「スクールロイヤー」は学校側と子ども側 どっちの味方? 導入でいじめが減る? 役割と活用事例を理解する【学校教育の今】

全国で、スクールロイヤーを導入する取り組みが始まっています。「ロイヤー」は弁護士を指しますが、一般的な弁護士とは何が違うのでしょうか? 導入の目的や仕事内容を理解しましょう。保護者にとってのメリットや懸念点も解説します。

スクールロイヤーとは?

教育機関に法的な助言をする弁護士

「ロイヤー(lawyer)」は、英語で「弁護士」を意味します。スクールロイヤー(school lawyer)とは、学校や教育委員会などの教育機関に対し、法的な観点で助言をする弁護士です。

法制度上の明確な定義はありませんが、日本弁護士連合会が文部科学省に提出した「スクールロイヤーの整備を求める意見書」において、スクールロイヤーは以下のように定義されています。

学校で発生する様々な問題について,子どもの最善の利益を念頭に置きつつ,教育や福祉等の視点を取り入れながら,法的観点から継続的に学校に助言を行う弁護士

学校では、いじめ・不登校・事故など、日々さまざまな問題が起こりますが、学校側だけでは対処しきれないケースが珍しくありません。

学校側に法的側面から助言・指導を行い、トラブルの予防と解決に努めることがスクールロイヤーの役割といえます。教育委員会と顧問契約を結び、学校や教育委員会の相談にのる形が一般的です。

出典:「スクールロイヤー」の整備を求める意見書

学校側の代理人になるケースもある

2018年に出された意見書において、日本弁護士連合会は「スクールロイヤーが学校側の代理人になるのは適切ではない」としていました。しかし、2024年に出された「教育行政に係る法務相談体制の普及に向けた意見書」には、代理人業務に関する内容が記述されています。

文部科学大臣は2024年4月の記者会見で、スクールロイヤーを学校側の代理人として活用できる体制を整えることを明らかにしました。

今後は、代理人業務を含めたスクールロイヤーの運用体制が整備されていくでしょう。なお、スクールロイヤーの立場や業務内容は、自治体ごとに異なります。

出典:教育行政に係る法務相談体制の普及に向けた意見書 

スクールロイヤーが必要とされる理由

スクールロイヤーが必要とされる理由の一つに、「学校関係者の負担の増加」が挙げられます。学校には、いじめ・不登校・体罰・事故といった多くの問題が潜んでいます。特に、学校に理不尽な要求をするモンスターぺアレンツは、教員の悩みの種です。

近年は、子どもたちの問題が複雑化・多様化しており、学校側だけでは対処しきれなくなっています。実際、ストレスで心身の健康を損なう教員も多く、学校関係者の負担軽減は喫緊の課題です。

スクールロイヤーが学校の相談相手になれば、法的側面から問題をスピーディーに解決できる上、トラブルの発生を未然に防げます。

スクールロイヤーの主な仕事内容

スクールロイヤーの主な役目は、法律家の視点から学校側に適切な助言・指導を行うことです。具体的には、どのような問題に対応するケースが多いのでしょうか?

 

子どもに関わる問題への対応

スクールロイヤーは、いじめ・不登校・非行・親による虐待といった「子どもに関わる問題全般」に対応します。その中でも、いじめ問題に関与するケースが多いでしょう。

2013年に「いじめ防止対策推進法」が制定されたことにより、学校側には法律にのっとった対応が求められるようになりました。しかし、教員に法律の知識がない場合、当事者への支援・指導が適切に行えず、問題をこじらせてしまう恐れがあります。

スクールロイヤーは、教員に助言をしたり、子どもたちに「いじめ予防授業」を行ったりして、学校側をサポートします。

保護者への対応

教員の心身を疲弊させる原因の一つに「保護者対応」があります。保護者対応には完璧なマニュアルはありませんが、文部科学省や各自治体が対応の手引きを作成しているケースもあります。しかし、適切な対応を取れない教員も少なくありません。

過剰な要求を繰り返したり、学校を脅迫したりする保護者が出現した場合、スクールロイヤーは以下のような役割を果たします。
・学校に対して法的観点からアドバイスを行う
・学校と保護者の間に立ち、調整や仲介をする場合もある

ただし、スクールロイヤーが直接保護者とやりとりすることは一般的ではなく、主に学校や教育委員会に法的助言を提供する役割を担っています。

保護者が理不尽な要求を繰り返す背景には複雑な要因があります。スクールロイヤーの役割は、その場しのぎの対応ではなく、問題の本質を見極め、子どもの最善の利益を考慮しながら、法的観点から適切な解決策を提案することです。

スクールロイヤー制度は比較的新しく、その役割や機能は自治体によって異なる場合があります。今後、制度の整備や効果の検証が進められていくことが予想されます。

学校事故や指導上の問題への対応

学校で起こる問題は、子ども同士のトラブルだけではありません。教員による体罰やセクハラなどによって、子どもの人権が侵害される事案も生じています。問題が起こったときに、スクールロイヤーは事実関係を速やかに調査し、法律にのっとった対応と再発防止策を講じなければなりません。

また、不審者の侵入や自然災害、設備の欠陥などで「学校事故」が起こった際は、法的責任を検証し、保護者やマスコミに対して適切な対応を取るように学校側に働きかけます。

保護者にとってのメリットと懸念点

スクールロイヤーの導入は保護者にとってもメリットがあります。一方で、学校側と保護者が対立した場合、中立的な立場を保てない可能性がある点に留意しなければなりません。

【メリット】子どもが安心して学校に通える

スクールロイヤーは「子どもの最善の利益」のために活動します。スクールロイヤーの導入によって、いじめや体罰、学校事故が起こりにくくなれば、子どもは安心して学校に通えるでしょう。

自分の子どもが「いじめの加害者」になることを未然に防げるのもメリットです。一部の自治体では、スクールロイヤーによる「いじめ予防授業」が行われています。SNSいじめが損害賠償責任や刑事罰の対象になる事実を知ると、軽い気持ちで手を出す子どもは少なくなるはずです。

学校のコンプライアンスも強化され、保護者・地域にとって「信頼できる学校」になっていくでしょう。

【懸念点】学校側を擁護する可能性がある

スクールロイヤーの介入によって、トラブルを迅速に解決できるようになるのは利点ですが、学校側と保護者が対立した際に、中立的な立場を守れるかどうかが問題です。

本来、弁護士は「依頼者を守ることが職務」です。スクールロイヤーは、教育委員会からの依頼で派遣されるケースが多く、裁判時は「学校を守る立場」として法廷に立つ可能性があります。

スクールロイヤーが「裁判で不利になる発言を控えるように」と学校関係者に指示すれば、真相の解明に影響が及ぶでしょう。

スクールロイヤーの導入事例

全国では、自治体ごとにスクールロイヤーを導入する試みが始まっています。「大阪市」と「新潟市」の事例をピックアップして紹介します。

大阪市のケース

大阪市では、学校のさまざまな問題に対処するため、2013年から第三者専門家チームを学校に派遣する取り組みを行ってきました。しかし、教育現場の問題が多様化・複雑化の一途をたどっていることから、2019年に「大阪市版スクールロイヤー事業開始」を導入しました。

大阪市の場合、スクールロイヤーは代理人業務を行わず、あくまでも中立的な立場で活動します。学校側で相談したい事案が生じた際は、担当指導主事が電話・メール・法律相談窓口を通じて、スクールロイヤーとコンタクトを取る流れです。事案の内容によっては、弁護士と一緒に臨床心理士などの専門家が派遣されます。

出典:大阪市:大阪市版スクールロイヤー事業

新潟市のケース

新潟市では、2018年4月にスクールロイヤー制度の試行をスタートし、同年9月から本格的に導入しました。相談支援の形式は以下の通りです。

●学校支援課による月2回の定期相談
●教育委員会を窓口にした不定期の相談
●学校ダイレクト相談
●打ち合わせや調査などの学校への個別対応
●スクールロイヤーによる研修会の実施

「学校ダイレクト相談」は、スクールロイヤーの提案によって設けられた制度です。相談依頼書に必要事項を記入し、学校の管理職がメールを送ることで、スクールロイヤーから助言を得られます。

出典:新潟市のスクールロイヤー制度

スクールロイヤーの導入目的を理解しよう

スクールロイヤーは、教育機関に助言を行う弁護士です。学校側の代理人業務を担う場合もありますが、現時点では助言のみに専念する弁護士がほとんどです。

スクールロイヤーが導入されれば、教育現場で発生する問題をより迅速に解決できるようになります。一見、学校側にメリットがあるように思えますが、保護者や子どもにもプラスになる制度です。導入の目的や懸念点をよく理解し、スクールロイヤーの今後の活躍に期待しましょう。

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構成・文/HugKum編集部

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