動物でも植物でもない「菌類」とは
生き物は動物と植物のどちらかに分けられると考える人も多いですが、実はそれ以外にも菌類が存在します。菌類に分類される生き物や、菌類の定義を見ていきましょう。
菌類の定義
菌類は真核細胞からできている真核生物であり、カビやキノコ、酵母などが当てはまります。光合成に必要となる葉緑素を持っていないため、動植物やその死がいなどに寄生をして栄養をとっているのが特徴です。
全ての生き物を、動物界・植物界・菌界・原生生物界・モネラ界(原核生物界)の五つに分けようとする考え方を「五界説」といいます。カビやキノコなどが該当する菌界は、動物界や植物界と区別されているのです。
菌類は糸状になった菌糸という構造からなる生物で、胞子を作ることで仲間を増やします。かつては植物に近い生物と思われていましたが、近年の分類ではむしろ動物に近いと考えられているようです。
菌類の分類
一口に菌類といっても、担子菌門(たんしきんもん)や子嚢菌門(しのうきんもん)などさまざまなグループがあります。遊走子を持つツボカビ門や、動物に寄生する微胞子虫門も菌類の仲間です。
胞子が作られる場所や特徴的な器官があるかどうかなど、分類方法は多岐にわたっています。分子生物学は今なお発展を続けている研究分野なので、今後再び菌類の分類が変わる可能性もあることを覚えておきましょう。
ちなみに、カビという言葉は日常的に使われていますが、本来菌類の中にカビという種類はないため注意が必要です。子嚢菌門や接合菌門などの一部が増殖し、目に見えるようになったものが、日常用語としてカビと呼ばれています。
菌類と細菌は違うもの?
細菌は菌類に含まれるイメージがあるかもしれませんが、実は分類としては全く異なる生き物です。菌類と細菌の違いや、それぞれの特徴について解説します。
全く違う生き物
菌類と細菌にはどちらも「菌」という言葉が含まれていますが、それぞれ全く異なる生き物です。菌類は真核生物ですが、細菌は核細胞を持たない原核細胞からできています。
原核細胞からなる生き物を原核生物といい、原核細胞は真核細胞に比べて小さいのがポイントです。細菌も名前の通り非常に小さく、0.5~2μm(マイクロメートル)ほどの目に見えないサイズになっています。
菌類は主に胞子を作ることで仲間を増やしますが、細菌は細胞分裂によって増えるのが特徴です。細菌にも多様な種類があり、代表的な例としては大腸菌やサルモネラ属菌などが挙げられます。
菌類の特徴と役割
自然界に広く存在している菌類は、どのような役割を持っているのでしょうか。菌類の持つ特徴と、他の生物との関係性についてチェックしましょう。
自然界の共生者
菌類は葉緑素を持っていないため、植物のように光合成から栄養を作り出せません。そのため一部の菌類は、植物や動物などの生き物に寄生して栄養を取り入れています。
生きている植物の近くに生えるキノコは菌根菌と呼ばれ、植物と互いに栄養のやりとりをしており、その特徴から「共生者」とも呼ばれています。また菌類は、動植物の死がいを分解して栄養をとることもあるため、「森の掃除屋」も菌類の別称です。
枯れ葉や木の切り株などから生えるキノコがまさにその例で、有機物を分解・吸収された切り株などは土へと還ります。なお、菌類の中には、栄養源に菌糸を伸ばして栄養を利用するものもあります。
菌類と菌糸の関係
ほとんどの菌類は、菌糸という細かい構造から作られています。菌糸は胞子が成長したものであり、糸状の菌糸がいくつも集まって目に見える大きさになった例がキノコです。
キノコは本来胞子を作るための器官であり、子実体(しじつたい)と呼ばれています。食用としてもおなじみのキノコですが、かさの裏側や表面など、さまざまな場所で胞子が作られているのです。
キノコの菌糸の部分は、土の中に埋まったままで外からは見えない場合も多いでしょう。また、同じ菌類であるカビのほとんどは子実体を作らないため、肉眼で見ることはほぼ不可能なのです。
仲間の増やし方
菌類にはさまざまな種類があるため、仲間を増やす方法もバリエーション豊かです。胞子を作ってばらまくことで仲間を増やすのが主な方法ですが、中には胞子を作らないものもあります。
酵母菌の多くは、細菌のように細胞分裂によって仲間を増やすことが可能です。カビの一部は無性生殖ができるため、菌糸の先に分生子(ぶんせいし)という無性胞子が作られます。
キノコの場合は、子実体で作った胞子が風に飛ばされて土や葉の上に落ちるのが一般的です。発芽した胞子から菌糸が伸びていき、菌糸が集まって再びキノコが作られます。
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身近な場所で利用されている菌類
食用のキノコはもちろん、味噌やしょうゆなどの調味料にも菌類が使われています。日々の生活とも密接な関係を持つ、菌類のさまざまな利用法を見ていきましょう。
調味料
日本では味噌や納豆などの発酵食品がよく食べられていますが、菌類は味噌を作る際に欠かせない存在です。「麹菌」はコウジカビ属に分類されており、微生物の仲間となっています。
そもそも発酵とは「食品に微生物が増えたことで起こる変化」で「人間に有益な作用を与えること」を指しており、日本の発酵食品には麹菌を利用する方法が一般的です。日常的に使われる調味料であるしょうゆと味噌も、大豆を発酵させて作られています。
海外では、酵母や乳酸菌なども発酵食品に使われる菌類として有名です。中でも「国菌」として認定されている麹菌は、日本の食生活において特別なものといえます。
パン
菌類の力が使われている食べ物には、主食であるパンも含まれています。酵母を利用することで、パンならではのふわふわとした食感が生まれるのがメリットです。
焼く前のパン生地を発酵させるときに使われる「酵母(イースト)」は酵母菌類の仲間であり、アルコール発酵によって生地が大きく膨らみます。発酵なしで作られるトルティーヤなどの無発酵パンは、平たい形状になっているのが特徴です。
家でパン作りをする際によく使われるドライイーストも、酵母の培養技術によって生み出されています。自然界に広く存在している酵母は、おいしいパンを作るために欠かせない存在です。
酒類
日本酒やビールなど、酒を作るときにも麹菌や酵母などの菌類が活躍します。米を原料とした日本酒は、糖化と呼ばれる作業によってアルコールを作るのです。
糖化とはでんぷんを分解してブドウ糖を生成し、続いてそのブドウ糖を発酵によってアルコールに変化させる作業を表しています。でんぷんの分解には麹菌が、糖の発酵には酵母が必要です。
ビールでは麦を発芽させて麦芽を作り、麦芽が糖化してできた麦汁にビール酵母を加えることで発酵が行われます。ビール特有の風味や香りを生み出すビール酵母は、ビールの味を大きく左右する重要な存在です。
洗剤や医薬品にも
菌類の働きは、食品を作る作業はもちろん、製薬などの分野にも活用されています。ペニシリンをはじめとした抗生物質は、実はカビなどの微生物から作られているのが特徴です。
菌類が持つ酵素は、菌やウイルスの生育を防ぐだけでなく消化を助ける酵素剤にも使われています。抗生物質や消化剤など、体調を崩したときに飲む薬にも菌類の力が利用されているのです。
また、菌類の中には有機物を分解する力を持った微生物も存在します。生活排水などの浄化や汚れを落とす洗濯洗剤など、菌類が生み出す酵素の使い道はさまざまです。
不思議な生き物・菌類の魅力をチェック
キノコやカビなどに代表される菌類は、動物とも植物とも異なる特徴を持つ生き物です。菌類は光合成などで自ら栄養を作り出せないため、他の生き物に寄生するなどさまざまな方法で栄養を取り入れます。
キノコも菌類の一種ですが、普段から食べているキノコは子実体という器官です。糸状の菌糸がいくつも集まってできたキノコには、仲間を増やすために胞子を作る役割があります。
パンを膨らませる酵母や麹菌を利用した調味料など、菌類は食生活とも深い関わりを持つ生き物です。幅広い場面で利用されている菌類について正しく知り、毎日の生活に役立てましょう。
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構成・文/HugKum編集部