いまこそウクライナ民話『てぶくろ』など、平和を祈るための10冊の絵本を。ウクライナに心を寄せて

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ウクライナでは、今、ロシア軍による軍事侵攻により多数の一般市民が命を奪われ、戦火におびえながらの生活を余儀なくされています。その中には、約750万人の子どもも含まれており、1日も早い収束を願うばかりです。ウクライナに心を寄せ、平和を祈ることを絵本を介して子どもたちに伝えませんか。読書アドバイザーの児玉ひろ美さんがセレクトした10冊をご紹介します。

いま、絵本を通して「平和」を語り継いでください

ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナは、東ヨーロッパに位置する大きな国で、豊かな穀倉地帯にちなんだ、たくさんの民話が伝えられています。日本でも長年親しまれてきた民話絵本『てぶくろ』(福音館書店)は、1965年の出版以来読み継がれ書店やSNSなどでも、この絵本を紹介することでウクライナの平和を考えるきっかけにと、話題となっています。

平和に限らず、愛や友情など、具体的には目には見えないけれど大切なことに、私たちは名を付け大切に守ってきました。でも、それは非常に脆く、油断すると消えてなくなってしまいます。私たちは「平和」を声に出し語り継がねばなりません。そんな時絵本は頼りになる存在です、どうぞ絵本を通し、平和についてご家族で語り継いでください。そして、素晴らしい民話を育んだウクライナの人々に思いを馳せてください。

『てぶくろ : ウクライナ民話』 3歳~

エウゲーニー・M・ラチョフ え/うちだりさこ やく/福音館書店/2020(1965)

絵本『てぶくろ』はウクライナ民話から生まれました。日本では1965年の出版以来、時を超え、世代を超え、親しみ読み継がれている絵本です。絵の美しさはもちろんのこと、繰り返しの楽しさ、手袋が大きくなる不思議さなど、たくさんの魅力に満ちた作品ですが、何よりも素晴らしいのは、手袋が混めば混むほど、絵本を見ている子どもたちの表情が明るく嬉しそうになってゆくことです。民話には、その国や民族が大切にしてきたことが込められているのですね。

『空とぶ船とゆかいななかま : ウクライナのむかしばなし』 5歳~

バレリー・ゴルバチョフ 再話・絵/こだまともこ 訳/光村教育図書/2020

昔、ある国の王さまが「空とぶ船に乗って城まできた者を王女と結婚させる」と、おふれを出しました。村人から「世界一のまぬけ」と呼ばれている若者が船を探しに旅に出ます。途中、出会った不思議なおじいさんに、おまじないを教えてもらい、若者は空飛ぶ船を手に入れますが…。旅の先々、若者を困らせるどんな難題も、旅で出会った不思議な能力を持つ仲間と協力し解決してゆく姿は、読者を勇気づけます。

『トムがてぶくろおとしたら』 4歳~

ジム・エイルズワース 文/バーバラ・マクリントック 絵/福本友美子 訳/犀の工房/2018

トムは、おばあちゃんが編んでくれた毛糸の帽子とマフラー、手袋を身に着け、遊びに行きますが、手袋を片方なくしてしまます。がっかりするトムに、おばあちゃんは言います。「大丈夫。明日探しに行こうね。」その頃手袋は……。動物たちが、次々やってきて、手袋はもういっぱいです。すでに入っている動物たちは断りますが、最後には相手が寒そうだからと入れてあげ、手袋はますますいっぱいに…。ウクライナ民話「てぶくろ」をヒントに生まれた物語です。

『うるさく,しずかに,ひそひそと : 音がきこえてくる絵本』/『目で見てかんじて : 世界がみえてくる絵本』 小学生~

ロマナ・ロマニーシン, アンドリー・レシヴ 著/広松由希子 訳/河出書房新社/2019

ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)と、ボローニャ・ラガッツィ賞、国際的な絵本賞ダブル受賞の、ウクライナで絵本を中心に夫婦で活躍するユニットによる、斬新なグラフィック絵本。2冊は姉妹編と言っても良いようです。①では音とは?に始まり、様々な音のしくみを。②は人の目の動きや視覚について。それぞれ絵本の特性をフル活用して、わかり易く、かつてないほど美しく、楽しく、賑やかに紹介してくれる科学絵本。

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『へいわってどんなこと?』 5歳~

浜田桂子 作/童心社/2011

日本の絵本作家が中国と韓国に呼びかけ、三か国12人の絵本作家の協力で実現した平和を訴える絵本シリーズ第一作。「きっとね、へいわってこんなこと。」と、子どもに身近な物事から、具体的に平和を考えます。「おなか一杯に食べ、ぐっすり眠れる」「戦争しない」「爆弾なんか落とさない」。私はこの絵本に出会ってからずっと、これらを子どもたちが「よくわからないこと」でいられるとよい、と思っていました。が、今では現実味を伴って絵本を見つめる子も少なくはないことでしょう。せめて一人読みをさせることなく、親子で一緒に読んでほしいと願います。

『せんそうがやってきた日』 小学生~

ニコラ・デイビス 作/レベッカ・コッブ 絵/長友恵子 訳/鈴木出版 2020

窓辺に花が咲き、お父さんは弟に子守唄を。お母さんは私の鼻にキスをし、私は、火山のことを勉強して、鳥の絵を描いた。そして、ランチタイムが終わると…、戦争がやってきました。戦争は校庭の向こうからやってきて、すべてを吹き飛ばし、私の家があった場所を黒い穴にし、誰もいなくなった。そして…。2016年、実際にあった難民受け入れの拒否がきっかけとなった作品です。そして今なお、再び起きている悲劇から目を逸らさずにいるためにも、読んでおきたい1冊。

『いっしょにおいでよ』 5歳~

ホリー・M・マギー 文/パスカル・ルメートル 絵/なかがわちひろ 訳/廣済堂あかつき/2018

女の子がテレビのニュースを見ていると、「たくさんのひとたちが にらみあって おこっている。このくにから でていけと、おおごえで どなっている。せかいのあっちでもこっちでも……。」女の子は両親に尋ねます。「こんなのっていやだ。どうしたらいいの?」すると、「いっしょにおいで」と、お父さんは女の子を地下鉄の駅に連れて行きます。お父さんは、世界を素敵なところにするために、できる小さなことを、ひとつずつ実践してゆくのです。この作品、小学生以上と紹介されていることが多いようですが、5歳頃からすべてを理解できずとも、感じることができると思います。

 

『なぜ戦争はよくないか』 小学校初級~

アリス・ウォーカー 文/ステファーノ・ヴィタール 絵/長田弘 訳/ 偕成社/2008

原題は『Why War Is Never a Good Idea』。作者のアリス・ウォーカーは黒人女性として初めてピューリッツァー賞を受賞した作家です。邦訳タイトルの『なぜ戦争はよくないか』は、子どもの質問のように単純ですが、明確に答えることが難しい、深い問です。この絵本を、ご家族で話し合うきっかけにしてほしいと思います。邦訳は詩人の長田弘。「戦争はたくさん経験を積んでも すこしも賢くならない」の名訳が胸に刺さります。

『暴力は絶対だめ! = Never Violence!』

アストリッド・リンドグレーン 著/石井登志子 訳/岩波書店/2015

「子どものしつけに暴力はいらない」『長くつ下のピッピ』の作者リンドグレーンが、ドイツ書店協会平和賞授賞式(1978)のスピーチで訴えた言葉です。この言葉がきっかけで、スウェーデンでは世界初の子どもへの体罰を禁止する法律が制定されました。本書はそのスピーチをまとめた40ページ足らずのものですが、平和を祈る今だからこそ、お薦めします。なぜなら、子どもへの暴力(児童虐待)の最たるものは、「戦争」だと私は考えるからです。表紙画は2005年に日本人初のアストリッド・リンドグレーン文学賞受賞の荒井良二。

教えてくれたのは

児玉ひろ美(こだま・ひろみ)

公立図書館司書とJPIC(*)読書アドバイザーのふたつの立場から子どもの読書推進活動を展開。幼稚園・保育園から中学生まで、お話し会やブックトークの実践とともに、成人への講座や講演は年100回を超える。近年は短期大学にて「児童文化」「絵本論」の講義を担当し、「202120222023年度ブックスタート赤ちゃん絵本 選考委員」でもある。著作に『0~5歳子どもを育てる「読み聞かせ」実践ガイド』(小学館)等があり、雑誌やWEBでも連載中。

(*)JPIC(ジェイピック):一般社団法人 出版文化産業振興財団

Hugkumアーカイブ「子どもの読書のプロ 児玉ひろ美の絵本ガイド

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