「待機児童ゼロ」その実態は…?
保育園申請の時期です。最近は待機児童ゼロを謳う自治体が増えていますが、SNSを見ると「空きがない」「倍率が高い」といった声も見かけます。実態はどうなのでしょうか。
「実は”待機児童ゼロ”という数字はあまり当てにならないんです。待機児童ゼロとしている自治体でも、認可保育園に入園を申し込んで入れなかった方は、都市部の1歳児を中心にかなりいると思います」
そう話すのは、保育園を考える親の会顧問(アドバイザー)の普光院亜紀さん。同会が毎年発行している調査冊子『100都市保育力充実度チェック』には、2024(令和6)年4月現在の全国の待機児童数はわずか2,567人にも関わらず、認可保育園等を申請したものの実際に利用できていない未決定児童数は9万2,141人に上ると書かれています。この差はどこからくるのでしょうか。
「国が待機児童のカウント方法の指標を出していますが、除外できる項目が結構あるんです。たとえば認可保育園に申し込んで落ちても、認可外保育施設に入れていれば待機児童数にカウントしないとか、保育園の希望数が1園だけしか書いてない場合はカウントしないといった自治体もあります」
とはいえ、全体的な状況は改善傾向。保育施設も増え、以前に比べるとだいぶ入りやすくなっているそうです。
「とくに0歳児クラスは年度の前半は空きがあることも多く、育児休業から復帰する人だけでなく、再就職希望者も入りやすくなっています。一方で、1歳児クラスはかなり厳しくなっています」
育休延長希望者が増えている
1歳児クラスの人気が高まっている理由の一つには、育休(育児休業)延長制度を利用して、育休延長を希望する人が増えていることがあるそうです。育児休業は、もともと子どもが1歳になる前日までしか取れませんでした。それが待機児童解消対策として、やむをえない事情があれば1歳半の前日まで延長が可能になり、現在は2歳になる前日まで再延長できることになっています。
「2歳の前日までに復帰するということは、2歳児クラスを目指しているのでは遅く、1歳児クラスに入る必要があります。今は1歳児クラスの需要が増えているので、育休を延長したことで、かえって子どもを保育園に入れにくくなってしまうことがあります」
ただし、これは主に都市部の話。地方であれば1歳児クラスでも空きがある園は少なくないそうです。
「あとは園による違いも大きいですね。就学前まで通える園庭付きの保育園や、駅近の保育園は人気が高く、育休延長で入園が難しくなるケースもあります。行きたい園があれば、状況をよく調べて入園希望のタイミングを考えるのがおすすめです」
ちなみに最近は育休延長希望者が、不承諾通知書を得るために望まない入園申請をすることもあります。自治体の利用調整が難しくなっていることから、「落選狙い」と呼ばれて問題になっています。これについて普光院さんは、「本当は不承諾通知書がなくても、希望すれば育休を延長できるのがよいですよね」と言い、次のように続けました。
「お金(育児休業給付金)をもらいながら子どもと家にいられるのは幸せなことに思えるかもしれませんが、子育ては孤立すると大変。保育園で保育のプロがみてくれるのは心強い面もあります。育休延長制度を『利用しないと損』と考えるのではなく、自分の生活や気持ちに寄り添いつつ、職場の都合ともすり合わせながら、どうするかを考えるのがよいと思います」
保育園に落ちてしまったら?
自治体によって前後しますが、保育園の申し込みは10~11月ごろ、結果は年明け以降に届きます。もし不承諾通知が届いたら、どうすればよいのでしょうか。
2次募集や認可保育園以外をチェックする
「まずは認可保育施設の2次募集をチェックしてください。1次選考で空きが出た保育園に限られますが、2次募集がある園も少なくありません。地域型保育事業(認可保育施設)といわれる0~2歳児を対象とした小規模保育や家庭的保育(保育ママ)は空きが多くなっています。
それもダメなら、東京都の認証保育所のような自治体の認定を受けた認可外保育施設などへ対象を広げれば、どこかしら空いていることが多いと思います。絶対に復帰しなければならないという人も、そこまでドキドキしなくても大丈夫だろうと思います」
ただ、再申し込みまではあまり時間の余裕がないので、検討は急ぐ必要があります。
「事前の倍率を見て落ちる可能性がありそうなら、認可保育園だけでなく、地域型保育事業や認証保育所も含めて、“もし落ちたら、ここでもいいかな”という候補をチェックしておくとよいですよ。見学に行けなくても、散歩がてら施設を確認しておくだけでも、いざという時に慌てずに済みます」
このほか助成を受けない認可外保育施設も選択肢になりますが、保育の質の差が大きいことがあるため、よりしっかり見学して選ぶことが重要だといいます。
育休延長制度を利用する
「最近は、万が一落ちても育休を延長すればよいと考える方も多いので、その意味では選択肢が広がり、不安感は少なくなっていると思います」
育休を延長するなら、職場には早めに連絡を。状況によっては事前に「今の自治体は入園事情が厳しく、入れないかもしれない」ということは話しておいたほうがスムーズです。また、育児休業延長にあたっては、会社からハローワークに「育児休業給付金支給申請書」を提出してもらう必要があります。会社が手続きに不慣れなようであれば、一言お願いしておくと安心です。
納得のいく保活をするために
これから保活を始める方へのアドバイスを聞くと、大切なのは「早めの情報収集」だと普光院さん。
「この記事を読まれた方は、ぜひすぐにお住まいの自治体の保育園案内を見てください。自宅の周りにある施設を知り、日頃から散歩や買い物のときに見たり、口コミや気づいたことなどもメモしたりしておくと、いざ選ぶときに役立ちます。最近は、保育園の空き状況を発表している自治体が多いので、こまめに確認して『この園は1歳児クラスでも○月くらいまで空きがあった』など情報を集めておくと、復帰時期を検討しやすくなります」
園選びについては、普光院さんが顧問を務める、保育園を考える親の会による「保育園選びのチェックポイント」も参考になります。
「基本的なことですが、保育の様子はしっかりチェックしてほしいですね。つい、オムツの持ち帰りの有無や持ち物の量など、利便性に目がいきがちですが、まずは、保育士さんが子どもたちに向けている目が温かいかどうかを見てほしいと思います。不適切保育などのニュースもありますが、ちゃんと選べば園はとても強い子育ての味方になってくれます。預けることに罪悪感を覚える必要はなく、自分が生き生きと子育てできる環境を大切に考えてほしいと思います」
保活事情は以前より改善しているものの、都市部の1歳児クラスの人気は依然として高く、慎重な計画が必要。早めの情報収集や保育の質を重視した園選びを心がけることが、納得のいく保活につながりそうです。
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お話を聞いたのは
取材・文/古屋江美子