かつてはシイタケより安かった!「マツタケはなぜにあんなに高いの?」の疑問にお答えします〈ゆーまん博士の最新科学CatchUP〉

生産技術が進歩し、年間を通してあらゆる食材が安定供給されるようになっていますが、それでも希少価値から高値をつける食品があります。その代表がマツタケ。たかがキノコなのに、なぜこうもお高いの? 日常をサイエンスする「ゆーまん博士」にきいてみました!

【教えて!】マツタケだって普通にキノコでしょ?

おや?  ママとスーパーにお買い物に来たリカちゃんが何か見つけたみたいです。マツタケの値段にびっくり!  なんで高いの?  なんで?  となんでなんで攻撃が始まりました。

マツタケは高いものと私たちは思いこんでいますが、高度経済成長期までは家庭向けの料理本にも頻繁に登場し、今ほどの高級品ではなかったそうです。

実際、なぜマツタケはお高いのでしょう?  価格の秘密を探ります。

【ゆーまん博士が説明】お高いものにはワケがある!

マツタケの季節になりました。炊き込みご飯にしたりお吸い物にしたり、あの香りは他にありません。でもお高い。物価が上がる一方の昨今、財布に厳しい高級品です。

モノの値段は、欲しい人の数と生産量で決まります。量が同じでも欲しい人が多ければ価格は上がりますし、欲しい人が少なくなれば値段は下がります。ワインがいい例ですね。元は数千円のワインが、稀少性から数百万円になることも。

マツタケも同じです。マツタケには天然物しかないため、どのくらい収穫できるかは天候に左右されます。雨が多くても少なくても暑くても寒くても育たず、また山林の伐採が進み、マツタケの生育に適した土地も減っています。

マツタケの収穫量は1941年にピークを迎え、年間1万2000トンもとれましたが、令和4年の収穫量は35トン。マツタケの値段が上がる一方になるわけです。

今やシイタケとは比べものにならないマツタケのお値段…

ではシイタケやエリンギのように、人工栽培をすれば? と思われるかもしれません。今は安価なシイタケも明治時代に人工栽培が始まるまでは高級品で、人工栽培が普及していなかった戦前は、シイタケのほうがマツタケよりも値段が高い年もよくあったそうです。特に干しシイタケは輸出品として稀少価値があり、中国に輸出する貴重な外貨獲得手段の高級品でした。

マツタケが食卓から消え始めるのはプロパンガスの普及と同時期だそうです。それまでの薪からプロパンガスへと燃料が変わったことで、燃料剤として重宝されていたアカマツ林の手入れがされなくなります。アカマツの木の根元にマツタケは生育する特徴があり、アカマツ林の減少はマツタケの収穫量の減少につながったのです。

さらに1970年代にアカマツを枯らす病気が蔓延、それが致命傷となり、現在のようにほぼ獲れない貴重な国産マツタケへとつながります。

松茸狩りの聖地、長野県上田市のアカマツ林

マツタケはアカマツの根元に菌糸を張り、そこから生えます。この菌糸の広がった土地はシロと呼ばれ(白く見えるから「シロ」だそうです)、現在でも人工的にシロを作ることができずにいます。

マツタケの胞子が地面に落ちてシロができるまでおよそ7年もかかると言われ、それほど時間のかかるシロを人工的に育てるのは非常に難しいのです。シロの生育には地面の下の温度が1519度以下の低温環境が必要だったり、アカマツしか栄養源にならなかったり、とにかく栽培が難しいのです。

自生するマツタケ

人工的にシロはできても、発芽せずにマツタケが育たず、栄養が多くても少なくても育たない。シロの形成に微生物が重要な働きをしていることはわかっていますが、それが特定されていない。わからないことだらけで、人工栽培でマツタケが安くなるのはまだまだ先になるようです。

だからってリカちゃん・・・お願いだからそのままでいてちょうだい。

ゆーまん博士のワンポイント

●マツタケは天然でしかとれないので高い!

●マツタケは天候に左右されやすく、生える場所もどんどん減っているので高い!

●マツタケは人工栽培できないので高い!

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構成・文/川口友万 漫画/まめこ

参考:
「高度経済成長期を中心にしたマツタケとシイタケの生産-消費動向とその背景について」(国立歴史民俗博物館研究報告 第241集 2023年4月)
「戦後の家庭料理に見られるマツタケ高級化の過程」(日林誌(2021)103:1-12)
「マツタケ人工栽培技術開発に向けた研究」(森林総合研究所研究報告 Vol.11 No.3 (No.424) 85-95 September 2012)

 

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