既に始まっている、世界各国のトランプ外交
11月5日に行われた米国大統領選挙の末、共和党候補のトランプ氏が312人の選挙人を獲得し、226人に留まった民主党候補のハリス氏を大差で破りました。これについて、民主党内部ではバイデン大統領がもっと早く選挙戦からの撤退を表明していればと不満の声が上がったようです。
第2次トランプ政権の発足は来年1月ですが、既にトランプ外交はスタートしており、各国はトランプ氏とどのように付き合っていくかを考えています。
トランプ氏は、ロシア軍がウクライナ東部を占領したまま戦争を終わらせる考え
第2次トランプ政権がどのような外交を展開していくかに注目が集まっていますが、その1つにウクライナ問題があります。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナ支援に積極的な姿勢に徹するハリス氏の勝利を本音では望んでいたと思いますが、トランプ氏勝利のシナリオも視野に入れ、9月にはニューヨークでトランプ氏と対面で会談。ロシアが続ける戦争を終わらせる時だとの認識を共有し、大統領選の翌日にも電話会談を行いました。トランプ氏は具体的な言及はしなかったものの、ウクライナを支援すると伝えたとされます。
では、第2次トランプ政権の発足によってウクライナ情勢はどうなっていくのでしょうか。
トランプ氏は予測不可能と言われており、その政策を予測することは簡単ではありませんが、ウクライナ戦争の終結を目指していくと思われます。しかし、トランプが目指す戦争終結は、ロシア軍がウクライナ東部を占領したままの状態で戦争を終わらせるというもので、バイデン大統領やゼレンスキー大統領、そして日本などが望む解決策ではありません。
ゼレンスキー大統領が望むのは、ロシア軍が完全撤退した状態での戦争終結であり、誰もがそれを正論と考えるでしょう。
しかし、トランプ氏はプーチン大統領がウクライナからの撤退を決断する可能性はゼロに近いと判断し、これ以上の犠牲や被害を避けるためにも、ゼレンスキー大統領に対して一部の領土を諦め、現実的決断を迫るものと考えられます。
これに対し、仮にゼレンスキー大統領が受け入れられないとトランプ氏に伝えれば、トランプ氏はウクライナへの支援を停止する決断を下すかも知れません。
世界の分断が深刻化する可能性も
また、第2次トランプ政権のウクライナ政策で懸念されるポイントがもう1つあります。それは米国と欧州の分断です。トランプ氏は政権1期目の時、NATOや国連を軽視する姿勢を鮮明にし、パリ協定などの国際的枠組みから一方的に離脱し、欧州との間では亀裂が深まっていきました。
トランプ氏は今回の選挙戦の最中にも、NATO加盟国が十分に防衛費を払わないならロシアによる脅威から守らないなどと発言し、欧州では大きな物議を醸しました。
第2次政権でもその姿勢を貫くことが考えられ、トランプ氏がウクライナ領土をロシアが実効支配する現状での戦争終結案をウクライナに提示すれば、米国と欧州との間では再び亀裂が生じ、世界の分断がいっそう深刻化することが懸念されています。
この記事のポイント
①トランプ氏は、ロシアがクライナ東部を占領したまま戦争を終わらせる考え
②ゼレンスキー大統領が拒否した場合、アメリカのウクライナ支援が停止する可能性も
③トランプ大統領がNATOや国連を軽視する姿勢を貫く場合、世界の分断が深刻化する
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記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。