソードに、以下のようなくだりがあります。
すると、たちまち目からうろこのようなものが落ち、サウロは元どおり見えるようになった。
『使徒行伝第9章18節』
サウロとは、のちのパウロで、キリスト教の発展に力を注いだ使徒のひとりですが、最初はキリスト教徒を迫害していました。そのサウロが、ある日ダマスコという町に向かう途中、宗教的体験によって目が見えなくなりました。が、その後、キリストの奇跡によって「目から鱗のようなものが落ちて」再び視力を取り戻すという不思議な体験をします。
そこから、以下のような意味として、この表現が広く世界に知られるようになりました。
何かがきっかけとなって、急にものごとの実態がよく見え、理解できるようになることのたとえ。
『小学館 故事成語を知る辞典』
聖書に出てくる言い回しですから、英語訳聖書にも The scales fall from one’s eyes. という表現があり、実際に英語圏のイディオムとして使われています。
さらに『小学館 故事成語を知る辞典』によると、以下のように解説されています。
パウロは、<中略> 実際に目が見えず、実際に鱗のようなものが落ちたと、伝えられています。
現在では、宗教的な目覚めに限らず、疑念や不安、迷いなどが吹っ切れて、真実が見えるようになる場合に使われます。
『小学館 故事成語を知る辞典』
落ちた鱗の正体は?
聖書に書かれていることをすべて本当に起こったこととして信仰しているキリスト教徒もいますので、単なる比喩ではなく、もしかしたら本当に何か鱗のようなものが落ちたのかもしれません。
それがどんなものだったのか、時を経た今となってはわかりませんが、もし子どもに「目から落ちた鱗ってどんなものなの?」と聞かれたら、その成分については「本当のことを見えなくしていたもので、無知からくる思い込みや先入観なんじゃないかな」と説明してあげるとよいでしょう。
構成/HugKum編集部
協力/小学館 辞書編集部
イラスト/もとき理川
小学館 故事成語を知る辞典
編/円満字二郎 定価/1900円+税
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