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「100かいだてのいえ」だけではない「岩井俊雄」の魅力がいっぱい!
現在、恵比寿ガーデンプレイスにある「東京都写真美術館」では、「いわいとしお╳東京都写真美術館 光と動きの100かいだてのいえ―19世紀の映像装置とメディアアートをつなぐ」展が開催中。
「いわいとしお」さんといえば、HugKum読者の皆さんにとっては、お馴染みの「100かいだてのいえ」シリーズですよね。でも実は、絵本作家だけではなく、日本を代表するメディアアーティスト「岩井俊雄」としても活躍しています。
見るだけじゃない!触れる展示
展示では、岩井さんのメディアアートと、その原点となる19世紀の映像装置がコラボし、光と動きの視覚体験の面白さを体感できます。美術館では珍しい、触れる展示の多い体験型の展覧会。
構成は3章に分かれており、前半1章では、静止画が動く仕組みと映像装置の歴史、後半2、3章では岩井さんの作品が楽しめる展開となっています。
「巨大かがみの100かいだてのいえ」が登場!
今回の展示の目玉といえば、立体作品《巨大かがみの100かいだてのいえ》。本展のために描きおろしたメインビジュアル《映像の夜明け 100かいだてのいえ》をもとに製作されています。
どうやって、100階もの部屋を再現するのかと思っていましたが、覗いてみると合わせ鏡となっていて、上下に無限に続く空間が広がります。
下を覗くと下方に延々と続く階段が見え、自分が途方もない高みにいるような錯覚に陥ります。
《巨大かがみの100かいだてのいえ》は本展のオリジナルで初登場ですが、2022年の個展の時に発表された《かがみの100かいだてのいえ》も展示されています。
どちらもいつまでも不思議な空間に留まっていたくなるような見応えのある作品です。
第1章「19世紀の映像装置」
第1章の「19世紀の映像装置」では、「東京都写真美術館」の収蔵品を中心に、特に重要と思われる発見や映像装置や歴史を学ぶことができます。
カメラ・オブスクラ、マジック・ランタン、ゾートロープなど、数々の発明品が並び、それらのレプリカを展示された本物と見比べながら、実際に楽しめる展示になっています。
映像装置の原点「車輪のイリュージョン」
「車輪のイリュージョン」は、並んだ柵を通して転がる車輪を見ると車輪のスポークが歪んで見えるという現象を、1824年にイギリスのピーター・M・ロジェが科学的に考察したもの。
200年前の単純な装置ながらも、その発見が映像装置への発明に繋がっていくと思うと大変感慨深い作品です。
19世紀の映像装置の中でも特に知られている《ソードロープ》のレプリカもありました。
装置を回転させるだけでは、早すぎて中の絵がなんだか分かりませんが、スリットを覗くとあら不思議!まるでアニメーションのように絵が滑らかに動いているように見えます。
中の絵は取り替えることができ、同時に複数の人と鑑賞できる画期的な発明でした。
当時の映像装置の展示も
中央には発明当時に製作された映像の装置が展示されています。映像装置は、動いている映像を見て初めて魅力が伝わるもの。大変貴重なものとはいえ、展示だけであれば興味が湧かずに素通りしてしまったかもしれません。
岩井さんと精巧なレプリカを作った「プリミティブメディアアーティスト」の橋本典久さんの存在があってこそ、この展示会は完成したのだと感じました。
絵が映像として動き出すと、会場に訪れていた皆さんが「わぁ」と歓声をあげて喜んでおり、本当の学びがある展示だと感じました。
第2章「岩井俊雄のメディアアート」
岩井さんは、幼少期からアニメや特撮番組に夢中になり、パラパラマンガや電気工作などに親しんできたそうです。
原体験としてのパラパラマンガと、19世紀の映像装置への興味、そしてコンピューターや映像機器を積極的に創作に取り入れ、独自のメディアアート構築。第2章では、そんな岩井さんの代表作が多数、展示されていて見応えがあります。
貴重な時間層シリーズが復元!
本展のもう一つの見どころは、光の視覚効果を利用した岩井さんの代表シリーズ「時間層」。4作品が30分ごとに、上演されます。
長年、「時間層シリーズ」は使用する機材の経年劣化等の理由で、これまで作品が展示される機会は長らくなく、シリーズの4作品が一堂に会するのは今回が25年ぶりとなる貴重な展示です。
坂本龍一ともコラボした!?「映像装置としてのピアノ」
また、《映像装置としてのピアノ》も展示されており、トラックボールで描いたドットが、光とグランドピアノの音へと変換される様子を体験できます。坂本龍一さんとのコラボレーションパフォーマンスでも知られる作品です。
「東京都写真美術館」のコレクションのインタラクティブ作品《Floating Music》(2001)も披露されました。タッチパネルを触ると音とともに指先から立体的な光の図形が浮かびあがります。
現代版「立体ゾートロープ」
ハイテクを駆使した作品の他に、レトロな作品に《立体ゾートロープ》もありました。
《時間層Ⅰ》《時間層Ⅱ》後にCGによるインタラクティブな表現に興味を持った岩井さんはあえて、時代を遡ったゾートロープに注目。《立体ゾートロープ》を製作したとのことです。
母親の「おもちゃは買いません!」宣言がきっかけの「工作ノート」
岩井さんは小学4年生の時に母親から「もう おもちゃは買いません!」宣言をされたのがきっかけで、工作をはじめたとのこと。
第2章の展示室には、アイディアをまとめた「工作ノート」や、ノートに描いていたパラパラまんがも出展されていて、岩井さんの原点が垣間見ることができます。
第3章「イワイラボ─19世紀を再発明する」
最後の第3章はまるで、実験室のようです。現代のメディアアート作品と19世紀の映像装置が繋がるような作品を展示。19世紀の映像装置をあえて再考し、再発明していく試みが大変興味深い展示です。
「驚き盤」体験ができる「おどろきばんテーブル」
19世紀の「驚き盤」をデジタルのビューワーと組み合わせて、現代風にアレンジした作品を体験できるコーナーもありました。19世紀の人たちの感覚を再現する試みで、並び替えた絵柄を録画して、画面でアニメーションとして見ることができます。
自分でも作れるかも!?
《マジック・ランタン》や《アノーソス・コープ》などの古い映像装置を身近な素材を用いて再現。なんと、ルーペや鏡などは100円ショップで購入したものだそうです。
自分も何かを作りたくなってしまう、夏休みの自由研究の参考になりそうな楽しい部屋でした。
「100かいだてのいえ」の原画に感動!
「100かいだてのいえ」が大好きな方であれば、大興奮の「100かいだてのいえ」の原画も展示されています!何度も絵本で読んだ、原画を見ることができるなんて、感動です。
「100かいだてのいえ」シリーズの原画では、6作のなかからそれぞれ2場面ずつ作品が並んでいます。本展示に合わせて、メディアアート的な光や動きを随所に取り入れた描写をピックアップしたとのことです。
秋の親子のお出かけ先に
映像装置やその歴史というと少々小難しいテーマに感じてしまいますが、馴染みのある「いわいとしお」さんの作品と結びつくことで、分かりやすく、幅広い世代で楽しめました。
また、メディアアートというとCGなどの最先端のテクノロジーを駆使したものという印象でしたが、200年前の単純な映像装置など、映像のルーツを学ぶことで身近なものを使って、日常の中で楽しめるものであると感じました。
ちなみに、本展示で販売されている展覧会図録はかなり面白く、図録を見てから、もう一度展示を見てみると、また違う視点で楽しむことができそうです。
家族ふれあいの日(毎月第3土曜日と引き続く日曜日が対象)は、都民で18歳未満のお子さん連れの家族は半額に!※ ぜひ、秋のお出かけ先としてぴったりですので、ご家族で訪れてみてくださいね。
※都内在住者であることを証明できるものの提示が必要
展覧会情報
展覧会名:「いわいとしお×東京都写真美術館 光と動きの100かいだてのいえ―19世紀の映像装置とメディアアートをつなぐ」
場所:東京都写真美術館 B1F 展示室
会期:2024年11月3日まで
休館日:月曜日(月曜日が祝休日の場合は翌半日)
開館時間: 午前10時~午後6時(木・金は午後8時まで)
住所:東京都目黒区三田1丁目13−3 恵比寿ガーデンプレイス内
アクセス:恵比寿駅から徒歩約8分
入場料(一般):700円、小学生以下、都内在住・在学の中学生は無料
展覧会図録:「いわいとしお╳東京都写真美術館 光と動きの100かいだてのいえ―19世紀の映像装置とメディアアートをつなぐ」
価格:2,750円(税込)、東京都写真美術館発行
論考:岩井俊雄、エルキ・フータモ、橋本典久、明貫紘子、藤村里美(当館学芸員)
>>>展示会の情報はこちらから
文・取材/Rina Ota