胞子って何? まずは基礎知識を知ろう
胞子とは、そもそもどのようなものなのでしょうか。胞子の特徴を簡単に紹介します。
胞子とは生殖細胞のこと
胞子とは、一部の植物や一部の原生動物が形成する生殖細胞のことです。生殖細胞といえば、精子や卵子、雄しべや雌しべのように、性別を持つ細胞同士が合体する様子をイメージする人は多いでしょう。
しかし胞子は他の細胞と合体せず、親の体から離れた後に単独で発芽して新たな個体となります。胞子を形成する方法や繁殖場所までの移動手段、性別の有無などは生物によりさまざまです。
中には発芽条件のよい場所まで、水中を泳いで移動する胞子もあります。
胞子でふえる生物は主に4種類
胞子を形成する生物は、主にシダ植物・コケ植物・菌類・藻(そう)類の4種類です。それぞれの特徴と繁殖方法を見ていきましょう。
シダ植物
シダは、胞子でふえる維管束(いかんそく)植物です。維管束とは根・茎・葉を貫いて、水分や養分の通路となる組織のことです。同じ維管束植物の仲間、種子植物とよく似ていますが、花を咲かせることはありません。
シダの胞子が形成される場所は、葉の裏の「胞子のう」と呼ばれる袋です。繁殖の季節になると胞子のうが破れ、飛び出した胞子が風に乗って拡散していきます。
発芽した胞子は「前葉体」に成長し、精子と卵細胞をつくります。前葉体の上で精子と卵細胞の受精が起こると、そこから根や葉が生えて成体となる仕組みです。
精子は水中を移動するため、シダにとって乾燥は大敵です。シダがジメジメした場所に生えているのは、胞子でふえることが関係しています。
コケ植物
コケもシダとともに、胞子植物に数えられます。シダとの違いは、維管束を持たない点です。コケ植物の根は体を地面に固定するためのもので、水分や養分を吸収しているわけではありません。
立派な茎や葉がない分、体が小さく、他の植物が生きられない狭い場所や岩の上などで暮らせるのも特徴です。また、コケ植物には雌雄の区別があります。
雄株がつくる精子が水中を泳いで雌株の卵細胞と出会い、受精卵が発達して胞子体となり、その先端に胞子が入った袋ができます。胞子が成熟するとたくさんの胞子が飛び出して、新たな雄株や雌株が誕生するのです。
同じ胞子植物でも、シダとコケは胞子の形成方法がやや異なると覚えておきましょう。
菌類
カビやキノコなどの菌類も、胞子でふえる生物です。カビは食品などから養分を吸収する「菌糸」と、生殖のための胞子で構成されています。
カビの胞子は空気中を漂い、生育に適した場所を見つけると菌糸を伸ばして仲間をふやしていきます。ほとんどのカビは高温多湿な場所を好むので、梅雨の時期などは特に注意しましょう。
キノコは菌糸が集まって大きなかたまりになったもので、柄も傘も全て菌糸でできています。キノコの胞子がつくられるのは、傘の内側です。
胞子が成熟すると、傘が開いて地面や樹木、落ち葉の上などに胞子をまき散らします。胞子は落下先で発芽して菌糸を伸ばし、その菌糸が集まって新たなキノコが生まれます。
藻類
藻類とは、光合成を行う生物からコケ植物・シダ植物・種子植物を除いた生物を総称する言葉です。海や池などの水中に生息しており、観察に顕微鏡が必要なほど小さなものから、ワカメやコンブのような大型のものまで、さまざまな種類が存在します。
また、海中に暮らす藻類(海藻)の胞子は「遊走子」と呼ばれ、べん毛を使って移動する方向を自分で決められます。
ここではワカメを例に、海藻の繁殖方法を見ていきましょう。
ワカメの根元には、胞子のうを持つ生殖器があります。一般的に「めかぶ」と呼ばれる部分です。胞子のう(下図の単子嚢)から放たれた胞子(遊走子)は、生育に適した場所まで移動し発芽します。
胞子には雄と雌の区別があり、成長すると精子と卵が受精して幼芽となります。この幼芽が成長した姿が、よく見かけるワカメです。
身近にある胞子を観察してみよう
胞子の実物を観察できる簡単な方法を二つ紹介します。子どもと一緒に、試してみるとよいでしょう。
スギナの胞子茎「ツクシ」
春になると公園などで見かけるツクシは、「スギナ」というシダ植物の胞子茎(ほうしけい・胞子をつくる器官)です。ツクシのふくらんでいる部分を覗くと、緑色の粉のような胞子がたくさん詰まっているのが分かります。
胞子が入ったツクシを見つけたら、持ち帰って取り出してみましょう。プラスチックやガラス板の上で作業をすると、見えやすくなります。
板の上でツクシを軽くたたくと、すき間から胞子が落ちてきます。胞子が飛ばないようにそっと息を吐きかけ、虫眼鏡やカメラのズーム機能などで拡大しましょう。すると、胞子がもぞもぞと動いている様子を観察できます。
実はスギナの胞子には、「弾糸(だんし)」と呼ばれる4本の糸があります。弾糸には湿度が高いと縮み、低いと伸びる性質があります。ツクシの中で縮んでいた胞子は、晴れて乾燥した日が来ると弾糸を伸ばして風に乗り、生育場所まで飛んでいくのです。
板の上の胞子が動いて見えるのも、湿度の変化に反応して弾糸が伸び縮みしているためです。
シイタケの胞子紋
市販のシイタケを使えば、季節や天候にかかわらず手軽に胞子を観察できます。観察後は料理に使えば無駄がありません。
用意するものは以下の通りです。
●新鮮なシイタケ1個
●竹串
●粘土や発泡スチロールなど竹串を立てられるもの
●懐中電灯やライト付きのスマホ
シイタケの柄に竹串を刺し、粘土などに固定します。部屋を暗くしてシイタケの傘の部分に光を当てましょう。傘の下から、粉のような胞子が下へ流れ出る様子が見えます。
また、黒画用紙の上に柄と傘のフチを切ったシイタケを下向きにして置き、傘の上に湿らせたティッシュを乗せてからコップをかぶせます。数時間待ってからコップとシイタケをよけると、黒画用紙の上に胞子が積もり、ひだの形の紋様(胞子紋・ほうしもん)ができているのが観察できるでしょう。
胞子への理解を深めよう
ひと口に胞子といっても、生物によって形や成長方法はさまざまです。海藻のべん毛やスギナの弾糸のように、効率的に繁殖するための工夫を持つものもあります。
機会があれば親子で身近な胞子を探して観察し、生命の神秘を感じてみましょう。
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構成・文/HugKum編集部