子どもの水分補給時に注意!赤ちゃんがイオン飲料多飲で「ウェルニッケ脳症」に。中高生はジュース類の飲み過ぎで「ペットボトル症候群」も【小児科医監修】

暦の上では秋でも、まだまだ気温の高い日が続きそうな今年。暑い日は水分補給として、子どもにイオン飲料やスポーツドリンク、ジュース類を飲ませている方は多いでしょう。しかし飲み過ぎは、肥満やむし歯のリスクが高まるだけでなく、なかには「ペットボトル症候群」とも言われる急性糖尿病合併症になる場合も。また具合が悪いときでも、イオン飲料の飲ませ過ぎ過ぎには注意が必要です。愛知医科大学病院小児科教授 奥村彰久先生に、子どもの健康に影響を与える水分補給について教えてもらいました。

生後8ヵ月の乳児が、脱水症予防でイオン飲料を飲ませたら多飲するように

子どもが嘔吐や下痢、発熱などで具合が悪いとき、脱水症を防ぐためにイオン飲料を飲ませるママ・パパもいるでしょう。しかしなかには体調が回復してもイオン飲料を好んで飲むようになり、お子さんが食事を摂らなくなってしまうケースも。

脱水症予防でイオン飲料を飲ませたことをきっかけに、ビタミンB1が欠乏した生後8ヵ月の乳児の事例を紹介します。

【事例】イオン飲料を好んで飲み、ビタミンB1が欠乏。ウェルニッケ脳症と診断

生後8ヵ月の乳児が下痢をしたため、脱水症を防ぐためにイオン飲料で水分補給をしました。その子どもは好んでイオン飲料を飲むようになり、離乳食を食べなくなって、体重が増えなくなりました。次第にイオン飲料の量が増えて、多いときは12~3ℓ飲むことも。

生後11か月で発熱して医療機関を受診したところ、血液中のナトリウム濃度が低いことがわかり、8日間入院しました。しかし、退院した日から、嘔吐を繰り返して寄り目がちになったため再入院することに。

検査をしたところ、ビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症と診断されて、すぐにビタミンB1投与を行いましたが、中等度の知的障害と左半身の麻痺の後遺症が。それまでには、特に病気や発達の遅れはなかった子どもでしたので、残念に思います。

乳児には、イオン飲料はお勧めしません。脱水症予防にはミルク、母乳、スープなどを

この乳児が、ウェルニッケ脳症になったのはイオン飲料の多飲によって離乳食を食べなくなったことが原因と考えられます。イオン飲料というと、健康によい、脱水症予防に効果的と思って、具合が悪いときや汗をかくようなときは積極的に飲ませるママ・パパもいるようです。しかし具合が悪くて脱水症が心配なときでも、基本的には子どもにはイオン飲料はお勧めしません。ベビー用やキッズ用のイオン飲料も同様です。

脱水症が心配なときは、イオン飲料よりも糖が少なくて塩分が多い経口補水液が適切で、イオン飲料は使っても最小限にするのがよいです。飲めるのであれば、ミルクや母乳、麦茶、みそ汁、コンソメスープでもよいのです。乳児にコンソメスープやみそ汁を飲ませるときは、いつもの離乳食と同じような薄味にしてください。

事例では、イオン飲料を多いときは12~3ℓ飲むとあり「こんなに飲むの?」と驚いたママ・パパもいるかもしれませんが、イオン飲料やジュース類の味を好むようになると、ほかのものを受けつけなくなる場合もあるようです。

毎日の食事で摂取すべきビタミンB1。代謝の良い乳児は要注意

ウェルニッケ脳症は、ビタミンB1欠乏によって発症します。ビタミンB1が欠乏すると、①眼球運動障害、②ふらつく、③嘔吐、④むくみ、⑤意識障害などさまざまな症状が現れます。

ビタミンB1は、肉類、魚類、豆類などに含まれていて、ごく普通に食事(離乳食)や授乳をしていれば摂れる栄養です。ただし、過剰に摂取しても尿に排出されて、体内には蓄積されないので、毎日、食事(離乳食)からビタミンB1を摂る必要があります。

とくに乳児は代謝がよいので、ビタミンB1が欠乏しやすい傾向があります。もし離乳食(食事)を食べない、体重が増えないときは、念のためかかりつけの小児科で相談しましょう。

中高生以上の男子に多い「ペットボトル症候群」

ほかに子どもたちの水分補給で注意してほしいのはイオン飲料やスポーツドリンク、ジュース類(以下ジュース類)を飲ませ過ぎないことです。

ジュース類の多飲により「ペットボトル症候群」(ソフトドリンクケトーシス)といって急性の糖尿病症状を発症するケースがあり、とくに中高生以上で太り気味の男子に多く見られます。

炭酸飲料には、約17本のスティックシュガーが

以下は、ジュース類に含まれるスティックシュガー(13g)の目安です。

  • 炭酸飲料(500ml) 約17本
  • スポーツドリンク(500ml) 約9
  • 乳酸飲料(500ml) 約17本
  • 100%オレンジジュース(200ml) 約12
  • 野菜ジュース(200ml) 約4~5本

「ペットボトル症候群」は、将来糖尿病になるリスクが高まる

ジュース類を多飲すると、血糖値が急上昇して高血糖状態になります。「ペットボトル症候群」になると、糖尿病と同じように血糖値を下げるインスリンの分泌が低下して高血糖状態が続きます。高血糖状態になると、余計に喉の渇きを感じるようになり、ジュース類を頻繁に飲むといった悪循環に陥りやすくなります。

こうした状態が続けば、将来2型糖尿病になるリスクも高まります。

水分補給はジュース類でなく、お茶や水を

先に紹介したイオン飲料の多飲によるビタミンB1欠乏も同様ですが、子どもの健康のためにママ・パパに注意してほしいのは、ジュース類をあまり飲ませないことです。水分補給はお茶や水を中心にしましょう。

サッカー、野球などのスポーツで汗をかくときは、スポーツドリンクで水分補給をしてもよいのですが、それ以外では飲ませないようにしてください。汗を多くかくときには、水分だけでなく塩分も併せて補給しましょう。

ノンシュガーやカロリーオフだから大丈夫はNG!

「ノンシュガーやカロリーオフのジュース類ならいいのでは?」と考えるママ・パパもいるかもしれませんが、海外ではそれらは2型糖尿病の予防にはならないと言われています。甘いものを好んで飲まない食習慣作りが第一です。

野菜や果物は、ジュースではなく食材から栄養を摂ろう

栄養バランスを考えて、子どもに野菜ジュースを飲ませる家庭もあるでしょうが、上記で紹介したように野菜ジュースにも砂糖が入っています。野菜や果物の栄養は、ジュースではなく食材から摂るようにしましょう。

ジュース類の多飲が目に余るようならば、まず、食習慣を見直す指導を

子どもにジュース類をやめさせるには、買い置きしないことが大切ですが、塾・習い事の帰りや子ども同士で遊んでいるときに、自分で購入して飲む子もいるでしょう。もし言い聞かせてもジュース類の多飲をやめないときは、保健所で栄養相談をするのも一案です。食習慣を見直す指導をしてくれます。

また、学校の健康診断で「要受診」となったときは、早めに医療機関を受診して医師の指示に従ってください。ジュース類の多飲は、尿糖が陽性となったり、肥満が指摘されます。

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記事監修

奥村彰久先生|愛知医科大学病院小児科教授

専門は小児神経学、新生児神経学、臨床てんかん学。日本小児科学会認定小児科専門医・指導医、日本小児神経学会認定小児神経専門医。日本小児科学会栄養委員会メンバー。

取材・構成/麻生珠恵

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