絵本作家の方はどのように絵本と出会い、楽しんでいるのでしょうか。食べ物を題材に、インパクト大のキャラクターと奇想天外なお話で人気のシゲタサヤカさんにうかがいました。
シゲタ サヤカ
1979年神奈川県生まれ。短大卒業後、印刷会社勤務を経て、パレットクラブスクールで絵本製作を学ぶ。第28~30回講談社絵本新人賞で佳作を3年連続授賞。2009年、第30回佳作受賞作『まないたにりょうりをあげないこと』(講談社)で絵本作家デビュー。絵本作品に『りょうりをしてはいけないなべ』『コックのぼうしはしっている』(共に講談社)、『キャベツがたべたいのです』(教育画劇)、『オニじゃないよ おにぎりだよ』(えほんの杜)など。公式サイト:akamochi.net
目次
おいしそうな絵本に魅せられて
幼い頃、感情移入して読んでいた絵本は今でもドキドキ
生まれて初めて出会った絵本は「ちいさなうさこちゃん」でした。ミッフィーグッズが今ほどなかった時代、幼い私の寝室の障子に、両親がミッフィーの絵を描いてくれたこともぼんやり覚えています。「にんじん」は子ども心に「おいしそう!」と感じた1冊。2歳くらいでしょうか、動物たちがにんじんをポリポリ食べる姿を眺めながら食感を想像していました。
幼稚園の年長の頃には「はじめてのおつかい」が好きでしたね。お母さんにおつかいを頼まれたみいちゃんの気持ちになって、何度も読みました。ようやくたどり着いたお店のおばさんを呼んでも気づいてもらなくて、勇気を出して大声を出す場面は今読んでもドキドキします。
当時から絵は好きで、新聞のチラシの裏に落書きしていました。今と変わらず食べ物をよく描いていて(笑)。一度、目玉焼きの端っこの焦げた感じを出そうと色をつけたら、父が「その茶色がいいね」といってくれたんです。嬉しかったですね。
作風に影響を与えた原点の1冊
「王さまのレストラン」のストーリーと絵に魅了される
小学校時代は「ぼくは王さま」シリーズにとにかく夢中でした。最初に図書館で「王さまレストラン」を借りて虜になり、両親にせがみサンタクロースにもお願いして全巻揃えました。寺村輝夫さんのお話にはおいしいものがたくさん出てくる上に、和歌山静子さんの絵がモノクロなのに湯気が見えるくらいおいしそうなんです。私にとってシリーズの中で一番は「王さまのレストラン」です。コックさんが出てくるところといい、黒い線の絵といい、あらゆる意味で今の作風に影響を与えた私の原点です。
憧れの和歌山先生のクラスで絵本の世界へのめり込む
調理実習が多いという理由で短大の家政科に進み、卒業後は普通に就職しました。町の印刷会社で卒業文集などを扱っていて、「カットを入れておいて」と言われると、本来はカット集を使うところ、自分で描いて入れたりしました。採用してくれることもあり、イラストレーターはいいなと思い始めました。学校に行こうと探したら、パレットクラブスクールの講師の欄に憧れの和歌山先生の名前を発見。イラストコースではなく、絵本コースでしたが、「和歌山先生にお会いできる!」と入学したら、1回目の授業で絵本の魅力に引き込まれました。本気で絵本作家を目指すクラスメートたちにも刺激を受けて、どんどん絵本の世界にのめり込みました。その時期に出会ったのが「チョコレートをたべたさかな」です。映画を1本見たような充実感を与えてくれる、結末も含めて大人になって一番はっとさせられた作品です。
四コマ漫画で鍛えられたお話力
しぶしぶ描いた漫画が転機に
20代は絵本コンペに応募を続けていたものの、いい結果は得られませんでした。そんな中、絵本のサイトを立ち上げたプロデュサーの方との出会いがひとつの転機になりました。作品を見せたら「お話力がなさすぎる。毎日四コマ漫画を描きなさい」といわれました。最初はしぶしぶ(苦笑)漫画を描くうちに力がついてきて、コンペに入るようになりました。あの千本ノックのおかげで今の私があると思っています。
デビュー作「まないたにりょうりをあげないこと」のアイデアは、ある日、近所のお魚屋さんに大きなまないたが干してあり、その図がなんだかおかしかったんです。そのうちに食いしん坊のまないたが動き出しました(笑)。
赤ちゃん絵本はお母さんのお守り
どんなに幼くても絵本の好みはすでにある
今1歳半の娘が生まれてからは、赤ちゃん絵本の魅力を発見する日々です。「れいぞうこ」は出産祝いにいただいたものですが、生後2か月の娘がこれを見て笑ったんですよ。以来、ぐずった時はこれ、予防接種でもこれが水戸黄門の印籠並の威力です。娘は「うさこちゃん」や「にんじん」も楽しんでいて、赤ちゃん絵本は親にとってお守りのようなものでもあると実感しました。近頃は「ゴムあたまポンたろう」がお気に入り。赤ちゃん絵本ではないのでわかるのかなと思ったら、本の山から毎回これを選んでくる。…これは驚きでした。
どんなに幼くても好みがあって選んでいるのだなと気づき、また新たな絵本の扉が開いた感じです。いつか自分も赤ちゃん絵本に取り組んでみたいなと。同時に大好きな食べ物を題材にした作品も、もっと描いていきたいと思っています。
シゲタ サヤカさんのおすすめ絵本
「にんじん」
せな けいこ(作・絵) 福音館書店 本体700円+税
いろんな動物たちがにんじんを食べるよ。にんじんが一番好きなのはだれ? 作者が幼い息子のために描いたロングセラー。
「ちいさなうさこちゃん」
ディック・ブルーナ(作・絵) いしいももこ(訳) 福音館書店 本体700円+税
ミッフィーの名でも親しまれている「うさこちゃん」シリーズ第1弾。赤ちゃん絵本の傑作。
「はじめてのおつかい」
筒井頼子(作)、林明子(絵)福音館書店 本体900円+税
ママに頼まれて牛乳を買いに出かけたみいちゃん。新たな挑戦をする小さな子どもの心情を生き生きととらえた名作。
「チョコレートをたべたさかな」
みやざきひろかず(作・絵) BL出版 本体1000円+税
水の中を泳いでいた一匹の魚。ある日、チョコレートのかけらを食べたことで、その味が忘れられなくなり…。
あけて・あけてえほん「れいぞうこ」
新井洋行(作・絵) 偕成社 本体600円+税
表紙をめくるとおいしいものがぎっしり。親子で一緒に遊べる絵本。
「ゴムあたまポンたろう」
長新太(作・絵) 童心社 本体1300+税
あたまがゴムでできている「ポンたろう」。山にポンとぶつかって、ボールのように空を飛んで行ったり、頭をぶつけながらポンたろうの旅は続きます。
シゲタ サヤカさんが影響を受けた絵本
「王さまレストラン」
寺村輝夫(作)、和歌山静子(絵) 理論社 本体540円+税(現在文庫で刊行)
1956年の初版以来、子どもたちの心を虜にしてきた「ぼくは王さま」シリーズ。
子どもの時に寺村さんに、社会人になってから和歌山さんにサインをしてもらった思い出の1冊。
シゲタ サヤカさんの絵本
「まないたにりょうりをあげないこと」
シゲタサヤカ(作・絵) 講談社 本体1400円+税
忙しいレストランの調理場で、食いしん坊のまな板に出会ったコックさん。気の優しいコックさんがこっそり料理をあげると大変なことが!
出典/おひさま2017年2/3月号