日本でも広がる経済格差
個人や地域、国同士の間に生まれる経済力の差を「経済格差」といいます。社会で経済活動が行われている限り、富める者とそうではない者の差が生じるのは自然な現象です。
経済格差が広がり、定着すると格差社会になります。現在の日本も貧富の差が明確な、格差社会といわれています。
子どもの未来にも関わってくるため、日本が格差社会になってしまった理由を見ていきましょう。
格差社会をつくる原因
日本で経済格差が広がった主な原因は「非正規労働者の増加」です。2004年の改正労働者派遣法の施行により、企業が非正規労働者を雇用する上での自由度が増しました。
そもそも労働者派遣法は、企業側には人件費削減のメリットが、労働者側には働き方を選べるメリットがある制度です。
しかし、企業が非正規雇用枠を増やしたため、正社員登用へのハードルは高くなり、非正規雇用のまま働き続ける労働者が増えたのです。
非正規雇用者は賃金の上昇がほとんど見込めないほか、企業の都合で急に失業するケースも多く、正規雇用者と比べて所得が低く抑えられがちです。
日本では当たり前だった年功序列や終身雇用の概念が崩れ、成果主義が浸透しだしたのも、経済格差を生み出す原因となりました。雇用形態の変化によって広がった労働者間の経済格差が、日本の格差社会につながっているのです。
日本や世界における現状
経済格差の状況は国によってさまざまです。日本や世界における現状を見ていきましょう。
日本では20代30代と高齢者に格差あり
内閣府が2004年と2010年の「ジニ係数」を比較したデータによると、20~30代と高齢者に所得格差が広がっていることが分かります。
ジニ係数とは、0から1までの数値を用いて、所得がどの程度平等に分配されているかを表す指標です。完全に平等な状態が0で、不平等になるほど1に近づいていきます。
ただし、発表されているジニ係数には「当初所得」を対象にしたものと、「再分配所得」を対象にしたものの2種類があるため、データを見るときには注意が必要です。
「当初所得」とは前年の所得、「再分配所得」とは保険料・税金の控除や社会保障給付を加味した所得のことです。
厚生労働省の発表を見ると、当初所得ジニ係数より再分配所得ジニ係数のほうが、数値が改善されていることが分かります。
つまり、保険料・税金の控除や社会保障給付を通して所得の再分配を行うことにより、所得格差は多少縮まってきているのです。
参考:
Q14 日本では格差の問題はどのようになっていますか|選択する未来 – 内閣府
図表1-8-9 所得再分配によるジニ係数の改善の推移|令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-|厚生労働省
子どもの貧困率は世界的に見ても高め
日本は世界的に見ても、子どもの貧困率が高い国です。2017年のユニセフによる報告では、日本の子どもの経済格差は41カ国中10番目に大きいとされています。
また、厚生労働省の発表では、2018年時点での17歳以下の子どもの「相対的貧困率」は13.5%です。
「相対的貧困」とは、世帯の可処分所得(手取り収入)が、その国の世帯可処分所得の中央値と比較して半分未満にある状態を指します。
子育て世代でもある20~30代で広がる経済格差が、子どもの貧困率にも影響していると考えられます。
参考:
『レポートカード14』発表:日本の子どもの格差 41カ国中10番目
2019年 国民生活基礎調査の概況
世界の状況
経済格差が深刻になっている国は、日本だけではありません。
アメリカ・ヨーロッパの先進国や、急激に経済が発展した中国、IT大国となったインドでは、一部の人が富を独占し、そうでない人との間に歴然とした所得格差が生まれています。
これらの国は一見すると、経済が発展して潤っているように見えます。しかし、実際は富裕層が資産をより増やしているだけで、国民全体が豊かになっているとはいえません。
また、世界では3億8500万人の子どもが極度の貧困状態におかれています。その割合は同じ状態の大人と比べて2倍とされており、対策が急がれます。
参考:子どもの貧困 3億8,500万人が極度の貧困 ユニセフ・世銀が発表
格差社会は教育格差にもつながっている
格差社会が教育格差につながると耳にして、不安を感じる人も多いのではないでしょうか。子どもの将来に関わることですから、子育て世代としては大変気になるポイントです。
親の経済格差が子どもに影響を与える仕組みを見ていきましょう。
学校外教育で顕著になっている
日本で教育格差が生じる主な原因は、学校外教育にあります。学校外教育とは、塾や習い事、体験活動、教材購入など、学校以外の教育活動のことです。
文部科学省が子どもの学習費を調査したデータによれば、公立小学校に通う子どもの親が負担する学習費のうち、66.7%を学校外教育費が占めています。
所得が少ない家庭では学校外教育費を捻出できず、子どもに十分な学習機会を与えることが難しくなるのです。こうした点から、親の経済力の差は教育格差を生む一因といえるでしょう。
出典:子供の学習費調査
問題となる10歳の壁
教育格差を広げるもう一つの原因が「10歳の壁」の存在です。実は、家庭の所得による学力差は、9歳まではそれほど見られません。しかし、10歳を境として学力に大きな差が出てしまうのです。
10歳といえば小学4年生になる年齢です。4年生以降は学習する科目が増え、内容も難しくなっていきます。このため、塾や親による勉強のサポートなど、学校以外での学習時間の長さが学力に直結しやすくなるのです。
低所得家庭では、子どもを塾に通わせる金銭的余裕も、親が勉強を見てあげられる時間的・精神的余裕もないケースがほとんどなのです。
貧困による負の連鎖は世代を超える
所得が低い家庭で育ち、十分な教育機会に恵まれなかった子どもは、大人になっても貧困状態が続く可能性が高くなります。学力が低いと進学先が限られてしまい、所得の高い職業に就けるチャンスも少なくなるからです。
大人になった彼らが家庭を持って子どもを生んだとき、その子どもも貧困状態を引き継いでしまうでしょう。次の子どもの代にも状況は変わらず、負の連鎖が続くことになります。
教育格差是正のために行われていること
教育格差を是正するために、日本では自治体や公益法人などが中心となって、さまざまな対策が行われています。主な対策について、具体的に見ていきましょう。
学校外教育の支援
教育格差を埋めるためには、学校外教育の支援が欠かせません。多くの地方自治体では、地域の人々の協力を得て「放課後子ども教室」を開き、勉強やスポーツ体験など、子どもの学校外教育を支援しています。
また、公益法人「チャンス・フォー・チルドレン」では、貧困家庭の子どもを対象にスタディクーポンを提供しています。
クーポンの使いみちは、塾や習い事などの学校外教育に限定されているため、他の目的に使われる心配がありません。子どもが通いたい場所に確実に通える制度として、注目されています。
経済格差は負の連鎖を呼ぶ
経済格差は、国の方針や産業構造の変化など、さまざまな要因によって生まれます。格差社会では逆転が難しく、一度生まれた格差を個人の努力だけで埋めるのも困難です。
経済格差は負の連鎖を呼び、子や孫にも受け継がれてしまいます。未来を担う子ども達の運命が家庭環境で決まってしまう今の社会は、早めに変えていかなければならないでしょう。
文・構成/HugKum編集部