「南海トラフ地震」とは? 発生メカニズムや被害想定、各地域の地震対策など【まとめ】

南海トラフ地震は、広範囲の被害が想定される地震として知られます。災害から身を守るには、地震発生のメカニズムや想定被害の大きさを知っておくことも大切です。南海トラフ地震の基本情報や、今からできる地震対策を紹介します。

南海トラフ地震とは

地震が多い日本では、どこにいても被害に遭う可能性がありますが、近年は特に南海トラフ地震への備えが叫ばれています。いつどこで起きるのか、どのような地震なのかをチェックしましょう。

南海トラフは太平洋沖にある深い溝

「南海トラフ」とは

南海トラフとは、駿河湾から九州東方沖の海底にある、深さ約4,000mの溝のことです。トラフは海底地形の一種で、英語で船底のようなくぼみを意味する言葉です。

南海トラフは陸のプレート「ユーラシアプレート」と、海のプレート「フィリピン海プレート」がぶつかる場所にあります。昔から大きな地震が繰り返し起きており、近々起きると予想される大地震への注意が呼びかけられています。

南海トラフ地震のメカニズム

南海トラフがある場所では、海側にあるフィリピン海プレート(下図「海洋プレート」)が年に数cmほどの速さで、大陸側のユーラシアプレート(下図「大陸プレート」)の下に沈み込んでいます。

このとき、ユーラシアプレートの先が少しずつ地下のほうに引っ張られ、ひずみがたまっていきます。このひずみが限界を迎えると、地下に引っ張られた分を元に戻そうとする力が働き、大地震が発生する仕組みです。

南海トラフ地震は、駿河湾から四国沖にかけ広範囲で発生する可能性があります。また時間を置いて、隣接する各地域で地震が発生することも想定されます。

南海トラフ地震はいつ起こる?

現代の科学力でも、地震の起きる時期を正確に予測するのは困難です。また、過去に南海トラフで起きた地震の発生過程はさまざまで、南海トラフのどの辺りで発生するかも詳しくは分かりません。

ただし、南海トラフでは1361年以降、おおよそ100年から150年間隔で繰り返し大きな地震が発生していることは事実です。前回起きたこの地域の大地震は、「昭和東南海地震(1944年)」や、「昭和南海地震(1946年)」です。

それから約80年経過した現在、そろそろ大きな地震が発生するのではないかと考える人が少なくありません。いつ起こってもおかしくない状況といえるため、備えを怠らないようにしましょう。

出典:気象庁|南海トラフ地震について | 南海トラフ地震とは

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南海トラフ地震の最大被害想定

遠くない未来に、大地震が発生すると聞けば慌てるかもしれませんが、きちんと対策すれば被害を小さくできます。どのような被害の可能性があるかを知り、心構えをしておきましょう。

なお科学的に予想される、最大クラスの南海トラフ地震を「南海トラフ巨大地震」と呼んでいます。南海トラフ巨大地震の被害想定はどれくらいか、見ていきましょう。

震度や津波の高さ

「南海トラフ巨大地震」が発生した場合、静岡県から宮崎県の一部では震度7、周辺地域の四国・近畿・東海地方では震度6強から6弱になると予測されています。

関東から九州も、広い範囲で震度5弱以上の揺れが発生する見込みです。また、津波の高さは最大で30mを超えるといわれます。震源域が陸に近いため、最も早い場所では約3分で津波が来てしまうのが特徴です。

東日本大震災で被害を小さく見積もりすぎた反省を踏まえ、適切な防災対策のために、このような最大級の被害が想定されています。実際にはこれほどの巨大地震は千年に一度といわれています。

どれくらいの被害が出るのか

「南海トラフ巨大地震」では、日本の人口の約半分が被災するといいます。人数でいうと約6,800万人という規模です。広範囲に被害が及ぶので、震源地から離れた地域に住んでいる人も無関係ではありません。

東日本大震災の被害を参考にした想定によれば、死者約32万人、負傷者約62万人の被害が出るとされます。経済的な被害は国家予算の2倍程度ともいわれ、国家的に大きなダメージを受けることは、想像に難くありません。

出典:気象庁|南海トラフ地震について | 南海トラフ地震発生で想定される震度や津波の高さ

南海トラフ地震への対策

南海トラフ地震の被害を減らすためには、早めの避難や防災対策が重要です。具体的にどのような対策をすればよいのか、見ていきましょう。自分の住んでいる地域の危険度を知り、事前に準備しておくことが大切です。

揺れから身を守るには普段から準備する

大地震に備え、揺れから身を守る対策をしましょう。就寝中に地震がくることを考え、寝る場所の近くには大きな家具を置かないようにします。突っ張り棒・L字金具・滑り止めテープを活用して、家具を固定するのも有効です。

就寝時はカーテンを閉めておくと、ガラスが割れたときの飛散を防げます。枕元にスニーカーを用意しておけば、ガラスの破片が散乱した室内でもけがしにくくなるでしょう。

また、外出先で被害に遭ったときに慌てて自宅へ戻ろうとすると、途中で火災や建物の倒壊といった2次被害に巻き込まれる可能性があります。もしものときは無理に帰宅せず、そのまま学校や職場で夜を明かすことも考えておきましょう。

津波から身を守るには逃げるスピードを重視

津波から避難する際は、逃げる速さが重要です。三重県尾鷲(おわせ)市のハザードマップによるシミュレーションでは、5分以内に避難すれば被害者を出さずに済むと分かっています。

東日本大震災では他の人を助けに行って、命を落とす人もいました。しかし津波のときは、それぞれがバラバラに逃げるほうが、結果として多くの人が助かるといわれています。

逃げ遅れないよう、家族みんなで住んでいる地域の避難場所をあらかじめ確認しておき、すぐに移動することを徹底しましょう。出張先や旅行先で地震が起きたときも、避難場所を知っていれば慌てずに済みます。

分からない場合はスマホやラジオで情報をチェックしたり、地元の人に声をかけたりするとよいでしょう。また避難の際は自動車を使わないのが原則です。運転中の場合は路肩に停車し、キーをつけたまま自動車から離れます。

南海トラフ地震への自治体の取り組み

「南海トラフ巨大地震」の想定被害が大きな地域では、さまざまな防災への取り組みを行っています。被害が大きいとされる自治体の取り組みを見ていきましょう。

約34mの津波が想定される高知県黒潮町

高知県黒潮町には約34mの津波が押し寄せるとの予測が、内閣府によって公表されました。一時は逃げきれないという諦めムードが住民に広がっていましたが、町はできるだけ多くの人が避難するための取り組みを行います。

防災施設の整備や世帯ごとの避難カルテの作成、非常食用缶詰開発などを通して、町全体が防災に前向きな雰囲気に変わりました。

小中学校では、専用の教育プログラムに基づいて防災知識を広めるとともに、災害に遭っても生きる力を高める「命の教育」にも力を入れています。また、役場の全職員による防災担当訓練や、地域住民への防災ワークショップも開いています。

出典:第6次黒潮町南海トラフ地震・津波防災計画の基本的な考え方|高知県黒潮町

津波対策を強化した高知県四万十町興津地区

高知県四万十町興津(おきつ)地区で想定されている最大震度は、6強です。30cmの浸水が起きるまでにかかる時間は15~20分程度とされ、速やかな避難が求められています。浸水の深さが30cm以上になると、人は動けず、避難できないのです。

東日本大震災を受け、「南海トラフ巨大地震」での津波の高さは30m超と想定されています。東日本大震災が発生する以前から、興津地区では津波緊急避難塔の建設が計画されていましたが、塔の高さが不足していることが分かり、4m高く作り直しました。

地区内の小学校では、長年にわたって5~6年生が中心となり、町の防災マップを作っています。子どもたちの行動に影響され、町は被害が予想される地区にあった、保育園と高齢者福祉施設を高台へ移動させました。

出典:興津地区 津波避難計画書|高知県四万十町

津波到達予測が約3分の和歌山県那智勝浦町

和歌山県那智勝浦町は「南海トラフ巨大地震」において、津波の到達予測がかなり早く、約3分といわれています。高さの最大予測値は18mです。

勝浦町ではこれまでに、津波タワーの設置や屋上に上る避難階段の設置が奨励されてきました。襲ってくる津波の高さを考えて、地面をかさ上げした一時避難場所の整備も実施されています。

災害から命を守る取り組みは多くの分野にわたり、防災倉庫の備蓄をはじめ、飲料水を確保する配水池の設備整備や、避難路の整備などにも補助金を出しています。

出典:和歌山県 那智勝浦町 那智勝浦町地域防災計画 |和歌山県 那智勝浦町

南海トラフ地震を知って災害に備えよう

南海トラフ地震は、近い未来に訪れるといわれています。各自治体がさまざまな取り組みを行っているので、自分が住んでいる地域の情報を確認しましょう。

日本は地震が多い国であり、日頃から備えが必要です。地震に関する情報に敏感になり、しっかり準備すれば、被害を軽減できるでしょう。大地震が起きたときにどこへ逃げるのか、避難路の確認や被災時の心構えなどを、家族で十分に話し合うことも大事です。

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構成・文/HugKum編集部

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