100%ORANGE・及川賢治さん「藤子不二雄さんのファンで漫画家になりたかった!」【絵本作家が紹介!私の好きな絵本】

ふたり組のユニット「100%ORANGE」として、絵本を始め、イラストレーション、漫画、アニメーションなど幅広く活躍中の及川賢治さんにうかがいました。

絵本の挿絵を眺めるのが好きでした

強烈に覚えている『セロひきのゴーシュ』

子供の頃に読んだ絵本で、今も強烈に覚えているのは『セロひきのゴーシュ』です。これはもともと家にあって、僕も宮沢賢治と同じ名前なので、母が選んで買ってくれたのかもしれないですね。どこか淋しげで悲しそうな目のゴーシュが歩いているシーンが心に残っています。お話の記憶はあまりなくて、当時から絵を見るほうが好きだったんですよ。家に子ども向けの短編が収録された全集があったので、挿絵が多いお話を引っ張り出しては眺めていました。特に印象に残っているのは、兄弟が帆を付けた乳母車を丘の上から転がす絵。これも話は忘れてしまったのに、劇画タッチの絵のことは鮮明に覚えています。乳母車の構造まで細かく描かれていたので、男の子心をくすぐられたのかも。

『セロひきのゴーシュ』

宮沢賢治(作)、茂田井武(絵) 福音館書店

本体:1100円+税

楽長に叱られてばかりのセロひきのゴーシュが、動物たちの助けを借りて練習すると…。童画家・茂田井武の絵も魅力。

モノの構造を粘土で再現していた幼少期

子供の頃はメカっぽいものが好みで、深緑色の手がベタベタする粘土でロボットなんかもよく作っていました。ディテールに凝りすぎて、腕を1本作っただけで夕食の時間がきてしまい、仕方なく壊して箱に戻すっていう繰り返しでしたけど(笑)。今こうして大人になると、夢中になって作っていたあの時間が本当に楽しかったし、大切だったんだなと思います。

 

美大時代に衝撃を受けた絵

漫画家になりたかった!藤子不二雄さんのファン

僕は小学校時代、漫画家になりたかったんですよ。藤子不二雄さんのファンで、『藤子・F・不二雄のまんが技法』を熟読してタッチを真似て漫画を描いていました。クラスの男子に見せる目的だから、下ネタは特にリアルに描き込んだりして(笑)。
でも高学年になるにつれて、長いお話が描けない自分には、漫画家は無理だなと思い始めた。その頃、7歳上の兄貴が美大に入学し、兄が持っていたイラストやデザインの本を見て「こんなすごい世界があるのか!」と衝撃を受けたんです。その後、自分も美大に進み、高校の同級生だった竹内繭子とポストカードの制作・販売を始めました。その時期はイラストへの興味が膨らんでいて、いろいろ調べる中で、出会ったのが『きりのなかのサーカス』と『はまべにはいしがいっぱい』です。『きりの〜』はトレーシングペーパーを使って霧に包まれた街が見事に表現されていて、『はまべ〜』は色も言葉もほとんどないのがすごい。今見てもかっこいいし、「絵本はこんなこともできるのか」と教えてくれた2冊です。

 

絵本を材料にして子供たちと遊んでいます

形式にとらわれないユニークな絵本との出会い

もう一つ、僕の絵本の世界を広げてくれたのは東京・吉祥寺にあった絵本専門店「トムズ・ボックス」*の土井章史さんとの出会いでした。土井さんのお店には他のお店にはないユニークな絵本がたくさん置いてあったんです。そこで見つけた長新太さんの『ごろごろにゃーん』は絵も内容もぶっ飛んでいるし、井上洋介さんの『ヘンなさんぽ』は少年が散歩中に出会ったおじさんが巨大化していく、いってみればそれだけのお話。そのユルさに逆に惹きつけられたんです。僕は絵本を描く時、ちゃんと起承転結がないといけないと思っていたんですね。ところが長さんや井上さんの作品は、そのイメージとはまるで違っていた。だから気が楽になって、まだまだ未知の世界があるなとワクワクしました。

*2015年末に閉店。

 

小学生が赤ちゃん絵本を読んだっていいと思うんです

 年齢にとらわれずに興味ある本を読む

僕が思う絵本の魅力は、そうやって自由に描ける、型を壊せるところ。だから「もっと破壊してやるぞ!」という気持ちでいつも取り組んでいるところはありますね。そもそも子供の本って、年齢にピッタリのものを選ぶじゃないですか。でも、そこにあまりこだわらなくてもいいのかなと思いますよ。僕も兄の本棚でグラフィックの本を見つけたことが今につながっています。高校時代には「アンパンマン」にハマっていましたし(笑)。
小学生が赤ちゃん絵本を見ておもしろいと感じたり、発見することだってあると思う。絵本を作るうえでも、過去に描いた赤ちゃん絵本のアイディアを少し変えて、年長向けにしたら新しいものができるかなとか、いろいろ考えをめぐらせていますね。

 

及川賢治さんのおすすめ絵本

『きりのなかのサーカス』

ブルーノ・ムナーリ(作)、谷川俊太郎(訳) フレーベル館

本体:2300円+税

霧にけむるミラノの街にサーカスが現れると、世界は色鮮やかに。子どもがあっと驚く仕掛けも用意された幻想的な絵本。

 

『はまべには いしがいっぱい』

レオ・レオニ(作)、谷川俊太郎(訳) 好学社

本体:1500円+税

鉛筆一本で丁寧に描かれた石の数々。谷川俊太郎の研ぎすまされた言葉とともに、石を選んで遊んでいるような感覚に。

 

『ねこのセーター』

及川賢治・竹内繭子(作) 文溪堂

本体:1300円+税

穴が2つあいたセーターが大のお気に入りのねこは、どんぐりに帽子をかぶせる仕事をしています。「かつてないほどゆるい感じで描いた作品です。一人暮らしのねこはさみしいけれど、さみしくないような…ちょっとシュールな世界観を味わってもらえたら」(及川)

 

『ごろごろにゃーん』

長新太(作) 福音館書店

本体:900円+税

魚型の飛行機に猫たちが乗り込んだ先には…。「ごろごろにゃーん」のフレーズとともに広がる世界はクセになる面白さ。

 

『ヘンなさんぽ』

井上洋介(作) 架空社

本体:1456円+税

白いひげのおじさんは大きくなって、なんと水平線からのぞく雲に! くすんだ色遣いの絵とオチに不思議と和む傑作。

 

『藤子・F・不二雄のまんが技法』

藤子・F・不二雄(著) 小学館文庫

本体:552円+税

傑作「ドラえもん」の生みの親が、漫画を描くコツと極意を大公開。子どもにもわかりやすい入門書。

 

 

及川賢治(100%ORANGE)
多摩美術大学グ ラフィックデザイン科卒業。竹内繭子さんと100%ORANGEとしてイラストレーション、絵本、漫画、アニメーションなどを創作。『よしおくんがぎゅうにゅうをこぼしてしまったおはなし』(岩崎書店)で第13回日本絵本賞大賞を受賞。その他の著書に『ぶぅさんのブー』(福音館書店)、『思いつき大百科辞典』(学研)、『SUNAO SUNAO』シリーズ(平凡社)など多数。

 

出典/「おひさま」

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