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「工作気分で立体作り」を楽しみながら、子どもの立体感覚を育てよう
空間認知力は成長に合わせた体験遊びで身につく
子どもは積み木やおもちゃで遊びながら「立体を触る」経験を重ねることで、次第に立体感覚(空間認知力)を身につけていきます。「ただ4歳くらいまではその感覚が未発達なのが普通で、伸び始めるのは5~6歳。それまでは無理して教え込む必要はありませんが、遊びのなかで立体にたくさん触れることが大事です」と話すのは、幼児さんすう教室SPICA代表の大迫ちあき先生。
立体感覚の発達には個人差が大きいので、子どもをよく観察して「伸びる時期=子どもが興味を持ち始めた時期」に遊びのなかで体験させることが大切だと強調します。
親子で手を動かしながら立体図形に親しもう
前回は積み木だけでなく、牛乳パックを切り開いて展開図にしてみたり、野菜を切って切り口を観察したりするなど、身近なものを使って親子で立体図形に親しむ方法を紹介しました。
今回は、立体感覚を伸ばす遊びの第2弾。前回よりも少し工作要素のある遊びを大迫先生に教えてもらいました。自分の手で立体を作ってみると達成感もあり、「もっとやってみよう」という気持ちも高まります。親子で手作りを楽しみながら、子どもの立体感覚を伸ばしていきましょう。
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紙粘土の立体で、いろんな形の切り口を見る
おすすめの体験①紙粘土
紙粘土は前回の豆腐と同様、子どもが自分の好きな角度から、好きなように切ることができます。小さく切ってしまっても、まとめ直して何度でも使えるのがいいところ。
「丸めて球にする」「棒状に伸ばす」「立方体や直方体」などいろんな形の立体を作ってみましょう。そして丈夫な糸(タコ糸など)または定規のような薄い板などを使って好きな角度で切り、その切り口を見てみます。
立方体や直方体は切り方によっては切り口が三角形になるし、球はどこを切っても切り口は円。
「斜めに切ったらどんな形なんだろう?」
「あれ、三角だと思ったら切り口は四角いよ」
など、子どもと発見を楽しんでください。立体の名前などを教える必要はありません。知識ではなく、遊びのなかでの「発見」が大事なのです。「立体の断面を推測する力」は、実際にこうして経験していないと、子どもはなかなか想像ないのです。
厚紙でサイコロを作り、展開図を見てみよう
厚紙で色々な展開図のサイコロを作る
実際に自分の手でサイコロ(立方体)を作ると、展開図(平面)と立体の関係性がよくわかります。サイコロに数字を書くと「1+3=4」のように計算力も理解できます。まだ数字に慣れていない子には、数字は書かず、「立方体作り」だけでも十分楽しめます。
1cmのマス目の工作用紙が作りやすい
サイコロ作りには少し厚手の紙が適していますが、作りやすいのは1㎝のマス目が印刷されている工作用紙。これで一辺が3㎝(4㎝でも5㎝でも可)四方の真四角を6枚以上切っておき、立方体になるように「辺」を合わせてセロテープでつなぎ合わせます。親も
「どことどこをつないだらサイコロの形になるのかな?」
「何枚使えばサイコロができるのかな?」
など問いかけながら、子どもと一緒に手を動かしながら作ってみてください。
幼児は絵のサイコロから始めてみる
小学生であれば数字やドットを描きこんでもいいと思いますが、幼児であれば絵から入ると分かりやすいです。
立方体ができたらまずは果物や動物などを一種類ずつ貼ります。さいころを投げて、「上にきたのは何かな?」をいって答えてもらうと、物の名前を覚えるほかに「さいころは上の面を読む」ということを学ぶ練習になります。
対面構造を理解することも立体図形感覚を養う
対面に同じ絵や数字を入れると、立方体の「対面構造」のしくみも理解しやすくなります。例えば「グー」「チョキ」「パー」を対面に書き、サイコロでジャンケン対決をしたり、「グーは1進む」「チョキは2進む」「パーは5進む」として、すごろくを楽しんだり。色々な遊びを考え出すのもおもしろいかもしれません。数字であれば対面に「1~3」を書き(対面が同じ数字になるように書きます)
数字を使った遊びも
0~5のサイコロを二つ作って、二つをなげて和を求める、など足し算の練習をするのもおすすめです(10までの計算ができます)。親子で交互にサイコロを振って、どっちの合計が大きいかを競うのも盛り上がります。サイコロの転がし方を工夫しようと形を眺めたり転がしてみるだけでも立方体の感覚がつきます。
これでサイコロは完成です。まずは「四角い紙6枚からサイコロを作った!」という喜びと達成感を味わってください。子どもは「平面から立体ができた」ことを実感します。
色々な展開図から立方体ができることを知ろう
ここからは展開図遊びです。
せっかく作ったサイコロですが、辺に沿ってカッターナイフを入れ、ていねいに切り開きましょう。このとき、作る前の真四角の紙6枚にバラバラにするのではなく、「6枚が一つにつながった展開図」にするように注意してください。できた展開図を見比べてみましょう。親と子どもが作った展開図は「全く同じ」ですか?
ph立方体の展開図
実はサイコロ(立方体)の展開図は全部で11種類もあります。
「あれ、お母さんのとあなたのでは形が違うね。どうしてだろう」
「ほかにも違う形があるのかな? もう一つ作ってみようよ」
などと、立方体の展開図は1つではないということに気付かせるやりとりができるといいですね。
そして切り開いて展開図にしたら、また組み立てて立方体にする、また開いて展開図にする……と繰り返してみましょう。
「(展開図にして)ぺしゃんこになったね」
「(組み立てて)こうすると、またサイコロになったね」
などと話しながらやるといいでしょう。子どもは平面と立体の違いを、視覚と触覚を使って体感できるようになります。すると、次第にワークブックなど紙に書かれた展開図を見ただけで、組み立てればどんな立体になるかもイメージできるようになっていきます。
頭の中で「 平面を立体に」「立体を平面に」できたら、立体図形はだいぶ解きやすくなる。
算数の展開図の問題では、平面から立体、立体から平面への変換が「頭の中でできる」ようになることがとても大切です。幼児期に遊びのなかでこうして平面と立体に親しんでいないと、高学年でも難しく感じやすくなります。ぜひ、何度も繰り返して「遊んで」ください。
さらに、数字がどのように並んでいるかも確認してみましょう。「1」のとなりに何の数字がありますか? 「2」のとなりは? 「3」のとなりは? 展開図にしたとき向かい合う面が同じ色になるように色を塗ってみると、数字の並び方のルール(同じ色は隣り合わせになっていないこと)が見えてきます。
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100円ショップの「立方体」でオリジナル積み木作り
第1回でご紹介した立方体の角材も「対面構造」が分かるよう、3色の色紙を対面に貼っています。立体的に積み上げるときに色をそろえて積み上げることができ、見え方の角度を変えると色も変わるため、理解しやすくなります。
この積み木を好きなように積み重ねてみましょう。例えば下のように積み重ねると、左から見たら赤い積み木、右から見たら緑色の積み木、上から見たら水色の積み木と色と形が変わりますね。
形の違いに気づくよう、色々な方向から見てみる
この遊びでは、子どもに「違った方向から見ると積み木は違って見える」ということに気付かせるような言葉がけがあるといいでしょう。例えば
「上から見たらどんな形? 何色になっている?」
「あれ、前から見るのと右から見るのとだと色が違うよ。」
などと言いながら、いろんな形に積み重ねて遊びましょう。
子どもが発見できるよう「考えるヒント」を出すことも大事
また、積み木を重ねた時「隠れている積み木がある」ことに気付けると、さらに深く立体を理解できるようになります。
「あれ、前から見たら見えなかったけど、後ろから見たらここにも積み木があるよ」
など、親は「発見しちゃった!」という感じで言うと、子どもも興味を持ちやすくなるでしょう。実際に「隠れた積み木が〇個あった!」と一緒に数えてみるのもいいですね。
遊び感覚を忘れずに。圧が強くなるのだけは避けよう
ただ、繰り返しになりますがこのような空間認識力が発達するのは5~6歳から。それまでは無理強いしないことが大切です。いきなり「見えないところにはいくつ積み木があるの?」などと聞くと、子どもは途端にお勉強のように感じてしまうかもしれません。あくまでも遊びとして楽しんでほしいですね。
立体感覚は「考え方の多様性を受け入れる力」につながる
図形だけでなく、多様なものの見方を身につける
ところで、「重ねた積み木は違う方向から見ると、違う形に見える」ことを知るというのは、単に算数の図形問題を解くためだけでなく、「視点を変えれば、ものの見え方は違ってくる」ということを知ることにもなるのです。
それは「自分の考えと相手は違う考えを持っている」とか、「相手の立場に立てば、考えはこう変わるだろう」と想像する力になり、考え方の多様性を受け入れることにもつながります。それは成長の過程で、人として身につけたい大切な力でもありますね。
子どもの立体センスを伸ばす遊び、基本編はこちら
記事監修
日本数学検定協会認定数学コーチャー、同協会幼児さんすうエグゼクティブインストラクター。大手個別指導塾で中学受験算数の担当講師等を経て、東京・恵比寿で未就学児対象の「幼児さんすうスクールSPICA®」を開講。同時に母親向きのお母様へのセミナー、イベント、ワークショップでも活動している。著書に『算数が出来る子の親がしていること』(PHP研究所子育て文庫 )などがある。「ブログ」https://ameblo.jp/chiaki-0035