ドストエフスキー作「罪と罰」は推理小説? 思想小説? あらすじと結末、登場人物、作者が伝えたかったことを考察

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ロシアの文豪・ドストエフスキーによる名作のひとつ『罪と罰』。タイトルこそ有名ですが、本作がどのような物語かをご存じない方も多いのではないでしょうか。本記事では、本作の執筆背景やあらすじから、おすすめの書籍までをご紹介いたします。

「罪と罰」ってどんなお話?

まずは、本作が書かれた背景や作者についてを押さえておきましょう。

ロシア文豪の名作

本作『罪と罰(原題:Преступление и наказание)』は、ロシアの文豪フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(Фёдор Mихáйлович Достоевский)によって1866年に発表された長編小説です。

殺人を犯した大学生のラスコーリニコフが、娼婦の少女ソーニャのキリスト教的な慈愛によって改心し更生するまでを描いた物語で、ドストエフスキーの代表作として世界的に広く知られます。

作者のドストエフスキーってどんな人?

フョードル・ドストエフスキー  Wikimedia Commons(PD)

フョードル・ドストエフスキーとは、トルストイと並んで19世紀のロシアを代表する作家。文学を“人間の研究”であるとして、人間の内面の主観的な描写を独自に追求し、近代文学の新たな道を開いたとされています。

『罪と罰』のほかにも、『カラマーゾフの兄弟』や『白痴』『悪霊』『未成年』など数多くの名作を生み出しました。『罪と罰』は、ドストエフスキーの後期五大長編小説のひとつであり、その中でも最も早く出版された作品です。

罪と罰が名作と言われる理由

殺人を犯したラスコーリニコフの鮮やかな心理描写を中心に構成された本作には、以下の3つの要素が入り混じります。

それは、事件を追う推理小説の要素と、殺人を犯してしまったラスコーリニコフへの娼婦ソーニャの慈愛を描写した愛の小説の要素、そして、ラスコーリニコフの傲慢と無神論や、ソーニャの慈悲と信仰を描いた思想小説の要素。

3つのどの要素に焦点をあてても優れた小説でありながら、ひとつの小説にこれらが見事に調和されていることは、本作が名作と呼ばれる理由のひとつに挙げられるのではないでしょうか。

あらすじ・ストーリー紹介

明治25年(1892年)に内田魯庵の翻訳ではじめて和訳刊行された『罪と罰』[国立国会図書館デジタルコレクション]

 

では、『罪と罰』とはどのような作品なのでしょうか。ここでは、その大筋を簡単にご紹介します。

頭脳明晰で貧しいラスコーリニコフの過激な思想

頭脳明晰にもかかわらず、貧困に苦しみ、学費未納で大学から除籍された青年・ラスコーリニコフ。彼の頼りは、高利貸しの老婆であるアリョーナだけでした。ラスコーリニコフは大切な私物と引き換えに、彼女にお金を借りに行きます。しかしながら、どんなに大切なものを引き渡しても、はした金額しか支払われません。

そんなラスコーリニコフは、ある過激な考えに囚われていました。それは、人間は「凡人」と「非凡人」の2種類に分けられ、社会を発展させるために「非凡人」は世界を動かすために法律を無視してもかまわないという、犯罪を正当化するものでした。

思想に基づいた犯罪と後悔

そして、自分も「選ばれた非凡人である」と考えていたラスコーリニコフは、「善行」として、高利貸しの老婆アリョーナを殺害してしまいます。さらに、現場に居合わせたアリョーナの義妹まで誤って殺害。

犯行後には、罪悪感、混乱、恐怖、そして後悔に苛まれます。

ラスコーリニコフに迫る予審判事ポルフィーリー

予審判事のポルフィーリーは、過去にラスコーリニコフが執筆した「犯罪論」についての論文に辿り着き、末尾に書かれた「凡人・非凡人論」から彼が犯人であることを確信します。

しかしながら、明らかな心証はあるものの、それを決定付ける物的証拠がないため、ラスコーリニコフに逃れられてしまいます。

ソーニャとの出会い

罪悪感に苛まれて憔悴していくラスコーリニコフは、そんなおりに、貧しい家族のために体を売る娼婦の少女・ソーニャと出会います。

彼女の自己犠牲的で、キリストの教えに基づいた慈愛に満ちた生き方や、彼女が朗読した聖書の『ラザロの復活』に救いを見出すラスコーリニコフ。とうとうソーニャに罪を告白し、自首を決意しました。

流刑と更生

その後、ラスコーリニコフは、それまでの善行や自ら自首したことから「シベリア流刑8年」という寛刑に処されました。ソーニャはそんな彼を追ってシベリアに移住。ラスコーリニコフはソーニャの愛に救われ、自らの愛を確信し、更生への一歩を踏み出すのでした。

主な登場人物

ラスコーリニコフとマルメラードフ(1874年版の挿絵)Wikimedia Commons(PD)

本作に登場する主なキャラクターもあわせて押さえておきましょう。

ラスコーリニコフ

本作の主人公。法科の元大学生で23歳。犯罪を正当化する過激な思想に囚われ、高利貸しとその妹を殺害してしまう。

ソーニャ

貧しい実家を救うために売春婦となる18歳の少女。熱心なキリスト教信仰者でもある。

マルメラードフ

ソーニャの父。ラスコーリニコフとは居酒屋で知り合う。飲んだくれの退職官吏。

ドゥーニャ

ラスコーリニコフの妹。貧しい実家のために、金持ちのルージンと婚約する。

ポルフィーリー捜査官

事件を追う予審判事。直感力が鋭く、賢明で大胆。相手をじらしながら相手の失言を誘い出すタイプ。

アリョーナ

ラスコーリニコフに殺害される高利貸し。

アリョーナの妹(リザヴェータ)

アリョーナの妹。姉が殺害される現場を目撃したために、同じく殺害される。

結末はどうなる?

大正2年(1913年)に丸善から刊行された『罪と罰』扉[国立国会図書館デジタルコレクション]

この物語にはどのような結末が描かれているのでしょうか。また、この物語を通じて、作者はどのようなことを伝えたかったのでしょうか。こちらもあわせて見ていきましょう。

ラスコーリニコフは8年の流刑に

あらすじでも述べたとおり、最終的にラスコーリニコフは自らの罪を自首します。しかしながら、自首したことや取り調べの際の態度などから、「シベリア流刑8年」という、罪に対しては「寛刑」といえる罰を課されます。

ソーニャはそんなラスコーリニコフを追ってシベリアに移住。ラスコーリニコフはソーニャの愛に救われながら、更生への一歩を踏み出すこととなります。

作者が伝えたかったことは

本作の大きなテーマとして作者が伝えたかったことのひとつに、「救い」があるように思います。

タイトルのとおり、物語の本筋にはラスコーリニコフが犯した「罪」とそれによって課された「罰」が描かれますが、そんな中でも特に象徴的に描かれているのが、罪への後悔に苛まれるラスコーリニコフに、ソーニャが聖書の『ラザロの復活』のパートを聞かせるシーン。

『ラザロの復活』に描かれているのは、一度死んだ人間を蘇らせる奇跡です。この朗読をきっかけに、ラスコーリニコフは自らの救いを見出し、次第に改心。自首して、罰を受けることで更生の道を歩みはじめます。

この『ラザロの復活』からの一連の描写によって、一度大きな罪を犯してどん底にまで陥った人にも、改心への意欲さえあれば「復活の道=救い」があることを作者は伝えようとしているのではないでしょうか。

はじめて「罪と罰」を読むなら|おすすめ書籍3選

19世紀から今現在に至るまで世界中から愛され続ける『罪と罰』。熱烈ファンの間では「どの訳書を読んだ?」「〇〇版はちゃんと読んだ?」と話題になりがちですが、ここでははじめて読む方の「手に取りやすさ」に焦点をあて、おすすめの書籍をご紹介します。

罪と罰 1 (光文社古典新訳文庫)

「とにかく読みやすい」と定評のある新訳版。難しそうなイメージのある本作ですが、本書は現代の若者でも馴染みのある言葉で書かれています。『罪と罰』の臨場感をそのまま味わえるバージョンです。

罪と罰〈上〉 (新潮文庫)

読みやすくありながら、原作の雰囲気をそのまま味わえる新潮文庫版の『罪と罰』。巻末に添えられた解説も丁寧で、作者や作品についての理解が深まりやすいバージョンです。

罪と罰 (まんがで読破)

世界の名作をマンガで読む『まんがで読破』シリーズから『罪と罰』が登場。わかりやすい絵とともに作品の大筋を気軽に追うことができます。読書に苦手意識のある方やお子さんは、まずはマンガで「どんな作品なのか」を知ってみるのもよいのではないでしょうか。

推理小説?愛の小説?思想小説? あなたはどう読む?

今回は、ロシアの文豪ドストエフスキーの名作『罪と罰』のあらすじや執筆背景、おすすめ書籍を中心にご紹介してきました。

推理小説としても、愛が描かれた小説としても、思想小説としても読める本作。本作でもっとも重要だと思う点は、読んだ人によっても大きく異なります。実際に手にとってみて、ご自身はどのように感じるか、考えを巡らせてみてくださいね。

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文・構成/羽吹理美

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