プロトコールとは何か?
国際化・グローバル化が進む現代、「プロトコール」を理解する重要性が強調されています。複数の意味を持つ言葉ですが、ここでは「礼儀作法」としてのプロトコールについて解説します。
国際的な礼儀作法のこと
プロトコール(protocol)の意味は、「儀礼」や「礼儀作法」です。私的な場面での礼儀作法をマナーやエチケットと呼ぶのに対し、国同士の交流で適用される世界共通のルールはプロトコールと呼ばれます。「国際的行事の主催者側が示すルール」というニュアンスがあることも覚えておきましょう。
歴史や文化、風習が異なる国々の間では誤解やすれ違いが生じやすいですが、世界共通のルールがあることで友好的で対等な関係性を築けるのです。
なおプロトコールには、手順や命令、手続きなどの意味もあり、IT分野では「データをやりとりするための手順や規約」、医療分野では「治験や治療の計画書」を指すのが一般的です。
プロトコールが求められる人
プロトコールというと、外交活動を担う政府高官や各国の王族・貴族に必要なものと思われがちです。しかし近年は、グローバル化の急速な進展により、企業や地方自治体、個人にもプロトコールが求められています。
例えば、海外との提携を検討している企業は、ビジネスパートナーを自社のイベントに招いたり、逆にゲストとして招かれたりといった機会が増えるはずです。民間でも、スポーツイベントやホームステイをはじめ、海外との文化的交流が盛んに行われています。
異なるバックグラウンドを持つ人々と相互理解を深め、良好な関係性を築くためにも、プロトコールの基本を身に付けておく必要があるでしょう。
プロトコールで重要なこと
心が伴わない礼儀作法は、周囲に形だけの印象を与えます。プロトコールの本質は「相手を敬うこと」であり、単にルールを守ればよいというわけではありません。プロトコールにおける二つの心構えを紹介します。
相手国の文化・宗教・風習を尊重する
プロトコールの基本は、相手国の文化・宗教・風習を尊重することです。多様性を十分に理解していなかったり、自国のルールを押し付けたりすると、相手に不愉快な思いをさせてしまいます。とりわけ、宗教や風習に基づく相手国のタブーは、事前に把握しておくのが望ましいでしょう。
例えば、イスラム教には年に1回、ラマダン(断食月)があります。日の出から日没までの間は、心身を清めるために飲食を断つため、イスラム教徒を食事に招待するのは控えなければなりません。
贈り物をする際も、宗教的にNGなものを調べておく必要があります。偶像崇拝が禁じられているイスラム教徒に対して、フィギュアや人形を贈るのはあまり好ましくありません。
国の大小や人種で序列を決めない
プロトコールでは、国の大きさや人種に関係なく、全ての人を平等に扱うのが原則です。力がある国の来賓を特別扱いしたり、民族で優劣を付けたりすることは、プロトコールの精神に反します。
国際社会では、右側が上位と見なされます。複数の国の代表が集まる会議などで国旗を掲揚する際は、国ごとの優劣が付かないように、アルファベット順に向かって左側から右側へ掲揚するのが一般的です。
2国間の場合、日本では外国に敬意を示し、右(向かって左)に外国国旗、左(向かって右)に日本国旗を掲げます。一方、アメリカやカナダなど、自国旗を優先する国もあります。
覚えておきたいプロトコールの基本
儀礼上のルールは多岐にわたり、なかなか覚えられない人もいるかもしれません。プロトコールには、「序列を重んじる」「右側が上位となる」という原則があります。この二つをしっかりと頭に入れておけば、国際的な場面で大きな失敗をすることは少ないでしょう。
序列を重んじる
序列とは、一定の基準に従って並べた順序のことです。車の座席やエレベーターでの立ち位置、記念撮影の並び順など、国際的・公的な場面では、常に序列が重視されます。
催しでの座席の順序は、「席次(せきじ)」と呼ばれます。国ごとに若干の違いはありますが、公式席次では、国王や大統領などの「元首」が最上です。その後は、王族・三権(立法権・行政権・司法権)の長・外交団が続きます。
公式席次以外では、社会的地位や年齢などが重視されます。同じ肩書きの人が複数いれば、年長者や在任期間が長い人を優先するのが一般的でしょう。
右側が上位となる
必ず覚えておかなければいけないのが、「右上位の原則」です。日本には「左上右下(さじょううげ)」の習慣があり、左が上位と見なされます。ただし国際社会では右側が上位、左側が下位で、日本とは逆です。
例えばタクシーの座席は、後ろの右側の席が最上です。オーナーが運転する車の場合は、運転席の隣が最上で、2番目は右側の後ろの席となります。
エレベーターの立ち位置も、内部から見て右側の奥が最上です。客が先に出入りし、案内者は操作盤の前に立って操作をします。
日本人が意識したいプロトコール
日本では当たり前でも、海外ではNGとされる習慣や行動があります。相手に不快感を与えないためにも、日本固有のマナーや、海外でのタブーを事前に調べておくことが重要です。日本人が意識したいプロトコールをピックアップして紹介します。
世界ではレディーファーストが主流
「レディーファースト」という言葉を見聞きしたことがある人は多いでしょう。女性を優先させる儀礼のことで、海外の多くの国では「Lady on the right(女性を上座に)」が主流です。
例えば、エレベーターでは男性が女性を先に乗り降りさせます。劇場などの薄暗い場所では男性がエスコートし、女性を上座に座らせるケースが多いようです。
案内係がいるレストランでは女性が先に進み、案内係がいない場合は、男性が先に席を探して女性をエスコートします。
ビジネスシーンでは握手を交わす
初対面の相手やビジネスパートナーとは、握手を交わしながらあいさつをするのが基本です。手の握り方で第一印象が左右されるため、正しいマナーを覚えておきましょう。
●相手の地位が高い場合、自分から握手を求めない
●初対面の女性には、自分から握手を求めないのが無難
●握手のときは、胸を張って相手の目を見る
手を握るときは、強すぎず、弱すぎずを心掛けます。弱すぎる握手は、相手から「友好関係を望んでいない」と受け取られかねません。
手が濡れていて握手ができないときは、断りを入れましょう。相手の握手を無言で拒むと、マイナスの印象を与えます。
乾杯ではグラスを合わせない
公式な食事の席では、乾杯のときにグラスは合わせません。グラスを目の高さで持ち、相手の目を見ながら掲げます。ガチャガチャと音を立てることはマナー違反と見なされるため、くれぐれも注意しましょう。
乾杯のタイミングは、「食事が始まる前」または「食後のデザートの前」です。主賓のスピーチの後、全員が起立して乾杯をするのがマナーとされています。乾杯のあいさつをする人は、1分以内の短いフレーズを考えておきましょう。
誤解を招くボディーランゲージに注意
ボディーランゲージとは、体の動きや表情で気持ちを伝える「非言語コミュニケーション」の一つです。文化や風習が違えば、ボディーランゲージの意味合いも変わります。無用な誤解を与えないように、相手国のルールを把握しておきましょう。
日本人は、相手を呼び寄せる際に手招きをしますが、アメリカやイギリスなどでは「あっちに行け」「さようなら」の意味合いに取られます。「こっちに来て」と伝えたいときは、手のひらを上にして前後に振るのが一般的です。
また、人さし指と親指で丸を作る「OKサイン」を、下品な意味として捉える国も少なくありません。ブラジルや一部のヨーロッパでは、OKサインがトラブルを招くこともあります。
プロトコールを国際交流に生かそう
近年では、外交活動を行う政府の要人だけでなく、企業や個人にもプロトコールの精神が求められています。とりわけビジネスシーンでは、服装・あいさつ・会話のマナーが商談の結果を左右するといっても過言ではありません。
プロトコールの主な目的は、国家間の交流を円滑にすることです。世界共通のルールがなければ、文化や風習の違いから誤解が生まれ、信頼関係を築くのに時間がかかってしまいます。
また、子どもの頃から基本的なプロトコールを知っていれば、将来役に立つ可能性もあります。国際会議のニュースを見聞きするときや、旅行などで外国人との交流するときなどは、親子でプロトコールを意識してみるとよいでしょう。
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構成・文/HugKum編集部