子どもの繊細な表情や仕草を描き続けている岡田千晶さん。二女一男の子育てを通して出会った絵本を中心にうかがいました。
3人の子供に毎晩読み聞かせ
落書きだらけの絵本は、今では懐かしく
今では社会人の長女、次女、大学生の息子が子どもの頃、寝る前に絵本を読むのが日課でした。そこで出会った絵本はどれも思い出深いです。中でも『ぞうのババール』は私が絵を気に入って買って、まず長女が大好きになり、みんなで何度も読みました。『おふろだいすき』も、絵とお話のかわいさに4人で楽しんだ1冊。
当時の私は子どもたちが絵本と仲良くなってくれたらいいなと思っていて、落書きしても怒らなかったんです。クレヨンの跡を見つけると「絵本の中に入って楽しんでいるのだな」と感じていたんですよね。落書きだらけの絵本を今見ると、あの頃が懐かしくなります。
息子が初めて選んだ絵本
保育園で読んでもらって心に残った心温まる本
読み聞かせの絵本は、私の好みで選ぶことが多い中、息子が初めて欲しがったのが『ちびゴリラのちびちび』でした。保育園で読んでもらって心に残ったようです。絵を見ただけではピンとこなかったのですが、読んだら小さな子の成長を見守って、お誕生日をお祝いする心温まるお話。家族やみんなに愛されているちびちびに、息子は自分を重ねたところもあったのかなと思うと、とても愛おしくて嬉しい気持ちになりました。
実は、うちの子たちは雑誌『おひさま』の大ファンだったんです。長新太さんの「へんてこライオン」シリーズをはじめ、夢中になれるお話がいくつも入っている上に、1作が短いので読み聞かせもしやすくて、年の離れた3人の子育てには大助かりでした。
クマのプーさんの挿絵に憧れて
鉛筆画の優しいタッチが素敵
私自身はたくさん絵本に囲まれて育ったわけではないですが、小学校の入学祝いにと母が小学館の『世界子ども名作全集』を頼んでくれました。その中の「カロリーヌのゆかいな8ひき」シリーズや「白雪姫」などを愛でるように読んでいたのを覚えています。他に家にあった絵本はなぜか『にげだしたライオン』だけで、夏休みの課題にそれを全部写して提出したことも。
当時から絵は描いていて、特に惹かれたのは「クマのプーさん」の線画のイラストでした。鉛筆画を描くようになった私の原点でもあります。大人になって出会った『わたしとあそんで』と『クリスマスまであと九日―セシのポサダの日』も、作者のエッツの鉛筆画の優しいタッチが素敵だなと思ったんですよね。
子育てが一段落した時、子供が描きたくなった
いっぱい子供を抱いたり撫でたりしてきた感触を絵に
私は高校を卒業後に就職した新聞広告の会社でカットを描きはじめ、そのうちにイラストの仕事が多くなってフリーのイラストレーターになりました。それからデザイン学校で絵の勉強をしたのち、絵本1作目『うさぎくんとはるちゃん』を出版したのは8年前、子供たちが成長した後でした。子育てが一段落した時、子供を描きたくてたまらなくなったんです。いっぱい子供を抱いたり撫でたりしてきた感触が体に染み込んでいて、それを絵にしたいと思いました。絵本を描いている間はいつもそんな気持ちです。
ただ、デビュー作を完成するまでは大変でした。グループ展で絵本のラフを見た編集者の方が「絵本にしませんか」と声をかけてくださったのですが、文章がまるで書けず…数ヶ月試行錯誤した挙句、夫(画家のおかだこうさん)が「僕が書こうか?」と言ってくれて出すことができました。美大予備校の同級生だった夫は、絵を一番に見ていつも励ましてくれる、頼りにしている存在です。
私は子育て中もずっと自分が描きたい何かがあるはずだと思いつつ、何かがわからなかったんです。絵本の仕事を始めて、自分がやりたかったのはこれだったんだとわかりました。作家の方からお話をいただくことで、自分の絵のイメージが広がる楽しさを知り、続けてきてよかったと思います。同時に家事を必死に終わらせて、子供たちと絵本を読んでいたあの時間はなんて幸せだったんだろうとも思うんです。
昨年、長女に子どもが生まれたので、小さな子がどんなふうに絵本に接するかをあらためて見守りながら、絵本を描いていきたいですね。
岡田千晶さんのおすすめ絵本
子供のころに読んだ絵本
『にげだしたライオン』
ゲーテ(作) 前川康男(文) 田名網敬一(絵) 偕成社
本体:1400円+税
サーカス小屋で火事が起きて、一番人気のライオンが逃げ出した!そこに一人の少年が現れて…。ゲーテの隠れた名作を絵本化。
お子さんと楽しんだ絵本
『ぞうのババール こどものころのおはなし』
ジャン・ド・ブリュノフ(作・絵) 矢川澄子(訳) 評論社
本体:1400円+税
狩人のいる森から逃げのびて、人間の町に迷い込んだぞうのババールのゆかいな冒険と愛と友情を描いた人気シリーズの1作目。
『おふろだいすき』
松岡亨子(作) 林明子(絵) 福音館書店
本体:1300円+税
まこちゃんがあひるのプッカとおふろに入っていると、底から大きな亀が浮いてきて…。子どもの空想をのびのびと描いた絵本。
『ちびゴリラのちびちび』
ルース・ボーンスタイン(作) 岩田みみ(訳) ほるぷ出版 本体1250円+税
ジャングルで、みんなに愛されている小さなゴリラのちびちび。そんなある日、ちびちびが大きくなり始め、素敵なことが起こります。
『しんくんとへんてこライオン』
長新太(作) 小学館
本体:1260円+税
しんくんが歩いているとライオンが! そのライオン、何にでも変身しちゃうのです。「おひさま」から生まれたナンセンス絵本の傑作。
影響を受けた絵本
『わたしとあそんで』
マリー・ホール・エッツ(文・絵) 与田準一(訳) 福音館書店
本体:1100円+税
ぽかぽかとした原っぱで遊ぶ女の子と動物たちのやりとりを瑞々しく描いた名作。柔らかな絵のタッチと色遣いに大人も癒される。
『クリスマスまであと九日―セシのポサダの日』
マリー・ホール・エッツ&アウロラ・ラバスティダ(作) たなべいすず(訳) 冨山房
本体:1400円+税
メキシコの特別なお祝いポサダを題材にした貴重な絵本。初めての出来事に期待を膨らませる子どもの心情が生き生きと描かれている。
岡田千晶さんの絵本
『しゃっくりくーちゃん』
竹下文子(文) 岡田千晶(絵) 白泉社
本体:880円+税
ある朝、しゃっくりが止まらなくなってしまった、ねこのくーちゃん。くーちゃんの愛らしい仕草や表情に大人も心を掴まれる。
『ざしき童子(ぼっこ)のはなし』
宮沢賢治(作) 岡田千晶(絵) ミキハウス
本体:1500円+税
東北地方に伝わる話をもとにした童話が新たな絵本に。岡田さんが物語の舞台を取材して描いた画が、不思議な世界に誘ってくれる。
おかだ ちあき
大阪府生まれ。セツ・モードセミナー卒。ボローニャ国際絵本原画展2010年ほかの入選・受賞。絵本に「うさぎくんとはるちゃん」(おかだ こう共著、岩崎書店)、「もうすぐもうすぐ」(おかだこう共著、教育画劇)、「だいすきなおばあちゃん」(作・日野原重明、朝日新聞出版)、「ぬいぐるみおとまりかい」(作・風木一人、岩崎書店)、「あかり」(作・林木林、光村教育図書)、「ボタンちゃん」(作・小川洋子、PHP研究所)など。okada-chiaki.com
イラスト/松栄舞子 文/宇田夏苗 撮影協力/ピンポントギャラリー 出典/おひさま