【キレやすい人】【キレにくい人】の違いは何?〜脳科学者・中野信子『キレる!』に学ぶサバイバル法2〜

理不尽にキレられて疲弊する人もいれば、自分はキレやすいと自覚して悩んでいる人もいます。感情をコントロールできずにキレてしまうのはなぜか。キレやすい人、キレにくい人はなにが違うのか、脳科学者・中野信子さんの著書『キレる!』から対処法を学んでいきます。

【キレる自分】との付き合い方

「子どもを感情的に叱ってしまった」「夫婦げんかで言いすぎてしまった」キレて人や物に当たって激しく後悔をしたことは誰もが経験があるのではないでしょうか。怒りの感情と付き合うことは生きていく上で避けることはできないもの。感情への対処方法を身につけることが必要です。

最近キレやすくなったと感じる人

キレやすいは、思い込みかもしれない

〝キレる〟とまでいかなくても、自分が最近怒りっぽくなったと自覚するのは、やはり気分のよいものではないでしょう。 穏やかでありたい、人に対して優しい人でありたいという理想像がある人ならなおさら、自分が誰かに対してキレてしまったときには、ひどく落ち込んでしまって、何日もその出来事を引きずることもあるでしょう。 相手に感じた怒りが自分には後悔として返ってくるので、自己肯定感が低くなり、さらにイライラすることになります。

しかし、自分はキレやすくなったという自覚があっても、周囲の人はそう感じていないこともあります。なぜなら、穏やかな人でいたいと思っている人ほど、キレたときの記憶が強く残ってしまうため、キレたことばかり覚えている状態になっているからです。キレているときの自分が嫌だという気持ちがあると、ちょっとキレただけで「自分はキレやすいんだ」と思ってしまうのです。また、誰かに「怒りっぽくなった」と言われたことを気にしすぎているのかもしれません。けれど実際には、自分が思っているよりもずっと穏やかな状態のほうが長くて、キレた回数はそれほど多くないものです。

キレやすいポイントを記録する

自分を客観視するためにも、自分がどんなときにキレて何に対して怒りやすいのか、記録をつけてみるとよいでしょう。自分のキレやすいタイミングを意識して記録し、パターンを分析してみるのです。前に自分が言ったことを守ってくれてないとキレる、不公平さを感じたときにキレる、自分の仕事に対しての評価が低いとキレるなど、いろいろなパターンがあるはずです。

自分のキレやすいポイントを可視化することで、自分の怒りの衝動的な行動を〝メタ認知〟することができます。〝メタ認知〟とは、自分の行動を客観視する能力のことです。自分を、別のもう一人の自分が見ることで、自分はどういう思考を持って、どういう行動をしているのか、周囲の人はどう思っているのか、自分の行動が他の人にどのような影響を与えるのかを判断し、行動を制御して、自分がとるべき行動に気づくことができるようになります。また、自分の怒るパターンを理解できるようになると、他人の怒るパターンやタイミングがわかるようになるので、一石二鳥です。

【キレる!】技術は武器に。いじめ、パワハラ…理不尽な社会を生き抜くために~脳科学者 中野信子『キレる!』に学ぶサバイバル法1〜
あなたの周りにもいませんか?イライラする気持ちが抑えられずに衝動的な行動をとってしまって、周囲の人とトラブルを起こす人。逆に、自分の怒りの気...

幼いころからキレやすい性格が直らない人

生まれ育った状況により”キレやすい”脳になっている場合も

キレやすい性格がなかなか変わらないのは、成育状況により〝キレやすい〟脳になってしまっているのかもしれません。キレやすい脳として考えられるのは、〝前頭前野〟の働きが不十分な場合です。前頭前野は、感情や行動のブレーキ機能で、前頭前野の働きが悪いと、「やってはいけない」という抑制の判断ができなくなってしまいます。お酒や寝不足などでも、この前頭前野の働きが不十分になりますが、親子関係と生まれ育った状況が、前頭前野の発育に影響することがわかっています。

幼少期の”愛着”形成が脳の性格形成に大きく影響

幼少期に養育者との関係が良好ではなく、十分な愛情を受けることができないことで、前頭前野の発育に必要なホルモンが不足して、前頭前野が十分に発育できない場合があるという調査報告があるのです。イギリスの心理学者、ジョン・ボウルビィは、第二次世界大戦で戦災孤児になった子どもたちの調査から〝愛着理論〟を提唱しました。幼少時代における養育者から受ける〝愛着〟=〝情緒的な結びつき〟の有無が、その後の脳の発育、性格形成に大きな影響を与えるというものです。

幼児期に養育者と安定的な関係にないと、情緒的な結びつきである〝愛着〟を形成することができずに、そうなるとその後も安定的な人間関係をつくることができないとされました。なぜなら、幼児期に〝愛着〟=〝情緒的な結びつき〟の形成がうまくいくと、〝愛情ホルモン〟であるオキシトシンの分泌が豊富になります。オキシトシンには、前頭前野が育つように働きかける役目があるので、愛着の形成によりオキシトシンの分泌が豊富になれば、脳の前頭前野を発達させることになり〝キレにくい〟人になります。ところが愛着の形成ができなければ、オキシトシンの分泌は不足するので、前頭前野は十分に発育できません。脳のブレーキが利かず、怒りが抑えられない、キレてしまう人になる可能性が高まります。

【キレやすい人】【キレにくい人】は幼少期が強く影響する

”キレる””キレない”は対人関係において回避型、不安型、両価型、安定型と呼ばれるそれぞれの形で表れるようになります。

絆を求められるとキレる「回避型」

回避型は、誰かに頼られたとき、迷惑と感じたり、怒りを覚えたりします。比較的男性に多いと言えますが、「俺に面倒を持ち込むな」というスタイルです。これは幼児期に親との関係が断絶しがちだった人がなりやすいと言えます。保護者との関係が希薄であったり、両親と祖父母の家の間を行ったり来たりするような生活をしていると、〝愛着形成が不十分〟となる場合があります。その結果、成熟が早く、独立心が高く、自ら愛着を回避する傾向になることがあります。そして、多くの人は自分を信頼してくれた人と良好な人間関係を築こうとするのに対し、回避型の人は自分の領域に入ってこられることに迷惑や怒りを感じます。なぜならいつ裏切られるかわからないため、誰とも愛着形成をしたくないのです。したがって、回避型がキレるのは、愛着を形成しうる他人に向けられます。自分の領域に入ってこようとする人がいると、将来裏切るものと感じて怒り、キレることになります。

女性に多い「不安型」

不安型は、一人でいることや一人で行動することに不安を抱きやすいため、他人に依存しやすくなります。そのため恋愛体質だったり、さらにはその恋愛相手に依存しすぎたりします。これは子どものころに、いい子にしていれば親からかわいがられた、成績などなんらかの成果を出すことによってほめられたなど、ある枠組みがあって、その枠組みを逸脱すると愛してもらえないという、条件付きの制限された愛情で育ち、〝愛着形成が不十分〟となったことが原因となります。そうなると、不十分だった愛着形成を補うかのように、大人になってから愛着の対象をつくり、そこに依存する傾向になります。そんな不安型の場合、キレる、怒るのは、愛着の対象であるパートナーに向けられることが多くなります。例えばパートナーが、自分が望んでいることをやってくれないと、それがちょっとしたことでも不安に感じてキレてしまうのです。

回避型 と不安型 を併せ持つ「両価型」

回避型と不安型の両方を併せ持つタイプの人もいます。それが両価型です。親の態度が変わりやすかったり、あるいは、保護者が過剰に干渉するような成育環境にあった人に多く見られます。両価型の子どもは、一人にしておくと寂しがって泣いてしまったり、気にかけてくれた人が近づくと逆に嫌がってもっと泣いてしまったりします。これは、人とのつながりを信頼できず、愛情をかけられても、裏切られ、またいつ愛情が得られなくなるか、不安になるからです。

キレにくい「安定型」

安定型の多くは、幼少期に親との〝愛着形成が十分〟できて、安定した関係を築けた人です。安定した情緒を保てるタイプで、たとえ怒りを感じても、余裕を持って考えて判断する能力を持っています。

例えば相手が怒った場合、不安型は自分を責め、回避型は「自分は関係したくない」と思いますが、安定型は客観視することができます。安定型は、相手を信頼し、仲間意識を高めるオキシトシンが十分に分泌されます。オキシトシンには心身ともに修復機能があるので、立ち直りが早くなります。さらに安定型は人との絆を築くことが得意で、多少相手ともめることがあっても、それで相手との関係が悪くなるわけではないという自信があります。そのためか、安定型は、収入や社会的地位も高くなるという報告があります。

”キレにくい脳”に育て直せる!

最善策は安定型のパートナーを得ること

回避型、不安型の傾向がある人にとって最善の方法は、安定型のパートナーを得ることです。もちろん、友人でもよいので安定型の人と交流して、その人の思考や行動をコピーするとよいと思います。他人を理解したり、共感するといった行動パターンを観察し、模倣する神経細胞であるミラーニューロンを活発にするわけです。

不安型であれ、回避型であれ、キレやすい人は、自分の怒りを、怒鳴ったり、泣きわめいたり、暴力を振るうなど、攻撃的で激しい行動でしか表したことがない、あるいは親も含めて、そういう人としか交流がなかったとも言えます。経験が少ないのです。ですから、安定型の人を見つけ、その人の気持ちの表現方法を学び、怒鳴らなくても伝わるのだという経験を積むことで、より有効な伝え方を学習することができるでしょう。私たちは脳を育て直すことができるのです。

愛情ホルモン”オキシトシン”は増やせる!

オキシトシンを増やす方法はいくつかあります。その一つが「スキンシップ」です、マッサージを受けるだけでも効果的です。実際にスウェーデンの学校では、生徒にマッサージをすることが実験的に行われ、成績が上がったり、問題行動が減ったりという報告があります。オキシトシンの濃度を高めるためには、〝さわり心地のよさ〟つまり、脳に心地よさを感じさせる触覚もポイントです。新生児に肌触りのよい肌着とそうでもない肌着を着せてオキシトシンの量を測ったところ、前者グループのほうがオキシトシンの量が多くなり、さらに免疫グロブリンの量も連動して増えたという実験結果もあります。

落ち込んだ日は、ストレス発散のために肌触りのよい服やパジャマ、寝具など、上質なものを選んでみてはいかがでしょうか。ライブコンサートもお勧めです。ライブでは、CDでは聞こえない、幅広い周波数の音を感じることができます。それらの領域の音圧が刺激として立毛筋に入ると、オキシトシンの分泌を促す効果があります。

怒りをポジティブなエネルギーに変えるのも手

また怒りやすいということで落ち込むよりも、怒りのエネルギーを使って、自分を伸ばすことを考えてみましょう。むしろ怒りのパワーを利用してリソースを増やすのです。例えば、誰かが攻撃してきたり、足を引っ張ろうとしたら、ひるまずに立ち向かえばよいのです。しかし、怒りに任せて暴言を吐いたりしてはいけません。 怒りを感じたとき、姑息な人は、足を引っ張り返そうなどと考えますが、それでは自分に何も残りません。最高のリベンジは、相手よりもよい仕事をすることです。相手よりもよい仕事をしよう、もっとスキルを高めようと闘っているうちにどんどん自分が磨かれ、力がついていくのです。

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著者:中野信子(なかの・のぶこ)

1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学教授。著書に『心がホッとするCDブック』(アスコム)、『サイコパス』(文藝春秋)、『脳内麻薬』(幻冬舎)『ヒトは「いじめ」をやめられない』(小学館)など多数。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。

キレる!脳科学から見た「メカニズム」「対処法」「活用術」

著/中野信子

本体780円+税

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