知っておくべき国際知識!地理的国境ではなく、戦略的国境って何?【親子で語る国際問題】

いま知っておくべき国際問題を国際政治先生が分かりやすく解説してくれる「親子で語る国際問題」。今回は国際政治用語の中の「地理的国境」と「戦略的国境」の定義について学んでいきます。

地理的国境ではなく、戦略的国境って何?

今日、世界には200近くの国家があります。地球儀を見れば分かりますが、国家と国家の間には国境線が引かれています。これは地理的な国境であり、当然ですが国家は国境線を超えて他国に武力を行使することは国際法的に許されず、国境線の中で自国の領土保全や政治的独立、経済的繁栄などを徹底していくことになります。全ての国家が地球儀に記されている国境線を忠実に遵守すれば、戦争などは発生しません。

一方、国際政治や安全保障の分野では、地球儀に記されていない戦略的国境という考え方があります。戦略的国境を簡単に説明すれば、国家が地理的な国境線を超えて自らの勢力圏、支配圏と捉える範囲と表現できます。戦略的国境をどこまで重視するかは国家によって全く異なりますが、国家が戦略的国境を基準にした行動を実行に移せば、当然ながら戦争に発展します。しかし、今日の国家の中には、地理的国境だけでなくこの戦略的国境を重視し、そのための行動を実行に移している国家も見られます。

ロシアと中国は、戦略的国境を強く意識している

それが、ロシアです。1990年代初頭のソビエト連邦の崩壊によって、リトアニア、ラトビア、エストニアのバルト3国、ウクライナ、モルドバなどはソ連から独立しました。当然ですが、ウクライナやモルドバも国連加盟国で、ロシアとは別の国であり、ロシアにはウクライナなどとの地理的な国境線を遵守する必要があります。

しかし、プーチン大統領は旧ソ連圏という自らがイメージする勢力圏が西側諸国によって浸食されつつあると危機感を長年抱き、ついに一昨年2月、ウクライナへの侵攻を開始しました。プーチン大統領は、おそらくウクライナをNATOの東方拡大をおさえる防波堤と捉えてきた可能性があり、そのウクライナが西側諸国と接近することに警戒感を強め、侵攻することで西側諸国を牽制する意図があったと考えられます。

これを言い換えると、プーチン大統領にとっての戦略的国境線は、ウクライナと国境を接するNATO加盟国のポーランドとルーマニアの間にあったとも言えます。

一方、今後の世界情勢では、中国がどこまで戦略的国境を徹底してくるかが懸念されます。台湾情勢をめぐっては緊張が続いていますが、台湾統一を掲げる習政権は、その独立に向けた動きには武力行使も辞さない構えです。習政権にとっての戦略的国境は間違いなく台湾東部にあり、それが縮小するようなことはまず考えられません。

今後、世界では欧米の影響力がますます縮小し、中国やロシア、インドなど他の国々の影響力が高くなってきますが、それによって戦略的国境を重視するような動きが広がっていくことが懸念されます。

この記事のPOINT

①地理的国境:世界に認められた、地図上の国境線に基づく国境

②戦略的国境:国家が地理的な国境線を超えて自らの勢力圏、支配圏と捉える範囲

③現在のプーチン大統領にとっての戦略的国境線は、ウクライナと国境を接するNATO加盟国のポーランドとルーマニアの間。

中国の習政権にとっての戦略的国境は台湾東部。

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記事執筆/国際政治先生

国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。

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