災害時、指定避難所に行けば安心?
指定避難所に想定の6倍以上の人がかけつけることも
――いま大きな災害が各地で起こっていますが、自宅に避難警報が出たり、家が住みにくい状態になってしまった場合、どこに避難したらいいのでしょうか。
避難場所としてまず思い浮かぶのは「指定避難所」と言われる小中学校や公共施設なのではないでしょうか。災害が起こる前から指定されている場所で、行政が設置開設するルールとなっており、ここには行政の職員が何名か配置されます。また、地域ごとに異なりますが、防災倉庫がある指定避難所も多く、災害用品が一定数ストックされています。
しかし、指定避難所に行けば必ず入れるかと言うとそうではなく、指定地域の全ての方が入れない場合もあります。例えば300人が入れる避難所に2000人来ることも。そのため、食料等の備蓄品において、行政は日頃から最低3日間は耐え抜ける準備を、各自で行ってくださいと呼びかけています。
さまざまな理由で、避難所を利用しづらい人がいる
避難所へ入りたくても、遠くて行けなかったり、行く途中の橋が落ちて辿り着けないことがあります。
また、ペットを飼っている方や身体の不自由な方、地震のあとには「建物に入る恐怖感」から避難所に入れない人もいます。赤ちゃんのいる親御さんで、一度避難所に入っても夜泣きなどによって肩身が狭くなり、自主的に避難所を出ていく方も多く見てきました。
公民館や寺、ビニールハウスなどで自主避難
――避難所に入れなかった人たちは、どうしているのですか?
自分たちで公民館やお寺の社務所を借りて避難所にする場合や、ビニールハウスや車中に泊まる人、電気や水道が止まっている自宅にそのまま住み続ける人もいます。ただ、外部の支援が届きやすい指定避難所と違い、自主的な避難場所には職員が配置されず、支援も届かないなど、状況としては非常に過酷です。
自主避難をしている方は、行政に知らせて把握してもらうことではじめて、支援を受けたり、医療チームの巡回場所として考慮してもらえたりすることがあります。
そのほか、被災地の外に避難する人もいるのですが、どうしても支援から取りこぼされてしまいます。居場所がわからなくなり、申請も滞るからです。元の生活になるべく近づくため、行政や社会福祉協議会の生活再建の制度を利用したり、私たちのような民間の支援団体に相談していただければと思います。
避難所の生活は「やってもらえる」が当たり前ではない
地べたで過ごすことが多いのでマットなどを持参すると良い
――避難所に入った場合、その生活とは、どういったものなんでしょうか。
指定避難所には避難者が殺到してすし詰め状態となり、ひとり当たりのスペースがとても狭くなる場合があります。避難所に早く来た方から順に場所が決まっていくので、後の人は学校の廊下にあふれ出てしまうことも。また、能登の地震のときは、地べたに雑魚寝の状態がしばらく続きましたので、マットなどを持っていかないと辛い状況でした。
トイレを清潔に保つことがとにかく重要
避難所ではトイレ整備がとても重要なポイントになります。トイレの衛生状態が悪いと、行くのを我慢してしまったり、感染症が広がってしまったりと、健康被害のひきがねになりやすいので、避難者の方も率先して動いていただくと良いと思います。
簡易トイレは事前に一度使ってみて
断水でトイレが流せない場合は、凝固剤を使います。防災のための簡易トイレは用意していても、実はやり方がわからない人は多いのではないでしょうか。災害の前に一度使ってみることをおすすめします。どれぐらいの時間で汚物が固まるのか、匂いの処理はどうするか、ご自身で実感してみてください。
避難所での生活は、身体にストレスがかかり、免疫力が下がります。食事、睡眠も通常と違い、身体の機能がどんどん下がって感染症にかかりやすくなるんですね。避難所でノロウィルスやコロナが出たら、集団感染は防ぎきれません。トイレにスリッパを置いて、寝床にトイレの汚れを持ち込まないことや、マスクをしたり、手指消毒をしたりすることも有効です。
災害用グッズに入れておくべきものとは?
家族の必須アイテムを入れておく
――避難所に行けばなんとなるではなく、個人が災害のために備えておかないといけないのですね。
そうですね。ある程度は、自分たちで準備しておいた方がいいと思います。ものがスムーズに手に入らない状態になりますので、「これがないと家族の健康が守れない」という最低限のものは準備しておいてください。
自治体から出ている防災マップにも準備品リストが載っていますし、ネット上で子育て中の被災者の方が実体験からリストアップしている情報もありますので参考にしてみてください。お子さんの年代や家族構成に合わせて何があると安心できるかを考え、ご家庭ごとにカスタマイズしてもらえるといいですね。
<浦野さんが役立つと感じたもの>
おしりふきシート(大判ウェットティッシュ):手や肌を清潔に保つ、トイレの排泄後にふくなど、感染予防に役立ちます。被災後一カ月近くお風呂に入れない場合もあるので、体をふくのにも使えます。
生理用品:かさばるので、養生テープで平らな座布団みたいな状態にして入れておくと、使わなくても枕やクッションとして代用できます。
おりものシート:下着が何日も替えられなくても、おりものシートの交換でしばらく過ごせます。
バッテリー:いつでも連絡できる心のゆとりができます。情報から遮断されないという安心感もあります。5~10万ぐらいのボックスの蓄電池を用意している方もいました。
懐中電灯:停電が長く続き、真っ暗で、がれき散乱している状態で歩くこともあり、あると安心です。
子どもの心が落ち着くものを用意
それから、お子さんがちょっとでも落ち着けるように、いつも使ってる毛布、ぬいぐるみ、ちょっとしたゲームができるもの、気に入っているお菓子、絵本やマンガといった、気分転換できるものがあるといいですね。
お子さんは、大きな揺れにあってしまった後の恐怖感が残ると、その影響がいつ出てくるかわかりません。被災後しばらくしてから暴力的になったり、怖い夢を見たり、赤ちゃん返りしたり、思わぬところで感情が噴き出すことがあります。親に心配かけたくないとその場ではいい子にしていて、数年たってから出てくることもあります。少しでも気持ちが落ち着くような準備をしていただければと思います。
助け合うことで、避難所の環境を改善
――物質的なケアだけでなく、メンタル面のケアも大切なんですね。家ではできたことが、できなくなるだけでストレスを感じます。
避難所では、行政の人も含めみんなが被災者であり、常に支援の手が足りない状況です。行き届かないところがたくさんあると、次第に衛生状態が悪くなり、コミュニケーションがうまく取れなくなって、トラブルも多くなっていきます。
今回、私が能登の穴水町の避難所にいたときは、約350人いた人の50%以上が高齢者。若いパワーが少なくて現場が回らず、なんとかしたいなと思っていました。そこで私たちは、災害から5日目の朝に「避難所お助けボランティアを募集します」と告知をしました。被災した直後の大変な時に、どれだけの人が協力してくれるかなと思ったのですが、最初は6人、翌日は15人と、だんだんボランティアは増えていきました。
避難所というと、なんとかしてくれるものという思い込みがありますし、自分が関わって良いのか躊躇しがちですが、避難所の運営は動ける人が役割分担していくしかありません。いままでの固定観念を変えて、積極的に運営に関わっていただきたいと思います。
ゴミの分別や回収、トイレ掃除、料理や配膳、支援物資の荷下ろし、日常やっている家事に相当する仕事をやってくれる人が多ければ多いほど、避難所の環境は維持できます。
役割分担の方法も、難しくありません。ホワイトボードに役割を書いて、やりたい人がその横に自分の名前を書いていく方法を取りました。調理ならできるとか、興味のあることからサポートしてもらえればいいんです。5人も集まればチームになりますし、仕事の頻度や必要な道具を話し合うことができます。災害のプロじゃなくても、経験がなくても、できることってたくさんあるんですよ。いまお伝えした役割だったら、小学生でもできるものがありますよね。家族で関わってくれるようになると、より改善が進むと思います。
災害後は、じっとしていてもネガティブなことを考えてしまいますし、チームができれば交流ができます。そこに子どもたちが参加すれば、頑張っている姿にまわりの目もやさしくなるものです。お互い気にかけあうようになれば、困っている人やお年寄りで動けない人も支えていこうという動きになります。
災害時に家族を守る準備が「避難訓練」
――まさに災害時にこそ、助け合いが必要なんですね。大きな災害に備えて事前にできることはどんなことがありますか。
まずは指定避難所の場所の確認をしたり、可能であれば備蓄倉庫の品目をチェックさせてもらうといいですね。オムツや生理用品があるのか、お水、毛布、簡易トイレ、パーテーションや簡易ベッドがあるか、そういうことを地域の誰かが知っている、ということが大事なんです。
また、地域で避難訓練をやっていたら、顔を出してみるところから始めてみてください。雰囲気をつかんでみるだけでも違います。そのほか、水を節約した調理の方法や、断水時に効率的に掃除をする方法を知っているなど、スキルがあるだけで自信がつきます。できる人たちが動きやすい環境をいかに整えていくのかが、これからの避難所のあり方として重要な視点だと思ってます。
写真提供:レスキューストックヤード
教えてくれたのは…
認定NPO法人 レスキューストックヤード阪神淡路大震災のときに設立した団体で、被災地で災害ボランティアセンターの立ち上げなどに関わる。現在は、避難所での困りごとへの対応、災害関連死を減らすための活動、被災地域の中で支援が行き届いてない人の把握や被災支援プログラムの実施などを行っている。