かこさとしさんの娘・万里さんが語る父との思い出。幻の絵本『てづくり おもしろ おもちゃ』の復刻秘話とは

身近なものから面白い遊びを見つけてくれた父・かこさとし

かこさんが紙で作ったおもちゃ

――身近にあるもので一緒に遊んでくれる素敵なお父さまだったんですね。

鈴木:ほんのちょっとでも時間があれば、例えばミカンがあればタコちゃんを作るし、新聞があれば兜を作るような父でした。そういうふうに一緒に過ごす時間というのは、子供にとってはすごく幸せでしたね。それは、時間の長さじゃないと思うんです。

あれから50年も経ち、今の世の中、子どもたちの遊び方もずいぶん変わってきています。でも、紙切れ1枚でもいいので、身近なものからこういうちっちゃなものを作って、親子で、お友達同士で短い時間でも共有することが、非常に心に残るふれあいなんじゃないかなと思うんです。

かこは忙しかったので、たくさんの時間遊んでくれるというよりは、ちょっとしたところで何か面白い手品を見せてくれるとか、紙芝居を読んでくれるような父親でした。

また、とても細かく気がつく人だったので、日常の中でも家族が困っていることはすぐに改善してくれましたね。例えば小さい頃、今のように大きな鏡が家になくて、子供は背が小さいので鏡に映らなかったんですが、それに気づいて子ども用の小さい鏡を低い位置につけてくれました。

大学時代は演劇研究会で舞台装置なども自分で作っていましたから、すごく手先が器用で、いつでも手を動かしている人でした。ちょっとしたところで遊びの要素を入れてくれるというか、そういうところがうれしかったです。

かこさんの絵本から海や山のイメージを強く持っていたという鈴木さん

――かこさんの絵本で特に好きなものは?

鈴木:難しいですね……もちろん全部好きです。

私が一番最初にかこの本を見たのは『だむのおじさんたち』というデビュー作でした。この絵本に出てくる山の景色をずっと見ていたんですよ。小さい頃、2歳くらいかな。それで私にとってはこれが山なんです。私は川崎で育ったので、実際には見たことがなかったんですよね、高い山も海も。

だから私にとっての山とか海っていうのは、絵本で見たこの風景なんです。絵本を通して、いろいろな風景を実際に行くよりも先に目にするっていうのが面白い感覚でしたね。

遊ぶことは学ぶこと。『てづくり おもしろ おもちゃ』を通じて想像力を育んで

――最後に、この本を通して今の子どもたちに伝えたいメッセージはありますか。

鈴木:この本の中で面白そうだなと思ったものを、ぜひひとつでも作ってみてほしいです。それをきっかけに、例えばおうちの中でもお友達の間でも何か会話が進んでいく、あるいは何か想像の物語が進んでいく。そういう発展をしていってくれたらすごくうれしいことだと思います。

一緒にやってみると、けっこう子どもの方がよくわかっていたり、図を読んで「こっちに曲げているよ」とか、「こっちに入れるんじゃないの」とか、よく気がついたりすることもありますよ。作っている最中で、ふだん見えないお子さんの性格や言葉が見えてきたりします。

かこの生まれ故郷である福井県越前市に「越前市かこさとしふるさと絵本館」という施設があるんですけれども、そこでこういうもの作りのイベントをよく開催しているんですね。親御さんたちはあんまり口出ししないで見守ってくださったり、あるいは一緒にやられる方もいます。家だと忙しくてせかしたりするけれど、もうその場ではその時間、作ることに没頭するので、けっこう長いこと集中して全部ひとりで頑張るとか、「うちの子ってこんなことが得意なの」と子どもの意外な面を発見したりできるんです。

子どももやっぱりうれしいんですよ、自分の力でものができあがると。それで「すごいね、頑張れたね」というひと言がもし親御さんから聞けたら、そのお子さんはすごく幸せだし満足ですよね。テストで100点を取るよりうれしいんじゃないかな(笑)。

それに、子どものすごいところは、例えばハンカチのバナナなんて、黄色くなくてもちゃんとバナナに見えるんですよね。すごくリアルなものもいいかもしれないけど、子どもの時代だからこそできる、そういう見立てる力とか見つける力っていうのを、小さいうちに磨いておかないといけないんじゃないかなという気がしています。

『てづくり おもしろ おもちゃ』の表紙に描かれているおもちゃは、かこさんが実際に作ったものが残っている

――ハンカチのバナナは自分も昔作ったことがあるのを思い出しました。

鈴木:それこそ何年かしたらふと思い出すとか、そういうことってあると思います。それは、あなたを作っている大切なものの一つではないでしょうか。そうやって自分が親御さんとやっていたことをお子さんに伝えて一緒にやっていたら、また親御さんのことも思い出すでしょうし、そういう繋がりが後になってくるととても大切なものだと感じます。

それから、こういうもの作りや、外遊びもそうだと思うんですが、それが上手でも下手でも、自分で考えて自主的に工夫していくことで自信がついていったり、想像力が育まれるのだと思います。

だから遊ぶということは学ぶということに通じるし、賢い子に育ってほしいというのは知識をたくさん持ってほしいという意味ではなくて、自分の体や手を動かしながら体得してもらいたいという意味なんです。

選択肢が多い今、私たち大人も価値基準に迷うと思うんですけれども、手を動かしてやってみることによって何か気づくことだったり、楽しめることがあるのではないかしらと私は思うんですね。

この本を手にしていただいた方が、お子さんと何か作ってみて、ふとそういうことを思っていただけるのでしたらすごくうれしいですし、この幻の絵本が長い眠りから覚めた意味もあるのかなと思います。

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<Information>

八王子市夢美術館特別展「かこさとしの世界展 だるまちゃんもからすのパンやさんも大集合!」

2020 年に会期途中で中止となった特別展「かこさとしの世界展 だるまちゃんもからすのパンやさんも大集合!」を再開催。

1959年、32歳のときに絵本を発表して以来、物語絵本から科学絵本、絵画や歴史、健康に至るまで、生涯600冊を超える著作を生み出してきた日本を代表する絵本作家、かこさとし。その代表作をはじめ、少年時代に描いたスケッチや絵日記、子ども会での紙芝居、これまで発表されることのなかった絵本の原画や下絵など、貴重な作品や資料を公開する。

かこさとしの創作の軌跡をたどりながら、かこがどんな想いで子どもたちと向き合い、絵を描き、絵本を作ってきたのかをひもといていく展示となっている。

会期:開催中~2022 年 1 月 23 日(日)
会場:八王子市夢美術館(東京都八王子市八日町8-1 ビュータワー八王子2F)
休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館し翌日休館)、12月29日(水)~1月3日(月)
開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)
観覧料:一般/¥600、学生(高校生以上)・65 歳以上/¥300、中学生以下無料

※入館に際しては、マスク着用等、新型コロナウイルス感染拡大防止対策にご協力ください。展覧会は中止または変更、入場制限を行う場合があります。最新の情報は「八王子市夢美術館」公式ホームページまたはお電話でご確認ください。

取材・文/小林麻美 カメラ/五十嵐美弥 構成/HugKum編集部

かこさとしさんギャラリー

 

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