かこさとしさんの娘・万里さんが語る父との思い出。幻の絵本『てづくり おもしろ おもちゃ』の復刻秘話とは

この連載は、子どもの未来を想って商品やサービス、作品を作っている方に会いに行くインタビューです。第5回はかこさとし先生の娘さん、鈴木万里さんに、お父様との思い出や絵本についてインタビューしました。

連載「子どもの未来を想う人に会いに行く」Vol.5 加古総合研究所 鈴木万里さん

子どもが退屈そうなとき、何か面白い遊びを次々と提供できたらいいですが、あまり思いつかないし、疲れているし……と、ついテレビやYouTubeに任せてしまったりすることってありますよね。かといって、飽きないようにとおもちゃを与えすぎるのも考えもの。

そんな悩める現代の親がちょっと肩の力を抜いて、生活の中に当たり前にあるものに簡単なひと工夫するだけでできる遊びをたくさん提供してくれるのが、『からすのパンやさん』や『だるまちゃん』シリーズで知られるかこさとしさんの絵本『てづくり おもしろ おもちゃ』。1968年に発行されたこちらの絵本、当初は英語で書かれた、アメリカでのみ販売された幻の絵本でした。

一体どういった内容が描かれ、なぜ今になって日本語版が出版されることになったのでしょうか? 当時のかこさんの想いを知る、かこさんの娘である鈴木万里さんに、出版の経緯などのお話を伺いました。

アメリカで1968年に出版された幻の絵本『てづくり おもしろ おもちゃ』

1968年にアメリカで出版された本が今、日本で発売されることになったのはある縁から

――どういう経緯で、1968年にアメリカで出版された本が今、日本で発売することになったのでしょうか?

鈴木万里さん(以下敬称略):今はもう絶版になっているんですが、かこ(さとし)は1967年に『日本伝承のあそび絵本』という本を出版していたんです。

戦後、日本が復興してきて、新幹線ができたり東京がタワーが建ったりと、とにかく右肩上がりの時代でした。次々にアメリカからいろんなものが入ってきて、新製品が出てくるような時代だったので、みんな新しいものを大歓迎していました。

そんな時代に“日本伝承の遊び”という、どこかクラシックな、おじいちゃんやおばあちゃんと昔一緒に遊んでいたような、非常に懐かしい遊びをひとつにまとめた本ということで、逆にセンセーショナルに受け止められました。

新聞に取り上げられたり、かこがテレビに出演したりなど、メディアでも注目されたんです。

要するに新しいものにばかりみんな目がいっていたんですけれど、どこかで「古くて懐かしいものが失われてしまうと寂しいな」という気持ちがまだ日本人の中にあったんだと思うんですね。昔あったいいものだって今にも通じるよ、楽しいよ、まだ面白いよっていうようなことを思い出させてくれる本だったから、みなさんふと目を止めてくださって。

多分そういう状況をご覧になっていた方が、この本をもとにして、“日本にはこんないいものがある”ということを発信したくて『てづくり おもしろ おもちゃ』をアメリカで出版しようとしたのではないかなと思います。かこも、ちょっぴりアメリカというか海外を意識したタッチで描いていますよね。

1967年に出版された『日本伝承のあそび絵本』

――当時の反響はわかりますか?

鈴木:それが、今のようにインターネットやSNSもなかった時代なので、アメリカでの反響を知ることができなかったんです。ましてや日本ではほとんどこの本は目に触れないので。うちにも実はこの本は1冊しかないんです。編集者さんとお話しているときにこの本の話題になって、そこで話の花が咲き、彼女はすごく気に入って「日本でも出したい」と。それがもう、3年前くらいですね。夢物語的にそうなったらいいわねなんて言っていたのですが。ついに今年日本語版と英語版で出版できたのです。

1968年出版のアメリカ版と今回の日本版との違い。犬の動作を表す単語が入った

――日本語版を出すにあたって、変更した部分はありますか?

鈴木:唯一変えたのは、P31の犬の絵のところですね。とてもかわいらしい犬たちが、いろいろな動作を表しています。アメリカで出たものにはなかったんですが、今回は日本語版でも英語版でも動作を表す言葉を入れようかということになりました。

あとは、最初に入っている扉の端っこに、デザイナーさんがアクセントとして日本語版と英語版で違う犬の絵を選んで入れてくださっています。

今回、英語版も今の時代に合わせて新しくなったのですが、ちょっと古臭い英語だったところは変えています。あと、最初のご挨拶は、かこ独特の日本語、語り口なんですけれども、それを忠実に訳そうとしていたので、ちょっと窮屈な印象でした。そこは少し変えましょうと。でもなるべく元は尊重したいということで、ほとんどそのままです。

実際にかこさんと親子で作っていたおもちゃがたくさん。子供時代の思い出がよみがえる

――本の中で実際に昔遊んでいたものはありますか?

鈴木:半分以上、父と一緒に遊びましたよ。トウモロコシの芯で作るお人形だとか草笛だとか、全部家にあるものでできるんですよね。かこが子どもの頃は、おもちゃといえば自然の中の草花で遊ぶか、せいぜい紙くらいしかなかったので、ほとんど自分で作っていたそうです。

また、私は自分の相棒になるようなペットが欲しかったんですが、飼えなかったので、「紙の子犬」はそういう発想から作ってくれたものです。

新聞紙の兜なんてしょっちゅう作ってかぶせられていましたよ。あと王冠の腕時計もすごくたくさん作ったのを覚えています。

時代背景をご説明すると、当時まだまだ既成の子ども服は少なかったんです。ようやく私が小学校に上がる頃になって、ちょっといいものが出てきたぐらいで。それまではお母さんだったりおばあちゃんだったりが手作りして、スカートでも何でも作っていた時代です。そうすると、端切れというのがどこのうちにもたくさんありました。その端切れをもらってリボン状に切って、腕時計のベルトにしました。腕時計をすると大人になったような気分になれたものです。

あと、ハンカチのバナナ。これはどちらかというと私たち子どもが学校で仕入れてきて、こうして作ると教えてあげたような気がします。

それこそ今のSDGsがうたわれる時代に、環境にも優しいですよね。ゴミになる一歩手前のもので遊ぶのですから(笑)。そういう意味合いでも、この本は何かお役に立てるんじゃないかしらと、作り終わってからしみじみと思っています。

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