「エントロピー」って何? 複雑な定義を身近な事例でわかりやすく解説【親子でプチ物理】

「エントロピー」は、物理学の初心者にとって難しい概念ですが、身近な例で例えると本質を理解しやすくなります。暮らしの中で「エントロピー増大の法則」を探してみましょう。エントロピーの意味や各分野における定義を、分かりやすく解説します。

エントロピーとは何のこと?

エントロピーについて、日常生活で見聞きする機会は少ないかもしれません。まずは言葉の意味や由来など、エントロピーの基本を押さえましょう。

熱力学における重要な概念

エントロピーは、物理学の一分野である「熱力学」に登場する概念です。熱力学は熱の性質を研究する学問で、エントロピーは熱現象の不可逆性を数量で表すために与えられました。

不可逆性とは、一度進んだ反応や変化を元に戻せない性質のことです。

例えば、水に1滴のインクを垂らすと、インクは徐々に広がっていきますが、水に溶けたインクを集めて、1滴のインクに戻すことはできません。同様に、熱が温度の高いほうから低いほうへ移動することはあっても、逆のことは起こらないのです。

熱現象の不可逆性を表すのに用いられた「量」が、熱力学におけるエントロピーです。

水にインクを垂らすと、時間とともに「水」と「インク」として分かれていた秩序が失われていく。このように秩序が乱雑になっていくことを「エントロピーが増大する」という。自然のままの状態では逆のことは起こらない(不可逆性)。

ドイツの物理学者によって導入

エントロピーの概念は、ドイツ人物理学者「ルドルフ・クラウジウス」によって導入されました。1800年代に活躍した学者で、「熱力学の第2法則」を提唱したことでも有名です。

ルドルフ・クラウジウス Wikimedia Commons(PD)

熱力学の第2法則とは、「熱は自発的に温度の低いほうから高いほうに移動しない」という法則です。例えば、仕切り板のある水槽の中に30℃と90℃の液体があるとしましょう。

仕切り板を通じて、熱は温度の高いほう(90℃)から低いほう(30℃)に移動し始め、温度が等しくなった状態(60℃)で止まります。逆に、温度の低いほうから高いほうに移動する現象は生じません。

熱力学の第2法則は熱現象の不可逆性を表したものであり、このときエントロピーは必ず増大します。よって熱力学の第2法則は「エントロピー増大の法則」とも呼ばれます。

「変化・変換」を意味するギリシア語が語源

エントロピー(entropy)は、ルドルフ・クラウジウスによって初めて使われた言葉です。「変化」や「変換」を意味するギリシア語「トロぺ」が語源で、エネルギーと対になる言葉としてつくられました。

エネルギー(energy)もギリシア語が語源で、「(物体に蓄えられた)仕事をする能力」という意味合いがあります。よってエントロピーには、「変化・変換する能力」という意味合いが含まれています。

熱力学以外の学問におけるエントロピー

エントロピーは、熱力学以外の学問でも登場します。「統計力学」や「情報理論」において、エントロピーはどのように定義されているのでしょうか?

統計力学

物理学の一分野である統計力学において、エントロピーは「分子・原子の運動の秩序の度合い」と定義されています。分子と原子は、物質を構成している粒子です。無秩序のものほど、エントロピーは大きいとされます。

統計力学では、「ボルツマンの原理」と呼ばれるエントロピーの関係式(S=klogW)が登場します。ボルツマンとは、オーストリア出身の物理学者ルートヴィッヒ・ボルツマンのことです。

ルートヴィッヒ・ボルツマン Wikimedia Commons(PD)

エントロピーという抽象的な概念を方程式によって表すことに成功し、統計力学の発展に貢献しています。彼は、熱は「分子・原子の運動(動き)」であり、温度は「運動の度合い」が示されたものであると考えました。

情報理論

情報理論とは、情報が情報源から受信者に伝わるまでのさまざまな問題を扱う学問です。エントロピーは「情報の不確定さの度合い」であり、「平均情報量」とも呼ばれます。

平均情報量は、情報源から出る情報の不規則性や不確実性を測る尺度です。その情報が不規則かつ不確実であればあるほど、平均として多くの情報が含まれていることを意味します。情報理論では、以下のように定義されていることも覚えておきましょう。

●情報が入り乱れていて、予測しがたい:情報エントロピーが高い
●情報が画一的で、確実性が高い:情報エントロピーが低い

エントロピーの豆知識

物理学を学んだ経験がない人にとって、エントロピーを理解するのは容易ではありません。理解をさらに深めるため、「エントロピー増大の法則」と「エンタルピーとの違い」を紹介します。

「エントロピー増大の法則」とは?

エントロピー増大の法則は「エントロピーは自然に増大する」という法則で、熱力学の第2法則以外にもさまざまなシーンで使われます。

「物質や熱は全て、手を加えない限り、乱雑・無秩序・複雑な方向に進んでいく」とも言い換えられます。身近な例をいくつか挙げてみましょう。

●コーヒーにミルクを入れると、かき混ぜなくても自然にミルクが広がっていく
●熱いお茶をテーブルに置きっぱなしにすると、自然に冷めてしまう
●空き家を放置すると、年月とともに朽ちていく
●焼肉を焼くと、においは必ず部屋中に広がっていく

これらは日常で起こる当たり前の事象ですが、全てエントロピー増大の法則で説明がつきます。

エンタルピーとの違いは?

物理学の専門用語の一つに、「エンタルピー(enthalpy)」という言葉があります。エントロピーと似た言葉ですが、意味は全く異なります。

エンタルピーは、物質の熱力学的性質を規定する関数の一つです。物質の内部エネルギーと、流動エネルギー(圧力×体積)を合わせたもので、「kJ(キロジュール)」という単位で表されます。

オランダの物理学者カメルリン・オンネスが名付け親で、ギリシア語の「温まる」「熱」に由来するといわれています。

エントロピーを身近な例で考えよう

エントロピーは、主に熱力学や統計力学、情報理論で使われる専門用語です。普段の生活ではあまり見聞きしませんが、実は身の回りで起こる多くの現象は、エントロピー増大の法則によって説明ができます。

エントロピーの概念や計算式を頭で理解するのは難しくても、身近な例で考えると本質をつかみやすくなります。この機会に、生活の中で生じるエントロピーを親子で考えてみるのも楽しいでしょう。

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構成・文/HugKum編集部

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