日本の教育現場は今、どうなっているのでしょうか? これから小学校に子どもを通わせようとしているパパ・ママなど保護者からすれば、長らく学校生活を離れているため、なかなか実態を理解しにくいですよね。そこで今回は各種の公的な資料を基に、現代の教育現場の問題や課題をまとめてみました。
日本の教育現場の問題や課題
日本の教育現場について、どの程度の知識がありますか? 家族や親族に学校関係者がいるだとか、小学生の子どもがいるなどといった場合は、その「情報源」を通じて、ある程度は学校の様子が漏れ伝わってくるはずです。しかし、周りに子どもや関係者が全くいないとなると、教育現場に関する生の情報は、なかなか入ってきませんよね。
いじめはどうなの?
教育現場の問題と言えば、真っ先にいじめの問題が思い浮かぶと思います。日本に限らず、世界中で、しかも大昔から繰り返されてきた問題ですが、日本を中心とした東アジアでは陰湿ないじめが多い印象があります。文部科学省のホームページによれば、
<教育の現場は,いじめ,不登校,中途退学,いわゆる「学級崩壊」など深刻な危機に直面している>(文部科学省のホームページより引用)
と書かれているように、現代もやはり、いじめは教育現場を脅かす問題の1つとされています。
実際にいじめの件数は、過去と比べてどのような変化を示しているのでしょうか。文部科学省がまとめた資料を見ると、いじめは減っているどころか、過去10年間くらいで、すさまじいくらいの右肩上がりを見せていると分かります。
例えば平成30年の情報によると、小中高(特別支援学校を含む)で起きた年間のいじめ(認知)件数は543,933件とされています。この数は、前年度と比べて129,555件増えた数字になります。
具体的にどのようないじめが行われているかと言えば、ワーストの上位は、次のような内容でした。
【小学校】
- 冷やかしからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる(62.0%)
- 軽くぶつかられたり、遊ぶふりをしてたたかれたり、けられたりする(23.5%)
- 仲間外れ、集団による無視をされる(13.9%)
【中学校】
- 冷やかしからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる(66.4%)
- 軽くぶつかられたり、遊ぶふりをしてたたかれたり、けられたりする(14.1%)
- 仲間外れ、集団による無視をされる(12.5%)
小学校、中学校のいじめの内容は、大差がありません。しかし、高校生になると、「パソコンや携帯電話などで、誹謗・中傷や嫌なことをされる(19.1%)」が、ワースト2位に食い込んできます。一部には学校現場や教育委員会の根強い隠ぺい体質を指摘する声もあります。となると右肩上がりのいじめの件数は、実際はもっと多いという可能性もゼロではないはず。
不登校
不登校についてはどうでしょうか。同じく平成30年度の文部科学省の資料を見ると、不登校の生徒についても、過去5年くらいで右肩上がりに増えていると分かります。
平成30年度の情報ですが、小中学校の不登校児童生徒の数は164,528人で、前年度と比べて2万人くらい増えています。その原因として、先ほどの「いじめ」と関連付けて考えてしまう人も少なくないと思いますが、実際はいじめが原因で不登校になる子どもの数は、それほど多くありません。
むしろ、友人との何気ない人間関係や、学業成績の不振、入学や転校や進級時のクラスへの不適応など、学校での出来事がメインで、それに加えて、家庭の事情も同じくらい、不登校の引き金になっています。
この場合の家庭の事情とは、両親の離婚や死別、親子関係のトラブル、家庭内不和、家庭内暴力などが該当します。調査資料を見る限り、教育現場だけでなく、家庭環境も子どもの学びに大きなマイナスの影響を与えていると分かります。
貧困による教育格差
不登校の引き金にもなっていた家庭内不和、親子関係のトラブルには、根っこに貧困が隠れている場合も少なくないはずです。この貧困はさらに、教育格差を生むとも言われていますが、貧困による教育格差とは、実際にどの程度あるのでしょうか。
NPO法人「教育格差背景調査報告書」によると、日本で暮らす子どものうち、7人に1人が貧困に陥っているといいます。特にひとり親世帯の貧困率が高く、例えば世帯年収が200万円未満の場合、習い事に通えなかったり、年に1回、家族で旅行に行けなかったり、本や新聞が家庭になかったり、学習のためのスペースがなかったりといった特徴が見られるとか。
経済的な制限のみならず、親が忙しいために子どもとかかわる時間を持てずに、子どもの進学に対する意欲が伸びなかったり、自己肯定感が伸びなかったりする傾向が見られると言います。こうした生活環境が、子どもの学びに複雑な影響を与え、結果として「教育格差」と言われるような状況が生まれてしまっているのですね。
教職員への負荷
教育現場の問題・課題を考える際に、教員の問題も忘れていけません。特に教員の過酷な労働環境についてです。
「学校の先生なんて、夏休みとかずーっと休んでいられてうらやましい」などと、学校の先生の仕事は大した労働ではないと考えている人も、少なからずいるかもしれません。
しかし、実際はかなり重労働で、例えば文部科学省がまとめた「教員勤務実態調査(平成28年度)の分析結果及び確定値の公表について(概要)」を見ると、小学校の先生の1日当たりの学内勤務時間は11時間15分、中学校の先生はさらに長くて11時間32分です。
週に換算すると、小学校の先生(教諭)は57時間29分、中学校の先生(教諭)は63時間20分。労働基準法で言えば、
<使用者は、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません>(厚生労働省のホームページより引用)
と定められています。先生の働き方の実態は長時間労働が当たり前になっていて、その時間で生徒の指導、学校運営の業務、保護者やPTAなどの外部の対応、校外での研修や会議・打ち合わせなどに忙殺されているのですね。
日本の子どもたちへの支援・団体
日本の教育現場にはさまざまな問題があると、分かりました。こうした問題に、国や関係機関はどのように対処しているのでしょうか。
いじめの支援制度や団体は?
いじめについては、過去10年の右肩上がりの発生件数を見ると、必ずしも結果が出ているとは言えませんが、警察庁や法務省など、各省庁が学校と連携を深めて、問題解決に乗り出しています。
警察庁については、少年サポートセンター、少年相談室、少年相談専用電話のフリーダイヤル、電子メールによる相談窓口などを用意しながら、学校との連携を強化し、重大ないじめに関しては、被害者や保護者の考え・学校の対応を踏まえつつ、捜査・検挙・補導を素早く行う体制を整えています。
人権を支える法務省としても、人権啓蒙(けいもう)活動を道徳の授業などを通じて積極的に行い、人権作文コンテストの実施、「人権の花」運動の実施、人権相談窓口(子どもの人権SOSセンター、子どもの人権110番、子どもの人権SOS-eメール)の周知などを行いつつ、学校との連携を強化して、いじめへの対応を行っています。
不登校の支援制度や団体は?
不登校についても、学校と各種団体との連携が図られています。学校自体がまず、魅力のある学校づくりに取り組んでいますし、保護者や地域住人、スクールカウンセラー、ソーシャルワーカーとの連携を深めています。それ以外にも、不登校の子どもの状況に合わせて、教育支援センター、不登校特例校、フリースクール、ICTを活用した学習支援、夜間学校なども、積極的に子どものサポートを行っています。
貧困による教育格差の支援制度や団体は?
貧困による教育格差については、子どもに学びの機会がしっかりと与えられるように、幼児期、義務教育、高等教育など、子どもの成育段階に応じて、支援の体制が整っています。
例えば、小学校や中学校の段階であれば、市町村などの手続きを通じて、学習用の備品や修学旅行の費用、給食の費用の援助が受けられる修学援助制度があります。
高等学校、大学や大学院でも、保護者の収入に応じて、授業料の支援や授業料以外の支援、授業料の減免などの措置が、全ての都道府県で行われています。例えば、大学の学費については、独立行政法人日本学生支援機構が事業を実施していますし、国内の大学や地方公共団体も、生徒の支援に乗り出しています。
金銭面以外でも、教育相談を受け付けてくれるスクールソーシャルワーカーの存在や、スクールカウンセラー、家庭教育支援、地域学習支援、生活困窮世帯の子どもへの学習支援、ひとり親家庭の子どもへの学習支援など、サポート体制は整っているのですね。
世界中の教育問題 その課題と対策
日本では、いじめや不登校、経済的な事情による教育格差、教師の激務などがあり、一方でその対策・サポート体制も整っていると分かりました。では、日本を離れ、世界の教育現場では、どのような問題や課題があるのでしょうか。
世界のいじめ問題
いじめは日本だけの問題ではありません。アメリカでも韓国でもカナダでもスウェーデンでも、いじめはあります。しかし、当然どこの国でもいじめを許さないという姿勢を示しており、徹底して対策も行っている様子です。
例えばアメリカでは全米の中で23州が「いじめ反対法」を持ち、いじめを犯罪として扱って、小学生でも犯罪歴がつくくらい厳しく扱っています。
日本と同じくいじめが社会問題になっている韓国では、受験一辺倒ではなく人格形成へと教育内容をシフトさせるとともに、いじめ加害者の生徒を強制転校させる制度も存在すると言います。
イギリスでは9割の学校に防犯カメラが設置されており、加害者の親に子育て講習の出席、あるいは罰金1000ポンド(22万円程度)の支払いが求められます。
オーストラリアでは、いじめを完全になくすという発想を無理と考え、年に数回、生徒にいじめのロールプレイングをさせて、いじめ問題を考える機会を学校で設けています。
以上のように、世界では厳罰化と地道な教育によって、いじめを撲滅しようと努力が払われているのですね。
貧困・紛争・自然災害によって教育を受けられない子どもたち
いじめはある意味で、教育現場が機能しているからこそ起きる問題です。世界にはそもそも、教育自体が受けられない子どもたちが居て、国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパンによれば、その割合は(後発開発途上国の場合)、男の子の17%、女の子の22%に達すると言います。
特に教育を受けられない子どもは、半数以上がアフリカのサハラ砂漠より南の地域に暮らしているとかで、例えば南スーダン、ウガンダでは、5人に1人の子どもが学校に行けていません。南スーダンに限って言えば、初等教育を受けている子どもの割合がわずかの31%で、学校にきちんと通えている子どもの割合は、その数字を下回るとも言います。
どうして後発開発途上国で子どもの学びが奪われているのでしょうか。理由は、
- そもそも学校がない、少ない
- 先生がそろわない、質が低い
といった事情があります。一方で家庭の都合もあって、
- 家計を助けるために働かなくてはならない
- 親の教育への理解・関心が低い、親が学校に行かせてくれない
といった事情もあると言います。また、学校や家庭の土台にある国そのものに問題がある場合も見られます。例えば先ほどから繰り返し出てくる南スーダンでは、内戦で難民となる人が生まれ、難民になった家族の子どもは、学校に通えていません。
学校に通えなくなるどころか、子どもが兵士として駆り出されるような現実も世界には存在しています。
性別によって教育を受けられない子どもたち
学校に通えない理由が、性別、人種を原因としているケースも、世界には少なくありません。
日本ユニセフによれば、サハラ砂漠以南のアフリカ、南アジア、南アメリカの一部では、学校に通っている子どもたちに男女の差が見られると言います。つまり、女の子が学校に通わせてもらえない国々が多く存在しているのですね。
その理由は、
- 女の子は早く結婚して家を守るべきとの考え
- 経済的な理由で、男の子を優先する
- 女の子は家事を手伝わなければいけない
- 女の子が教育を受けても意味がない
といった根強いジェンダー差別の文化が残っているからですね。
世界の子どもたちへの支援・団体
ここまで見てきたいじめ問題や、教育を受けられない子どもたちを救うために、日本や世界はどのような活動をしているのでしょうか。
日本の政府開発援助
日本は世界の教育問題に対して、過去60年にわたって、政府開発援助を続けてきました。ミャンマーで初等教育の支援を行ったり、アフリカでみんなの学校プロジェクトをスタートさせたり、パキスタンでの識字率向上の支援を行ったりと、さまざまです。
そもそも政府開発援助とは、政府の資金で行わわれる、発展途上国に対する無償の援助・贈与・技術協力・資金の貸し付けを言います。英語名を略して「ODA」と言われます。ニュースで聞く言葉ですね。
ユニセフ(国連児童基金)
世界的な影響力や知名度を考えると、子どもの教育支援を行う制度や団体として、真っ先に国連児童基金が挙げられます。United Nations Childrens’s Fundの略語がUNICEFで、「ユニセフ」と呼びます。
第二次世界大戦後の1946年に設立され、最初は戦災で苦しんでいる子どもを助ける目的を持っていました。しかし、戦後の処理が終わっても常設化されて、引き続き世界中の子どもたちを助けてきました。その試みはノーベル平和賞を受賞しているほどです。
ユニセフは、現在世界で190の国と地域で子どもたちの権利と生命、生活を守り、成長をサポートする活動をしています。先ほどの日本政府が行う政府開発援助も、このユニセフとの連携でさまざまな活動を続けています。
例えば、中東のイエメンでは紛争で教育の機会を失った子どもたちを助け、東南アジアのラオスでは、洪水被害に遭った子どもたちに学習の機会を提供しています。
日本のみならず、世界の先進国では同様の試みが行われていて、子どもたちに学びの場を少しでも改善しようと、世界はすでに動き始めているのですね。
誰かが手を差し伸べてくれる
以上、国内外で目立つ教育問題についてまとめました。仮にわが子が学校や人生で何か問題に直面したも、少し広い視野で世界の教育問題を見渡せるゆとりを残しておけると、何か行き詰った時に、新鮮なアプローチができるようになるかもしれません。
探せば、手を差し出してくれる場所が、きっとどこかにあるはずです。わが子の教育問題に直面した時は抱え込まずに、助けてくれる場所を探したいですね。
文・坂本正敬 写真・繁延あづさ
【参考】
※ 平成30年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要 – 文部科学省
※ 教員勤務実態調査(平成28年度)の分析結果及び確定値の公表について(概要) – 文部科学省
※ 平成31年3月29日 いじめ問題への的確な対応に向けた警察との連携について(通知) – 文部科学省
※ 【別紙】子どもの人権を擁護するための学校等と法務省の人権擁護機関との更なる連携強化について(依頼) – 法務省
※ 不登校児童生徒への支援の在り方について(通知) – 文部科学省