SDGs目標16が目指す世界は?「平和と公正」を阻む問題を知って、できることを考えよう

SDGs目標16は「平和と公正をすべての人に」です。世界には武力紛争によって日常が奪われたり、非合法的に働かされたりなど、理不尽な思いをしている人がたくさんいます。皆が等しく平和で公正な世界に変えるために、できることを考えていきましょう。

SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」

SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年の国連サミットで採択された17の国際目標です。2030年までに「持続可能でよりよい世界」を目指すとし、地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓っています。

「誰一人取り残さない」とは、世界中の全ての人が公平な立場にあり、平和に暮らせることです。SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」で、まさに「誰一人取り残さない」の誓いを達成するための目標といってよいでしょう。

10のターゲットを設定

SDGs目標16では、10のターゲット(具体策や課題)を設定しています。ターゲットの内容は、以下の四つのポイントにまとめられます。

・暴力や暴力による死、搾取の減少
・違法な資金や武器取引、汚職等の減少
・法や公的機関の整備と平等なアクセス手段の提供
・開発途上国におけるテロや犯罪撲滅への支援

暴力や不正が許される状態が続けば、弱い立場にある人は取り残され、持続可能な社会を実現できません。目標16ではあらゆる暴力や不正の根絶と、それらが生まれない体制作りを目指しています。

絶えない暴力被害

10のターゲットの2番目には「子どもに対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する」とあります。

子どもの暴力被害は深刻で、世界では子どもの5人に1人が暴力により命を落としているといわれるほどです。子どもは暴力を受けても訴える術がなく、表沙汰になりにくいため、実際はもっとたくさんの被害があると考えられています。

家庭や学校など、本来は守られるべき場所で暴力被害に遭うと、心に深い傷を負ったまま成長することにもなるでしょう。幼少期に虐待されていた人が、自分の子どもを虐待するケースも報告されています。

子どもが暴力に怯えず笑って暮らせるように、一刻も早い対策が求められているのです。

参考:16.平和と公正をすべての人に | SDGsクラブ | 日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)

グローバル・ガバナンスが重要

ターゲットの8番目には「グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する」とあります。

グローバル・ガバナンスとは、貧困・飢餓・環境問題・感染症・テロなどの一国では対応が困難な問題に対し、地域や国境を越えて解決に当たるための意思決定の仕組みです。

これは「誰一人取り残さない」を実現するための、重要なポイントといえます。

現在、国連を始め11のグローバル・ガバナンス機関があり、地球規模の問題解決に取り組んでいます。ただし加盟国全てが平等に投票権を持ち、意思決定に参加できる訳ではありません。財政的な貢献度に応じて投票に重みをつける機関もあり、開発途上国のような財政的に厳しい国の意見が反映されにくくなっているのです。

SDGs目標16を受けて、グローバル・ガバナンスが公正に行われるよう、開発途上国が参加しやすい仕組み作りが進んでいます。

世界で起きているさまざまな問題

世界で起きている問題を見ると、平和で公正な社会にはほど遠いことが分かるでしょう。特に解決が急がれる問題を三つ紹介します。

武力紛争下での生活や難民の発生

アフリカや中東、東南アジアの一部の国では、現在でも激しい武力紛争が頻発しています。子どもを支援するNGO「セーブ・ザ・チルドレン」が2020年にまとめた報告書によると、紛争が続く地域で命の危険にさらされながら生活する子どもは、4億人以上もいるそうです。

また。2021年6月にUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が発表した報告書によると、世界中で8240万人が紛争によって住む場所を追われ、国外への避難を余儀なくされています。こうした「難民」の多くが、立場の弱い女性や子どもです。

紛争地域や難民キャンプでの生活は、明日をも知れぬ不安との闘いです。国際社会は武力紛争を治め難民の発生を防ぐことはもちろん、現在困窮している人たちを救い、安定した生活基盤を用意する責務があるのです。

参考:
紛争地域に住む子どもたちの人数が過去10年で最大に―兵士として利用されるリスクも急増|セーブ・ザ・チルドレン
数字で見る難民情勢(2020年) UNHCR Japan

なくならない人身取引

「人身取引」は、搾取を目的とした人の獲得や輸送、引き渡し行為のことです。搾取には、売春・強制労働・奴隷化・臓器摘出などが含まれます。

人身取引は暴力や誘拐、詐欺などさまざまな手段で行われており、2016年の時点で被害に遭う人は世界で4030万人もいると推定されています。ただし、人身取引のほとんどは密かに行われるものです。実際には、この何倍もの犠牲者がいると考えてよいでしょう。

犠牲者のうち、約25%は子どもといわれています。人身取引がなくならない背景には、深刻な貧困があります。生活のために親が子どもを売ったり、家族を思う子どもが騙されたりするケースが後を絶ちません。

参考:人身売買|国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン

出生登録がない子どもたち

世界には出生登録がなく、存在しないことになっている子どもがたくさんいます。出生登録がない子どもは身元が証明できないため、公的サービスの対象外です。

そのため、教育や医療が受けられず人身取引や虐待の被害に遭っても助けてもらえない、といった悲惨な状況に追い込まれることが容易に想像できるでしょう。

特にアフリカ地域は出生登録率が低く、10%に満たない国もあります。出生登録には費用がかかる上に、自ら役所に出向かなければならないため、貧しく交通手段も十分でない地域では登録が進まないのです。

「誰一人取り残さない」を実現するためにも、登録しやすい制度を整えることが急務なのです。

世界平和のための活動

平和で公正な社会の実現には、世界規模での活動が欠かせません。国境に関係なく行われている、平和のための活動を紹介します。

PKO(国連平和維持活動)

「PKO(国連平和維持活動)」は、紛争の拡大や長期化を防ぐために、国連が紛争国へ小規模な軍を派遣する活動です。

軍の派遣といっても、武力行使によって戦争を止めさせるのではなく、間に入って停戦を見届け、戦後の復興をサポートするのが主な任務です。

当初は、主に国家間の紛争を鎮静化させる役割を果たしていました。しかし昨今の国内紛争の増加に伴い、活動内容も変化しています。

例えば紛争解決後に、難民の帰還・破壊されたインフラの整備・選挙の実施や法整備などによる内政安定化などをサポートするのも、PKOの重要な任務です。

参考:国連平和維持活動(PKO)|外務省

ユニセフ(国連児童基金)

「ユニセフ(国連児童基金)」は、第2次世界大戦により家や親を失った子どもを救うため、1946年に国連の第1回総会で創設されました。敗戦によって困窮していた日本の子どもたちも、過去にユニセフの支援を受けています。

現在は、開発途上国を中心に、子どもたちの暮らしを改善する活動を幅広く展開しています。具体的な活動例は以下の通りです。

・子ども兵士や強制労働からの解放及び自立支援
・乳幼児へのワクチン接種
・安全な水や衛生設備の提供
・教育支援
・栄養面の支援
・自然災害や感染症など緊急時の支援

参考:日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)

▼関連記事はこちら

自分の子だけじゃない。親になったからこそ、世界の子どもにできること【Donation to SDGs! ユニセフ編】
SDGsという言葉があちこちで聞かれるようになった今、「何かしたい」と思っても、具体的な動きを起こすのは意外と難しいですよね。特に、子育...

SDGs目標16に対する日本の取り組み

日本は武力紛争がなく平和な国の一つですが、子どもへの虐待・暴力は大きな社会問題になっています。SDGs目標16達成に向け、日本ではどのように取り組んでいるのでしょうか。

子どもに対する暴力撲滅行動計画

2021年8月に、政府は「子どもに対する暴力撲滅行動計画」を策定しました。児童への虐待、性的搾取等・性暴力、いじめ、体罰の四つの分野で、現状と取り組みについてまとめられています。

行動計画は、実施状況を毎年評価した上で、3年後に見直しを行う予定です。計画の策定には、ネットで募集した子どもたちのコメントも反映されています。

「暴力を受けたり見聞きしたりした」と答えた子どもは約7割にもなり、暴力が身近にある現状が明らかになりました。暴力をなくすためのアイデアや、大人への要望など具体的な意見も多く寄せられたため、政府は今後も子どもたちの声を集め、計画の見直しや実行に役立てる方針です。

参考:子どもに対する暴力撲滅行動計画(概要)

体罰の禁止

2020年4月には、体罰の全面禁止を明記した「改正児童虐待防止法」が施行されました。

施行にあたり、厚生労働省では体罰と「しつけ」の範囲を明確に示したガイドラインを公表しています。「しつけ」と称して子どもに体罰を与える親も多い現状を考慮したもので、体罰の具体例やしてはいけない理由、正しいしつけのポイントなどを分かりやすくまとめています。

なお、改正児童虐待防止法の成立により、日本は世界で59番目の体罰全面禁止国になりました。ちなみに世界で最初に体罰を廃止した国は、1979年のスウェーデンです。

参考:
体罰等によらない子育てのために – 厚生労働省
日本が世界で59番目の体罰全面禁止国へ : 子どもすこやかサポートネット

「子どもの権利条約」を批准

「子どもの権利条約」は、子どもの基本的人権を国際的に保障するために、1989年の国連総会で採択された条約です。発効は1990年で、日本は1994年に批准しています。

批准国には、国連の「子どもの権利委員会」に対して定期的に報告を上げ、審査を受ける義務があります。条約批准後は、日本国内でも子どもの権利を守るための具体的な議論が活発化しました。

地域の状況に合わせて独自の条例を定め、活動する自治体も少なくありません。「子どもの権利」の概念を社会に浸透させるため、民間団体や個人が連携してキャンペーンを展開するケースもあります。

参考:「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」とは?

4つの原則・4つの権利

「子どもの権利条約」の主体は、18歳未満の全ての人です。子どもならではの事情に配慮し、以下の四つの原則が定められています。

・子どもの命が守られ、健やかに成長できる
・子どもにとって最もよいことを第一に考える
・子どもが意見を表明でき、その意見に大人が十分応える
・差別されず、条約の定める全ての権利が保障される

また条文は全部で54ありますが、権利の内容は大きく以下の四つに分類されます。

・生きる権利:衣食住や医療の充足により命が守られる
・育つ権利:十分な学びや遊びを経験し、自分らしく生きられる
・守られる権利:虐待、搾取、差別、戦争などから守られる
・参加する権利:自由に意見を述べたり活動に参加したりできる

参考:子どもと先生の広場:日本ユニセフ協会

▼こちらの関連記事も

日本でも広がる経済格差とは? 教育格差への負の連鎖や対策も紹介
日本でも広がる経済格差 個人や地域、国同士の間に生まれる経済力の差を「経済格差」といいます。社会で経済活動が行われている限り、富める者とそ...

私たちがSDGs目標16のためにできること

平和で公正な社会といっても範囲が広く、個人レベルでの寄与は困難に思えるかもしれません。しかし少し意識するだけで、世の中をよくしていくことは可能です。

SDGs目標16のために、簡単に実行できることを紹介します。

選挙に行こう

選挙結果は、国民の意思の表れです。選挙に行けば、平和な世界構築に対する自分の思いを政治に反映させられます。

日本は憲法の下で長く平和が守られてきましたが、近年は憲法を改正して武力行使できるようにしようとの議論も起こっています。世界平和のためにはどちらがよいのか、私たち一人一人が判断し、意見を届ける必要があるのです。

家事や育児に忙しくて政治に関心を持つ暇がない人も、選挙のときくらいは候補者の政策に耳を傾け、投票所に出掛けてみましょう。

オレンジリボン運動に参加しよう

「オレンジリボン運動」は、児童虐待防止を目指す活動です。2004年に栃木県小山市で幼い兄弟が虐待の末亡くなった事件をきっかけに、翌2005年から始まりました。

運動の窓口となっている「児童虐待防止全国ネットワーク」では、個人のサポーターを募集中です。サポーターに登録すると、啓発イベントやボランティアの参加案内がメールで配信されます。

イベントなどへの参加は義務ではなく、無理のない範囲で構いません。メールを受け取るだけでも、虐待の現状を知るきっかけになります。

直接金銭を寄付したり、グッズを購入したりして活動を支援してもよいでしょう。

参考:オレンジリボン運動 – 子ども虐待防止

一人一人が世界平和のための行動を

SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」を達成するために、国連関連機関を筆頭に、さまざまな国や機関が取り組みを強化しています。特に子どもの権利を守ることは、世界中の親が期待を寄せる重要な活動です。

子育て中の人も、これから子どもを持ちたいと考えている人も、私たち一人一人が子どもに関心を持ち、できることを始めていきましょう。

あなたにはこちらもおすすめ

SDGsの目標10とは? 人や国の不平等をなくすために 今できることは
目標10「人や国の不平等をなくそう」 SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年の国連サミットで採択された国際目標です。17の目標と16...
使い終わったランドセルでできる社会貢献。発展途上国の小学生に贈る「思い出のランドセルギフト」とは?
卒業シーズンとなりました。もう使わなくなるランドセル、どうしますか?「6年間、毎日使い続けたものだから捨てられない」というママは意外と多いよ...

構成・文/HugKum編集部

今回の記事で取り組んだのはコレ!

  • 16 平和と公正をすべての人に

SDGsとは?

編集部おすすめ

関連記事