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そもそもSDGsとは?
近年、テレビや企業のHPでよく目にする「SDGs」という言葉は、「持続可能な開発目標」を意味する「Sustainable Development Goals」の略語です。国連サミットで決定された国際社会共通の目標で、日本でも企業や教育団体、地方自治体などが達成に向けた取り組みを行っています。
SDGsが始まった背景
SDGsは2015年の国連サミットにおいて、全会一致で採択された国際目標です。2016~2030年までに世界各国が協力して達成すべき内容を定めたもので、17のゴールと169のターゲットから構成されています。
SDGs(持続可能な開発目標)の「持続可能な開発」とは、「環境に影響を与えず、その活動や開発を維持できること」を意味します。
現在、世界は貧困や飢餓、環境破壊などの危機的状況に直面しています。産業革命以降の急速な社会発展は一部の人々に恩恵をもたらしましたが、その陰で貧富の差が生まれました。
さらに、経済活動の拡大で地球上の自然資源は搾取され、このままでは資源の枯渇や生物多様性の消失が懸念されます。
危機的状況が迫る中、「誰一人取り残さない」という理念のもと、世界中の人々が平和と豊かさを享受できるように掲げられたのがSDGsなのです。
参考:SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
SDGsが掲げる17の目標
SDGsは、2000年の国連サミットで合意された「MDGs(ミレニアム開発目標)」が前身です。MDGsは主に開発途上国に向けた目標でしたが、SDGsは「開発途上国と先進国の両方が取り組むべき目標」とされています。
具体的には、持続可能な未来を築くために「社会」「経済」「教育」の三つの側面から17のゴールを設定しています。
- 社会アジェンダ:貧困・飢餓・教育・福祉など
- 経済アジェンダ:エネルギー資源の有効活用・働き方改善、不平等の解消など
- 環境アジェンダ:環境問題・気候変動・海洋資源の保護など
17の目標には全169のグローバル指標(ターゲット)が紐づけられています。
例えば、「目標1」に掲げられた「貧困をなくそう」の場合、「1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困を終わらせる」「貧困状態にある全ての年齢の男性・女性・子どもの割合を半減させる」などがターゲットです。
これらを達成するには、政府だけでなく、企業・地方自治体・学校・個人の力が欠かせません。
参考:JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
「質の高い教育をみんなに」とは?
「質の高い教育をみんなに」は、SDGsが掲げる目標の4番目です。「すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」をテーマとし、2030年までに達成すべき10個のターゲットを設定しています。
目指すところは、性別や年齢、生まれた場所などに関係なく、誰もが質の高い教育が受けられる環境を作ることです。具体的なターゲットの一例を紹介しましょう。
- 全ての子どもが男女の区別なく初等・中等教育を修了できる
- 高等教育へのアクセスが平等に得られるようにする
- 仕事に関係する技術や能力を備えた若者と成人の割合を増やす
- ジェンダーや障害者などの脆弱層に対する不平等をなくす
- 全ての若者や大半の大人が読み書き能力や基本的計算能力を身に付ける
発展途上国や後発開発途上国においては、国際協力での教員研修によって、「質の高い教員の数」を増やすことも重要とされています。
SDGsの目標に教育が挙げられる背景
SDGsの目標に「教育」が掲げられるのは、「教育格差」が世界で大きな問題となっているためです。教育は「全ての子どもが享受できるはずの権利」ですが、世界中の一部の国や地域では、権利が日常的に侵害されている現状があります。
知っておきたい世界の教育格差の現状
我が国には義務教育制度があり、教育の機会が均等に与えられていますが、世界には初等教育さえ受けられない子どもたちが多く存在します。
ユニセフが発表する「世界子供白書2019」によると、「初等教育の非就学児率」は、東アジア・太平洋諸国で4%なのに対し、アフリカや後発開発途上国は17~20%という高い割合です。
また、ヨーロッパや東アジアでは「15~24歳の識字率」が99~100%である一方、アフリカ諸国では60~80%程度という低い結果が出ています。
教育格差が生む問題
高度な技術を習得すれば、それだけ多くの賃金や報酬がもらえますが、初等教育すら受けておらず、読み書きもまともにできない人は、働ける職種や業種が一部に限られます。
大抵は低賃金・重労働であるケースが多く、「働いても働いても豊かになれない」という負のループから抜け出すことができないのです。
更に、所得の低い親の元で育った子どもは、教育の機会が十分に与えられないケースが多く、貧困は下の世代にも連鎖します。
世界には、「女性に教育は必要がない」という価値観を持つ国や地域もあります。児童婚や強制結婚を強いられることがあり、急激な人口増加をまねく要因にもなっています。
教育格差が生まれる原因
国や地域によって、教育格差が生まれるのは何が原因なのでしょうか? 特に、子どもの未就学率や識字率が低い国々では、貧困や戦争、病気の蔓延が大きな問題になっています。
貧困
教育格差が生まれる大きな原因は「貧困」にあるといわれています。低学力・低学歴の親は子どもを学校に通わせるお金がなく、「子どもの学ぶ機会」を奪います。
生活がままならない場合、大人だけでなく子どもまでもが「労働力」として駆り出され、農作業などの重労働に従事させられることも少なくありません。
共働きの家庭では、兄や姉が幼い子どもの面倒を見なければならないため、近くに学校があったとしても、通うのが難しいのが現状です。
教育環境の不備
義務教育制度が完備されている日本では、徒歩圏内で通える場所に学校があるのが一般的です。一方、発展途上国は「教育環境」が十分に整備されておらず、学校の数自体が不足しているのが現状です。
子どもが重要な労働力と見なされているのに加え、徒歩で通えない距離に学校があれば、教育の機会は当然失われてしまうでしょう。
学校の先生に十分な給料を支払えない貧しい国や地域もあります。教育や研修にお金を回せないため、教師がなかなか育たないのです。生活環境が整備されていない農村地帯の場合、「都市部から教師が来てくれない」といった問題もあります。
戦争や紛争、病気
世界には、紛争や戦争に巻き込まれ、教育の機会を失った子どもたちもいます。学校や家が破壊されてしまったり、難民になって他国に逃れたりして、1日を生きるだけで精一杯なのです。
アフリカや中東の一部の地域では、軍や武装グループの一員として戦闘に加わる「子ども兵」も少なくありません。こうした地域では、子どもを守り、教育を受けさせるどころか、労働力や戦闘力として扱われているのが現状です。
また、発展途上国の貧しい地域は生活環境が劣悪で、栄養失調になったり、病気で命を落としたりする子どもが後を絶ちません。
日本の教育の現状と課題点
日本には発展途上国のような教育の問題はないものの、国内における教育格差やいじめ・不登校をどう解決していくかが喫緊の課題です。教員不足や業務量の増大も懸念されており、課題は山積みといえます。
子どもに関する問題
日本では、親の経済格差による「子どもの貧困」や「教育格差」が社会的な問題になっています。
貧困家庭で育つ子どもは、一般的な家庭の子どもに比べて、学習の機会が十分に与えられず、学力や能力が低下する傾向があります。進学の機会が失われれば、将来の収入格差にもつながるでしょう。
過疎化が進む地方部は、都会に比べて学習塾や予備校などが少なく、「教育機会の不平等」も指摘されています。
また、「いじめ」や「不登校」で学校に行けなくなり、教育の機会を失う子どもも増加傾向にあります。
教員に関する問題
グローバル化や情報化など、教員を取り巻く環境は大きく変化しています。教員にはこれまでの教育活動に加え、「専門的知識や技能を修得すること」や「新たな課題に柔軟に対応する力」などが求められるでしょう。
一方で、教育現場では「教員の負担の増大」が問題視されています。授業の準備に加え、部活動の指導や保護者の対応に追われ、残業時間が過労死ラインを超える教師も少なくないのが現状です。
その結果、生徒にじっくりと向かい合う時間が減り、「いじめ」や「不登校」の見逃しにつながります。現在、教員の数は不足しており、量と質の両方から教員を確保し、育成することが課題です。
SDGsにおける日本企業・団体の取り組み
SDGsの達成に向け、日本企業や団体はどのような取り組みを行っているのでしょうか? 子どもの教育に関する取り組み事例を紹介します。
世界で行われる日本の取り組み事例
「質の高い教育をみんなに」を実現するために、教育格差の大きい国々に支援を行う企業も多く見受けらます。
三菱自動車は、台風の被害や教室数の不足に悩むフィリピンのカマイシ小学校(サマール州サンタ・リタ市)の新校舎建設を支援しました。支援金の300万円は会社からの寄付と社員有志の募金によってまかなわれています。
パナソニック株式会社では、2013年~2018年にかけ、無電化地域に暮らす人々に約10万個のランタンを寄贈しました。子どもたちが夜に読書や勉強ができるようになったほか、夜の識字教室も開かれ、教育面の向上に貢献しています。
また、ベトナムでは、ミズノ株式会社が自社開発した子ども向け運動遊びプログラム「ミズノヘキサスロン」が初等義務教育の体育教育に採用されています。
参考:
ニュースリリース | MITSUBISHI MOTORS
100 THOUSAND SOLAR LANTERNS PROJECT | Panasonic
ミズノ ヘキサスロン運動プログラム | ミズノ
お金の教育をする企業も
日本は欧米諸国に比べて、マネーリテラシーが低く、金融教育が遅れているといわれています。日本の企業の中には、次世代を担う子どもたちに「お金の教育」を行い、持続可能な社会に貢献するところもあります。
代表的なのが、「全国銀行教会」が実施する「どこでも出張講座」です。授業や教員研修に講師を派遣し、金融の知識を無料で教える内容で、高校生以上になると、クレジットカードやローンの仕組みにも触れることができます。
SMBC日興証券や株式会社長野フィナンシャルなどでも、「金融経済教育の提供」によって、次世代を担う子どもをサポートする取り組みを行っています。
私たちにできること
SDGsの目標を達成するには、個人の力が不可欠です。国や企業の力は大きいですが、一人一人が行動すれば、目標達成へのスピードはさらに加速します。今すぐ始められる二つの「できること」を紹介します。
教育に関する現状を知る
子どもの教育に関わる機会がない人は、「教育格差」や「子どもの貧困」と聞いてもピンと来ないかもしれません。まずは、教育に関する現状を把握するところから始めましょう。「知ること」もSDGsの重要なプロセスです。
開発途上国の教育課題や現状については、書籍・映画・ニュース・インターネットなどで情報が収集できます。教育の機会に恵まれない子どもを支援する団体のHPやブログなどをチェックするのもよいでしょう。
他者と考えを共有することで、自分1人では思いつかないアイデアが浮かぶケースがあります。家族や友人と意見を交換しながら、「何ができるのか」を考えてみましょう。
寄付で活動を支援する
寄付は、「物資の寄付」と「お金の寄付」に大別されます。
物資の寄付は、いらなくなったランドセルや文房具などを子どもたちに送る方法です。開発途上国へ物資を寄付する場合は、個人ではなく、「NGO」や「国際援助団体」に依頼をしましょう。団体によっては、不用品を集めて資金化するところもあります。
お金の寄付は、下限金額が決まっている場合があるため、各団体のサイトで条件をチェックしましょう。「砂漠に井戸を掘る」といった一見、教育とは無縁の寄付でも、結果的に現地の子どもの教育や未来につながるケースもあります。
お金を寄付するのに抵抗がある場合は、現金ではなく、「クレジットカードで貯まったポイント」を寄付する方法も有効です。
質の高い教育が子どもたちの未来を変える
SDGsでは「教育」が4番目の目標として掲げられています。日本人にとって、教育はごく身近なものですが、世界では貧困や紛争、病気などにより、十分な教育が受けられない人々が大勢います。
一見、平等に見える日本でも、教育格差や子どもの貧困が広がっていることも意識しなければなりません。
個人の力は微力ですが、一人一人ができることを行えば、その力は大きなものになります。まずは、教育の課題を知るところからスタートしましょう。
文・構成/HugKum編集部