谷口 智則さん 毎日描き続けたのは「ドラゴンボール」のキャラクター【絵本作家が紹介!私の好きな絵本】

一度見たら忘れられない動物たちの絵をはじめ、独特の作風で世界を舞台に活躍する絵本作家の谷口智則さんに、子供の頃に好きだった絵本屋創作についてのお話をうかがいました。

読書にハマったきっかけは、クラスの「読書王」になったこと!

読書に目覚めたのは小3ぐらいだったと思います。図書館で見つけた「それいけズッコケ三人組」シリーズに夢中になって、新作が出るたびに親に買ってもらっていました。他にも『宝島』や『トム・ソーヤの冒険』といった冒険物にわくわくしましたね。

本好きになったのは小3の時に1年間で何冊読めるかを競うコンテストがあり、クラスの読書王になったことが大きいです。以来、今も読書が習慣になっているので、そうやって本に触れる機会を作ってくれた担任の先生に感謝しています。

その頃から絵よりも文章から想像をめぐらせるほうが楽しかったのは、”自分の世界を作りたい”という気持ちが強かったからかもしれません。

毎日かかさず描き続けた「ドラゴンボール」のキャラクター

小学生時代、もっぱら描いていたのは当時流行していた「ドラゴンボール」のキャラクター。小2から小6まで毎日1枚ずつ描いて、友達に見せるとほめられるのが嬉しくてまた描いて…と続けた結果、ノート20冊ぐらいになりました。

絵はずっと好きで、高2で美大進学を決意したものの、浪人中に参考のためにいろいろな美術展を見に行ってもピンとこなくて。そんなある日、イギリスの絵本作家の原画展を見てものすごく感動したんです。

イギリスの絵本が遠い日本の人々のもとに届いていることに可能性を感じ、自分も世界とつながれる絵本を作りたいと思いました。その時に出会ったブライアン・ワイルドスミスの『どうぶつ』やチャールズ・キーピングの絵本は世界観といい絵といい、僕が影響を受けた大好きな作品です。

絵本を創作する上で役立つ手法を日本画から得た

以来、独学で絵本を作り始め、美大ではあえて日本画を専攻しました。僕が感動した海外の絵本のように、子供も大人も楽しめて、世界に通じる絵本を作るには、まず日本の文化を勉強しなければ発信できないと思ったからです。実際にやってみると日本画は絵の具の準備からして非常に手間がかかるんですね。

でも日本画専攻の学生が最初にやる鳥獣戯画の模写がおもしろかった。鳥獣戯画は今でいう絵本みたいなもの。模写を通して動物を擬人化する手法などを学べたことは、絵本を創作する上でもとても役立っています。

絵本作家になりたかったので、大学時代はいろんな絵本を読みました。中でも『おおきな木』が心に残っています。ちょうどミレニアムの直前で、世紀末を感じさせる哲学的な絵本がたくさん出た時代です。もともと僕は世界の成り立ちとか人間の考え方に興味があって、高校時代にソクラテスなど有名な哲学書はほとんど読みました。子どもの頃から好きだった『星の王子さま』、また『スイミー』『フレデリック』などレオ=レオニの絵本に惹かれるのも、きっと哲学的なお話だからでしょうね。

世界の人とつながれる絵本を

海外では「日本を感じる絵」日本では「外国の絵本『かいじゅうたちのいるところ』もそうで、一人で読んでいると文章が長く感じるのに、子供たちに読み聞かせると同じフレーズ、リズムの繰り返しがむしろすごくいい。子どもが何度も「読んで!」と持ってくる絵本には必ずそういう魅力がある気がします。息子は鈴木のりたけさんの『ぼくのおふろ』もお気に入り。自分もこういうものをやりたいと思い、最新作『ブタのドーナツやさん』には探し絵といった遊べる仕掛けを入れる試みをしました。

僕は大学4年時に描いた『サルくんとお月さま』でデビュー後、新作が出せずにいた時にフランスの出版社から声がかかり、立て続けにフランスで絵本を出しました。興味深いのは海外の人には「日本を感じる絵」だと、逆に日本では「外国の絵本のようだ」と言われること。今後も作と絵の両方を手掛けることで、世代を超えて世界中の人たちにいいなと感じてもらえる絵本を作っていきたいです。

谷口智則さんのおすすめ絵本

『それいけズッコケ三人組』

那須正幹(作)前川かずお(絵)ポプラ社 本体1000円+税

小柄で短気なハチベエ、学者タイプのハカセ、のんびりやのモーちゃん。花山第二小6年1組の3人が織り成す不朽の児童書シリーズ。

 

『星の王子さま』

サン=テグジュペリ(著) 内藤濯(訳) 岩波書店 本体520円+税

飛行家でもあったサン=テグジュペリ自筆の挿画も魅力のロングセラー。「本当に大切なこと」に気づかせてくれる。

『どうぶつ』

ブライアン・ワイルドスミス(作) 渡辺茂男(訳)らくだ出版 *品切れ。公共図書
館などで貸出可。

色彩の魔術師と称される英国の絵本作家ワイルドスミスの代表作。ダイナミックで躍動感に溢れる動物たちの姿に引き込まれる。

 

『おおきな木』

シェル・シルヴァスタイン(作) 村上春樹(訳) あすなろ書房 本体1200円+税

いつもそこにある木は、少年が成長して老人になるまで、惜しみない愛を与え続けた。シンプルな絵と文が人生を考えさせてくれる。

 

『スイミー- ちいさなかしこいさかなのはなし』

レオ=レオニ (作) 谷川俊太郎(訳) 好学社  本体1456円+税

赤い魚の兄弟たちの中で、1匹だけ黒いスイミー。そんなある日、大きなマグロが
兄弟たちを飲み込んでしまい……。

 

『かいじゅうたちのいるところ』

モーリス・センダック(作) じんぐうてるお(訳)
冨山房 本体1400円+税

マックスはいたずらがすぎて母親に怒られ寝室に放り込まれた。するとあたりは森になり、やがて船でかいじゅうの国へ…。

 

『ぼくのおふろ』

鈴木のりたけ(作) PHP研究所
本体1200円+税

迷路のおふろ、プリンぶろ、忍者ぶろ…こんなおふろがあったらいいな! 絵探しも散りばめられた、おふろが楽しくなる絵本。

『くいしんぼうのクジラ』

谷口智則(作) あかね書房 1400円+税

「娘が1歳の時に“いただきます”と言うとニコニコして、“ごちそうさま”にはさみしい顔をするのを見て、こんなに小さくても食べる喜びがあるのだと実感。さらに魚好きの息子を思って描きました」(谷口)

 

『ブタのドーナツやさん』

谷口智則(作) 小学館 本体1400円+税

いつもひまなブタのドーナツやさんに、ある日大量の注文が入っておおあわて! 探し絵や数を数える楽しさも詰まった最新作。

 

谷口智則(たにぐち ・とものり)
1978年大阪府生まれ。金沢美術工芸大学日本画専攻卒業。「サルくんとお月さま」(文溪堂)で絵本作家としてデビュー後、日本だけでなくフランスやイタリアなどで数々の絵本を出版。主な絵本に「100にんのサンタクロース」「サルくんとバナナのゆうえんち」「まじょのルマニオさん」(以上文溪堂)、「ワニのワッフルケーキやさん ワニッフル」(アリス館)など。http://tomonori-taniguchi.com

イラスト/松栄舞子 文/宇田夏苗

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