小学校高学年では遅い!子どもの【立体図形センス】を伸ばす身近な遊びと声かけ術

小学校高学年で立体図形が苦手になる子どもがたくさんいます。その原因のほとんどが「頭の中で図形をイメージできない」から。問題がスムーズに解けるようになるために、幼児~小学校低学年ではどの遊びや体験をしておけばよいのでしょうか。2回にわたって「立体図形センス」が育つ遊びや子どもへの関わり方についてご紹介します。

立体図形センスを伸ばすのは、大きくなってからでは難しい

小学校高学年で算数の図形問題、とくに立体図形の問題が大の苦手という子が、あわてて立体模型を使って基本から理解しようとしても、その図形感覚(センス)は伸ばすのは難しいといいます。

立体図形問題が苦手な子に共通するのは、幼児期に遊びを通して立体に触れた経験が圧倒的に少ないことです」と指摘するのは、幼児さんすう教室SPICA代表の大迫ちあき先生。幼児期に立体図形に親しんでこなかった子どもが、中学受験の問題でとても苦労したケースをたくさん見てきたと話します。

図形を考えることは問題を解くためだけではない

ただ、先生は図形センスを身につけることは、単にテストで図形の問題を解くためではないと強調します。「とくに立体図形の感覚は、‶物事にはいろいろな見え方がある〟という考え方のベースを作ります

算数の学力だけではなく、人として大切な力を育てるためにも立体図形の感覚は大切なのですね。

では、幼児期に立体図形センスを伸ばすには、どのような遊ばせ方、親の関わり方をすればいいのでしょうか? 大迫先生に聞きました。

4歳までは無理に図形を教えようとしないこと

まず、前提として「幼児にとって図形、とくに立体図形を理解することは難しいものだ」ということを知っておいてくださいね。人間には「一つ、二つ……」といった数の概念は生まれつき備わっていると言われていますが、立体の概念は意識して「後天的に」身につけるものだからです。

空間認識能力の発達を正しく知っておこう

しかもこの立体を理解する力(=空間認知能力)は4歳くらいまではついていないのです。例えば立体的に積んだ積み木の内部の「見えない積み木をイメージする力」はまだありません。ですからこの時期に教え込むのはナンセンス。「そもそも、まだ空間や立体を理解する発達段階にいない」と思ってほしいですね。この時期は積み木や立体パズルなどの玩具で遊ばせるときは、親はあまり口を出さず、子どもがやりたいように遊ばせるのがいいのです。

子どもの立体図形センスが伸びるのは5~6歳、幼稚園の年長さんごろです。だからといってそれまで「何もしない」ということではなく、親子ともに無理せずに遊びのなかで積み木やブロックに慣れ親しみながら、立体図形体験を「続けていく」ことがとても大切です。

100円ショップで購入できる3×3㎤の角材。子どもの手になじみやすく、立方体の積み木遊びにぴったり。立方体だけで遊べば形の特徴がよくわかる。
対面に同じ色の折り紙を貼った角材。赤、黄緑、水色の3色を貼って見ました。対面で色をそろえておくと、積み上げたときに面の色をそろえやすい。

100円ショップでよく見かける角材を利用するのもいいですね。上の写真のように、対面ごとに1色の色紙を貼ると、見えない積み木や立方体の見え方を考えるときに色がついているとイメージしやすいです。 

積み木やブロックで「自由に」遊ぶとき、親が心がけたいこと

子どもの立体センスを育むのに絶好のおもちゃは、やはり積み木やブロックです。どんどん触らせて、親子で自由に遊びながら立体に親しんでいきましょう。

そのときに注意したいことは、以下のようなことになります。

  • ・「立方体」「球」といった図形の名前、「頂点」「辺」「面」といった各部の名前を教える必要はない。
  • ・積み木やブロックの絵が描かれた二次元のワークブックではなく、本物を子どもに触らせて立体を「感じさせる」
  • ・子どもが遊びのなかで、気が付いて口にする言葉を、親はそのまま受け取る。
    ・「なるほど~」「本当だね。そんなことがわかったんだね」などと共感し、一緒に遊んで「楽しい」雰囲気を作る。
  • ・「積み木で〇〇を作ってごらん」など指示をしない。

 遊びながら立体図形の特徴に気づける声かけを

繰り返しになりますが、親はあれこれ指図しないで子どもの自由に任せて一緒に楽しく遊ぶのがポイント4歳くらいまでは積み木を立体的に積んでみるのもいいですが、親から「見えないところには何個ある?」といった問題を出すのではなく、「あれ、ここにも積み木があるよ。見えなかったね」など、立体理解のヒントになる声掛けがいいでしょう。子どもは積み木を触りながら少しずつ立体を理解していきます。指図をしない=放っておくということではなく、体験に幅をもたせるために声をかけてあげることが大切です。 

牛乳パックや野菜でも「立体感覚」を伸ばせる

身近な素材で「形」にふれよう

立体図形センスの土台作りは、積み木やブロック遊びのほかにもあります。例えば「牛乳パックの展開図づくり」と「野菜の断面図観察」は身近な材料でできるし、お手伝いにもなって一石二鳥! ぜひやってみてください。

牛乳パックの展開図。上の方は立ち落として、作りやすい立方体や直方体を作ってみよう。どんな展開図ができるかな?

牛乳パックの展開図は、牛乳パックを「辺」に沿って切るだけ。立体だった牛乳パックが切ると平面になることだけでも、子どもにとっては新鮮な驚きです。親は「へえ、こんな形だったんだね」といっしょに驚いてほしいですね。
「切り方を変えると違った展開図になる」ことを確認するのも楽しいです。さらに切り開いて平面図にしたら、もう一度折り目に沿って組み立てて、どの辺とどの辺が合わさるのか、子どもが理解できるように開いたり、組み立てたりして「ココとココが重なるんだね」などと話すのもいいでしょう。「平面から立体、立体から平面」に変わることを実感する体験の積み重ねが大切です。

牛乳パックで応用の展開図も

お菓子やマーガリンの箱など、手ごろな大きさの箱を選んで色々な空き箱の展開図も作ってみよう。開いたあとはもとの形にも戻してみて。

牛乳パックはオリジナルの直方体や立方体の展開図を作るのもおすすめ。「展開図では、平面から立体、立体から平面へと頭の中で変換するのが、高学年で難しく感じるところ。扱いやすい箱でぜひ色々試してみてください」と大迫ちあき先生。

野菜をいろいろな向きに切り、断面図観察

野菜の断面図観察」は、文字通り野菜の切り口の形を見ることです。キュウリやニンジン、大根など子どもの力でも切りやすい野菜がおすすめ。「まっすぐに切る」「斜めに切る」「縦に切る」「横に切る」など、切り方を変えれば切り口の形が変わります。横に4等分した円柱型に切ったキュウリを使って「まっすぐ切ると切り口が丸いけど、縦に切ると四角いんだね」などと話すのもいいですね。

大根の断面図。丸い形になっているけれど、お料理するときにさらに細かく切って、切り方や形に気づけるよう声をかけてみて。
縦に切ったにんじん。半円と長方形が見えている。お料理タイムは子どもにとって図形の学びがたくさん!
きゅうりの断面図。きゅうりなら子どもが切っても安心。包丁を持つことに慣れていない子どもには、そばで一緒に切ってあげて。

豆腐も断面図の観察には最適です。柔らかいのでどのような切り方もできます。立体図形とは関係ありませんが、切った野菜や豆腐はその日の夕飯に使うなど、食材を無駄にしないことも伝えてください。

豆腐はお料理によって切り方が様々。口に入ってしまえば関係ないので、ちょっとくらい崩れても気にしない! 「どんな形に切ってみたい?」と聞くのも◎。

図形を楽しめる身近な素材はたくさん!

日常的に使う切り方を一緒にやってみたり、ときには切り方を変えてみたり。料理は切り口を見て形を意識する絶好の機会です。

 家にある身近な物で立体図形に親しむには、牛乳パックのほかにもトイレットペーパーの芯やティッシュの箱、お菓子の空き箱も使えます。いろいろ工夫しながら、親子で立体図形体験を楽しみましょう。次回はさらに立体感覚を育てる遊びやコツをお伝えします。

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記事監修

大迫ちあきさん|幼児さんすう総合研究所代表

日本数学検定協会認定数学コーチャー、同協会幼児さんすうエグゼクティブインストラクター。大手個別指導塾で中学受験算数の担当講師等を経て、東京・恵比寿で未就学児対象の「幼児さんすうスクールSPICA®」を開講。同時に母親向きのお母様へのセミナー、イベント、ワークショップでも活動している。著書に『算数が出来る子の親がしていること』(PHP研究所子育て文庫 )などがある。「ブログ」https://ameblo.jp/chiaki-0035

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