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大人気絵本作家、ヨシタケシンスケさんの創作の原点は!?
絵本作家の方はどのように絵本と出会い、楽しんでいるのでしょうか。
発想力をかき立てる絵本でいま、子供たちはもちろんママたちにも大人気のヨシタケシンスケさんにうかがいました。
デビュー作『りんごかもしれない』に影響を与えた
大切な絵本とは?
お母さんの家庭文庫が大きく影響
子どもの頃から絵本は好きでした。母が近所の子ども向けに家庭文庫を開いていたので、家に絵本がたくさんあったんです。母は盲聾学校で絵本の語り聞かせの活動もしており、4人きょうだい中、その練習相手は僕でした。僕には姉ひとりと妹がふたりいまして、2歳上の姉は勉強も何でもできた上に、絵も上手だったんです。なおかつ気も強い(笑)姉、さらに妹達に囲まれて、自己主張することもできず、かなり引っ込み思案の子どもでした。
『What Do People Do All Day?』を隅々まで眺めた少年時代
そんな僕が、当時憧れていたのは職人さん。家にあった『What Do People Do All Day?』にはさまざまな仕事が図解されていて、英語はわからなくても、絵を隅々まで眺めているだけで楽しかった。
『やっぱりおおかみ』はインパクトのある絵が好きでした。大人になって、実は人生の深いテーマが表現されていると気付きました。これは大人の心にも響く奥行きがある内容という意味で、『What〜』は目で楽しませるという点で、絵本『りんごかもしれない』を描く時に参考にした作品です。
ヨシタケシンスケさんが真似したくなる絵本とは?
目指すのは、子供が感情移入できる絵本
昔、個展で毛布を被った男の子の絵を展示したことがありました。それを見た知人のお孫さんが、真夏にもかかわらず、家に帰ってからずっと絵の真似をしていると聞いた時、すごくうれしかったんです。きっとその子は絵を見て、面白そうだと感じたからそうしてくれたはずなので。子どもの頃に好きだった『どろんここぶた』もまさにそうで、こぶたのようにどろにズブズブ入ったら気持ちよさそう!と感じさせてくれる。身体で感情移入できるんです。そういう皮膚感覚は、たとえ文化が違っても人間誰しもに共通しているもの。だからこそ、そこに訴える絵本を作ることに興味がありますね。
考え方ひとつで世界は変わると伝えたい
学生時代から続けているスケッチが原点
僕は学生時代から、電車の中や街中で見つけた面白い人びとやひとコマをスケッチしています。それが絵本のネタにもなりますし、超ネガティブ思考の自分にとって、これはリハビリでもあるんです。何しろ悲しいニュースを見ただけでドンと落ち込むくらいなので(苦笑)。でも、スケッチしていると世の中の見え方が変わる。そうだよな、こんなに面白いことがあるんだなって思えるんです。
そもそも絵本を描くこと自体、僕には絶対に無理だと思い込んでいたんですよ。まず絵が小さいし、色を付けるのも長いお話を作るのも苦手。でも絵は拡大できるし色はデザイナーさんに助けてもらえるし、話は小ネタをつなげればいいんですよね。そうやってスキルがない部分は工夫して『りんごかもしれない』を作った結果、自分のスタイルが生まれ、今までにない絵本だと評価していただけたんですね。スケッチの話にもつながりますが、何事も視点が変えることが大事で、「ものは言いよう、考えよう」だなと。これは僕が絵本を通して、子どもたちに伝えたいことでもありますね。
子どもの頃の自分に向けて描く
子どもって、いろいろなことにモヤモヤすると思うんです。急にせかしたり怒ったりする親に「なんでだろう?」と感じたり。自分が親になった今は、大人の事情もわかるわけです。『いやだいやだのスピンキー』は数年前に読んで、そうした子どもの心情描写の巧みさに驚かされた作品。
しかも「世の中そんなにうまくいかないよね」っていうオチに子どもが共感できるように描かれている。僕は現実をちゃんと伝えることも、絵本の役割だと思うんです。
はじめて「死」がテーマの絵本に取り組んだ
『このあと どうしちゃおう』で「死」をテーマにしたのもその理由からで、27歳の時に母を、その数年後に父を亡くした時に、死んだ後にどうしてほしいとか、もっと聞いておけばよかったと実感しました。死を語る機会は普段、なかなかないけれど、死は生の延長線上にあるもの。そして死にかぎらず、怖かったり辛かったりすることを、ユーモアを交えて伝えることができるのが絵 本です。子どもの頃の自分が「これがあったら救われただろうな」という絵本を描いているところもあります。僕と同じように気苦労ばかりしていたり、モヤモヤしていたりする子どもたちに、これからも絵本を届けていきたいですね。
ヨシタケシンスケさんのおすすめ絵本7
『What Do People Do All Day?』
リチャード・スキャリー(作)、RANDOM HOUSE 洋書
電車の運転手に船乗りなど街の住人たちの仕事を軽快なタッチの絵で紹介。日本でも人気のスキャリーおじさんの絵本。
『やっぱりおおかみ』
佐々木マキ(作)、福音館書店 本体900円+税
ひとりぼっちのおおかみは仲間を探してさまよいますが、みんな逃げていきます。潔い結末が、深い余韻を残す1冊。
『りんごかもしれない』
ヨシタケシンスケ(作)ブロンズ新社 本体各1400円+税
テーブルの上のりんごは、りんごじゃないかもしれない!? 次々に想像が広がっていく発想絵本第1弾。
『このあと どうしちゃおう』
ヨシタケシンスケ(作)ブロンズ新社 本体各1400円+税
亡くなったおじいちゃんが遺したノートを開くと…。 死んだらどうなる? どうしたい? 生きているうちに考えてみよう。「死」というテーマに挑んだ最新作。
『いやだいやだのスピンキー』
ウィリアム・スタイグ(作)、おがわえつこ(訳)、らんか社 本体1500円+税
すねて家を飛び出したスピンキー。意地を張りすぎて引っ込みがつかなくなり……。子どもの心情を見事にとらえた名作。
『どろんこ こぶた』
アーノルド・ローベル(作)、岸田衿子(訳)、文化出版局 本体950円+税
やわらかーいどろんこの中に座ったまま沈んでいくのが大好きなこぶた。ところがそれはどろじゃなかったから、さあ大変!
『ハリス・バーディックの謎』
C•W•オールズバーグ(作)、村上春樹(訳)、河出書房新社 本体1600円+税
「一見、何の関連性もない14枚の絵を使い、説明文ひとつで壮大な物語を想像させるアイディアが見事!」(ヨシタケ)
ヨシタケシンスケ プロフィール
1973年神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合芸術コース終了。2013年の絵本デビュー作『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)で第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。著書に『ぼくのニセモノをつくるには』『もうぬげない』(ブロンズ新社)、『りゆうがあります』『ふまんがあります』(PHP研究所)ほか。小4と4歳の息子を持つ。 http://www.osoraku.com
提供元 おひさま2016年10/11月号