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不登校の子を持つ保護者に言いたい「学校だけが人生じゃない」
藤井 今回のテーマは「不登校」です。昨今、「学校に行くことがすべてではない」との考えが広がっています。「この子がやりたいことで突き抜ければ、将来好きなことをやりながら生きていけるかもしれない」、そうした思いを持つ保護者の方も増えているのではないでしょうか?
今回は保護者のお二方が登場。自己紹介をしていただきます。
河崎さん 子どもは小学5年生と年少です。5年生の子が学校に行けていません。3年生くらいまではふつうに行ってたんですけれど。それで、5年生になるきっかけで、いもいも教室の体験会に行って、母も娘もがっちり心をつかまれまして(笑)。森の教室と学びの教室に週3で通っています。学校にも通っています。
不登校でどうしようなどとはあまり考えていません。もともと学校に通うだけが人生じゃないと思っていましたから。
井本 河崎さんのお子さんは、自然に自分をさらけ出せるからすごいなって思ってますね。彼女のやることなすこと、全部オリジナルです。森の教室でも、山を登ったところで、僕の手をひっぱるんです。やまびこに気づいたんですね、それで、僕がしゃべっていたら、やまびこ風に「校長先生、話ながーいながいながいながーい」(笑)。いやー、ちょっと思いつかないセンス。すごいよね。
自分で根拠を考えてやりたいことをやり遂げる力さえあれば…
松丸 子どもは小6と小3です。上の子が2年生のときに、担任の先生がこわかったようで、それがきっかけで、5年生の2学期まで、まったく学校に行かなくなりました。 今は、「今日は2時間行く」「3時間目は行く」とか、自分で考えて行くようになったんですが。
それを見ている下の子は、「なんでおねえちゃんが休んでいるのに、私は行かないといけないの?」って。この子もあんまり学校が合わない気がしていて、低学年だったから「いいよ行かなくて。家で勉強すればいいよ」って。今はまるまる行っていないんですよね。
先のことを考えてもしょうがない。考えないっていったらうそになりますが、今はこれでいい。子どもに合わせてどんどんかえていくんだなって。井本先生と森の教室でお話をするうちに、そういう考え方になりました。
井本 弟が「森の教室」に来ているけれど、自分で「哲学できている」んですよね。「学び」ってどういうことなんだろうって、自分で考えている。最近、たき火をやったんですが、あっという間に火をつけられるようになったんです。「こうやるとうまくいく、それはこうだからに違いない」って、自分で考えて結果を出しているんですね。
じゃ、九九やる?って言うと、「九九はやだ!」
それはなぜかっていうと、「できなきゃいけないのに、やれないからいや」なんですね。 自分なりの学びのペースで進められないからいやだっていうこと。こんなに才能豊かなのに、自分は学びがだめなのかもしれないって思っちゃうの、もったいないですよ。先週、その子が、僕にこう言いました。「いもにいはね、メインの話はちゃんと聴くんだけど、サブの話が大事なのに。そこが雑なんだよー」って(笑)。
高濱 そのとおり!(笑)
井本 ズバッと言いましたね。精神年齢も高いんだろうけれど、めちゃめちゃ当たっているから、もう、対等です。
大人の留意ポイントは「人目を気にしない」「比較しない」
高濱 そういう子は、間違いなく大丈夫。
不登校、大人の受け止め方が大事ですね。どうにも行き詰まってしまって、「学校に行かないのは不幸」と大人はまず、人目を気にしているんですね。
それと気をつけたいのは「比較」。「みんなできているのに、うちの子だけ」って。
井本先生の天才性は、「この子をみる」っていうのを徹底している、人目なんか気にしないし、比較もしない。
「私なんてダメ」って1回コンプレックスを持つと、おばあちゃんになっても言いますね、「私は算数が苦手だったから」って。そんなこと絶対にないのにって。「私、モテない」っていうのも同じです(笑)。
あとは、やらされているっていう感覚だとね、「次なにやればいいですか」みたいになる。主体性を持てないと、心はヘトヘトです。
不登校かどうかじゃないんですよ。心の呪縛から逃れられるか、自分のペースで考えられるか。学校に行っていても、呪縛にはまりまくっているのか、どうか。
大人も居場所を持ち、仲間と語り合う時間を大事に
藤井 保護者のみなさんも、いろいろ考えて育てていらっしゃいますよね。大人の声掛けがよくないから、子どもはひけめやコンプレックスを感じるのかな、とか。
高濱 大人も大変ですよね、「心の安全」が保てる場があればいいですね。親の不安や緊張こそが子どもに乗り移ってしまうから。じゃ不安のない大人にならなきゃって思うと、それがまた、不安の材料になる。そういうときは、先輩のおかあさんたちが「こうやってるんだ」っていう具体をみることが、安心材料になると思います。
井本 私が開催している私塾「いもいも」では、保護者のコミュニティができているんですが、みなさん本当に腹がすわっているんです。子どもの本質に向き合わざるを得なかったということでしょうね。
藤井 はじめはそうじゃなかったんだと思うんですよ。自分の子だけが違って見えて……。
松丸 下の子が学校から帰ってくると、魂が抜けて、ヘロヘロになっているんです。でも、学校に行かないって決めた日は、ルンルンで、自分でやりたいことをキャッキャとやっているんです。それを見ているうちに、ボロボロになって帰ってくるところに毎日行けっていうのはどうかなって……。
井本 子どもは学校に行っていなくても、たまにふっと「勉強しないといけない」って思うんですね。でも、いざしようと思ったらできないんだよって。その心配な気持ちを受け止めてあげられるとよくて。家の理解、めちゃめちゃ大きいですよね。
高濱 認めてもらえているとやれるんだ。学校と近所しか見えなくて、学校に行っていないのはうちの子だけってなると、すごく不安になる、ほかにも不登校の子の保護者がたくさんいると見えたときにラクになる、そこがカギかなって思いますね。
「認めてもらえた」と感じると子どもはグンと伸びる
井本 私が開いている「森の教室」では、川への飛び込みをやるんだけれど、1年くらいずっとやらない子がいたんです。それが、10㎝の高さから飛び降りることができたら「できた!」なんですよね。今、飛ぶのをほかの子に教えてるんですよ。「僕より飛べる子がいる」って比較していたら教えないですよね。
河崎 子どもが「いもいも」に参加するのは、自分自身が認められるからだと思います。大人も、自分そのものを認めてもらえる。
高濱 そういう大人がそろっているんだよね。
井本 ちょっとねじのゆるんだ大人が(笑)。若いスタッフもいるしね。
河崎 親以外の大学生のお兄さんとかがホントに遊んでくださる。
藤井 でも、保護者としては、子どもを送り出してコーヒーを飲む時間は、すごくホッとしますよね。どこかに居場所はつくってほしい。
井本 とらわれを拭い去ってしまえば、最近はいくらでもあると思いますよ。
藤井 新しく行けるところを探してあげるってことですね。「ここなら行ける」って。
将来を考えたら漢字だけはやっておこう
藤井 質問もたくさんお寄せいただいています。それは3つにまとめられると思うのですが、次のとおりです。「将来を考えると不安」「教育とは何か」「学校の存在意義は」。
高濱 それらについてまとめて答えると、高卒認定試験のところだけできていれば、意外と悪くないんじゃないかなと思います。今は、通信制とか学校の形もいろいろですから。
やはりね、「よしよし、好きなことで遊んでいればいいよ」ではダメで、どこかで「この道を行く!」っていうものを積み上げないといけないと思っています。仕事をしようと思えば、つまり「メシを食える大人」になろうとすれば、野外体験ばかりやっていると、行く高校がなくなっていく。世界が動いているところに入っていける力みたいなものは必要で、そこでまた、自分の場所をつくらないといけないと思うんですよ。野外活動しかしていなかったら、ものすごい腕のいい大工は育っても、隈研吾(一流建築家)は育たない。いずれ中高くらいで目覚めたらやるんですよ。そのときに最低限「言葉」だけはもっておいたほうがいいよって。
だから、小学校で言えば、漢字だけはやったほうがいいかな。自分の言葉で、かりものでないものを積み上げていくときには言葉が必要。漢字だけは、泣こうがなにしようがそこだけはやりなさいって、僕は思っていますね。
井本 「将来や先のことを考える」、これは止められないと思うんですよ、考えないですむようになるってないので。そういう意味では、偏差値の高い学校に行っている子ほど、自立が遅れるっていうのはあるような気がしますね。僕自身も同じで、一度手に入れたものは、なかなか手放せないじゃないですか。
「いもいも」に来る不登校の子どもたちには、いろんなことに目を見開かせてもらうんだけれど、ひとことで言えば自立してるんですよ。あの年齢で「学校に行かない」って決めるのはめっちゃこわいけれど、決める。すごいですよね。
高濱 なるほど、偏差値の高い学校をそういう目で見る、というのもありますね。
藤井 不登校は「自立できない」って一般的に思われているけれど、自立できる可能性が大きいということですね。
井本 すでにしてるんじゃないですか?
体を動かすことは大事! 学びと結びつく
井本 不登校でいうと、ひとつだけ意識したほうがいいのは体を動かすことなんですよ。体を動かすことと学ぶことは切り離せないというか。今の子どもは全般に動くことをしていないし、学校に行かないってなると、その機会が減るから。まあ、放っておけば子どもは体を動かしますから、指導なんていりませんけどね。
高濱 遊びっていう言葉で表現されていることが、すべて大事です。自分で決めてやりきる、決めてやりきるってやっていると、この社会に対して何をつくろうかなって、わかってくる。その実感をしっかりもっていれば、やり遂げられる人になります。そういう意味で、僕も外遊びをやりこむのは何よりも大事だと思います。
藤井 今日はたくさんのキーワードがありました。不登校で悩んでいても、こうしたキーワードを思い出して、子どもたちの今を大事に育てていきたいですね。
高濱 正伸(たかはま まさのぶ)
1959年熊本県人吉市生まれ。東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。算数オリンピック作問委員。日本棋院理事。1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。1995年には、小学4年生から中学3年生を対象とした進学塾「スクールFC」を設立。
井本 陽久(いもと はるひさ)
いもいも教室主宰
栄光学園中学高等学校、東京大学工学部卒業。長年、生徒と共に児童養護施設で学習ボランティアを続ける他、福島県飯舘村の飯舘中学校特別講座を定期的に開催。東京都西多摩郡檜原村では森や川で過ごし自ら考える力を育む「森の教室」も「いもいも」として主宰。
藤井 道子(ふじい みちこ)
花まるグループ 花みち元気塾 代表。2017年に(株)hanamichi familiarを設立。成績をあげるには、子どもの持って生まれた良さを認めて信じることがスタートとの理念のもと、園児から高校生まで幅広く受け入れている。歯科医、医学部学生、中学生の男子3人の母親。
取材・文/三輪 泉