「慇懃無礼」の意味や由来とは?
「慇懃無礼」という言葉を見聞きしたことはありますか? 「無礼」は身近な言葉ですが、「慇懃」は読み方も漢字も堅苦しく、あまり身近な言葉ではないかもしれません。
まずは、意味や読み方、四字熟語の成り立ちについて確認しましょう。
意味や読み方
「慇懃無礼」は「いんぎんぶれい」と読みます。「慇懃」は単体で、「ねんごろ」「おんごん」とも。「慇懃無礼」の意味は、「丁寧すぎて、かえって無礼になること」。また、「表面上は丁寧だけれども、実は偉そうで見下した態度であること」です。
成り立ち
「慇懃無礼」は二つの言葉で成り立っています。「無礼」は多くの人が知っているように「礼儀を欠いていること」という意味。一方「慇懃」は「礼儀正しいこと」、「心がこもっていること」を意味します。
正反対の意味を持つふたつの言葉が組み合わさり、「丁寧すぎて、かえって無礼になる」という新しい意味を持つ四字熟語となっています。
使い方を例文でチェック!
「慇懃無礼」という言葉は、日常生活ではどのような場面で使えるのでしょうか。あまりいい意味ではない言葉ですので、間違って使ってしまうと失礼になる場合も。具体的な例文を元に、確認していきましょう。
1:慇懃無礼な人だと思われないように、敬語に気をつけている。
丁寧に見えて無礼な人を、「慇懃無礼な人」と表現することができます。
相手に失礼がないように意識しすぎて、過剰に敬語を使ってしまった経験はありませんか? お互いに気持ちよく話をするための敬語も、使い方を間違えると相手から「堅苦しい」「距離をとられている」と思われてしまうかもしれません。本末転倒にならないよう、気をつけて使いたいですね。
2:友人から突然、慇懃無礼なメールが届いた。
人に対してだけでなく、メールや手紙などに対しても「慇懃無礼なメール」「慇懃無礼な手紙」と表現することができます。
喧嘩した友人など、普段は親しいはずの人からもらった「慇懃無礼なメール」には、丁寧で他人行儀な表現の中に、たっぷりの皮肉や嫌味などが込められていそうですね。
3:あのホテルマンは、慇懃無礼な態度だった。
人の態度に対しても「慇懃無礼な態度」と表現することができます。
せっかく高級なホテルに宿泊しても、ホテルマンが「慇懃無礼な態度」だったら台無しですよね。接客のプロらしく表面上は丁寧でも、そこから見下すような態度や、偉そうな態度が垣間見えた時に、使える表現です。
類語や言い換え表現は?
「慇懃無礼」の意味や使い方を解説しましたが、やはり少し堅苦しい表現だと感じる方も多いのではないでしょうか。「慇懃無礼」のほかにも、似たニュアンスをもつ類語や言い換え表現を確認しましょう。
1:馬鹿丁寧
「馬鹿丁寧」とは、「度を越えて丁寧であること」。その場にふさわしくないほどのオーバーな丁寧さは、慇懃無礼にある失礼なニュアンスはなくても、相手に違和感を与えてしまいますね。シチュエーションによっては、慇懃無礼にも通じるうわべだけの形式的な対応ととられてしまう可能性も。
・「馬鹿丁寧な態度に他人行儀な印象を受けた」
・「馬鹿丁寧に、幾重にもラッピングしてある」
2:礼も過ぎれば無礼になる
「礼も過ぎれば無礼になる」とは「礼儀にとらわれて度を越すと、かえって失礼になる」という意味のことわざです。少し長いですが、言葉自体から意味を捉えやすく、「慇懃無礼」よりも理解しやすいのではないでしょうか。
・「君は礼儀正しいけれど、本心で話ができたことは一度もないよね。礼も過ぎれば無礼になるというだろう」
・「礼も過ぎれば無礼になるから、謝罪に伺うのはこれで最後にしよう」
対義語は?
「慇懃無礼」とは逆に、「すごく失礼な人かと思っていたら、とても親切な人だった」ということもありますよね。そんな時には、どのような言葉で表現したらいいのでしょうか。
「慇懃無礼」の対義語として「横柄親切」が挙げられます。
「横柄親切」とは、「ぶっきらぼうに見えて、実は親切であること」。「横柄」とは、「威張った様子」や「偉そうに人を見下げた態度をとること」を表します。
・「ガキ大将のあの子は、案外横柄親切だ」
・「ぶっきらぼうに見える店長は、実は横柄親切で客に愛されている」
英語表現は?
「慇懃無礼」な人と出会ってしまうのは、決して日本国内だけの話ではありません。そのような人は海外にもいるはず。最後に、英語で「慇懃無礼」と表現したい時に使える単語を解説します。
1:smarmy
「smarmy」とは「ごますりの」「お世辞たらたらの」という意味の単語。決して良い意味ではないため、ネガティブな場面で用いられます。
・His smarmy behavior.(彼のごますりの態度)
・She seems smarmy.(彼女はお世辞たらたらに見える)
2: a feigned politeness
「feigned」とは「〜のふりをした」という意味の単語。「politeness」は「丁寧」という意味です。
・This e-mail is a feigned politeness.(このメールは慇懃無礼だ)
・Your behavior is a feigned politeness.(あなたの態度は慇懃無礼だ)
3:polite / rude
とっさに「smarmy」や「feigned」といった単語が思い浮かばなかった時は、シンプルに「polite」と「rude」という単語を使って表現してももちろん大丈夫。「polite」は「丁寧な」、「rude」は「失礼な」という意味です。
・It’s rude to be too polite.(丁寧すぎるのは無礼だ)
・On the surface you are polite, but in reality you are rude.(あなたは表面上は丁寧だけど、実は無礼だ)
最後に
見た目が少し堅苦しい四字熟語「慇懃無礼」について、意味や成り立ちから、類語、対義語、英語表現まで解説しました。文字で書くと難しいですが、日常生活では意外と使われる慇懃無礼。
言葉の意味をあらためて確認するとともに、こんな言葉が存在する以上、慇懃無礼な人や、そんな印象を与える場面は多いのだと思われます。相手に丁寧に接する気持ちが、かえって「よそよそしい」「他人行儀だ」と思われないよう、過ぎた敬語や格式ばった対応には注意が必要ですね。
あなたにはこちらもおすすめ
構成・文/伊藤舞(京都メディアライン)