町田 尚子さん「想像の世界をていねいな絵で描きたい」【絵本作家が紹介!私の好きな絵本】

猫の表示に引き込まれる『ネコヅメのよる』など、美しく印象的な絵本で注目を集めている、町田尚子さんに、幼少期から親しんでいた絵本やご自身の作品作りについて、お話を伺いました。

ディック・ブルーナの絵本が大好きな子ども時代

今見るとかわいい、初めて自分で文字が読めたシリーズ

私には年子の姉がおり、絵本は共有でした。その中で私が初めてこれは「自分のものだ」と思った絵本は、ディック・ブルーナの『こねこのねる』でした。ブルーナの絵本が大好きで、特に『じのないえほん』は文章がない絵本なのでひとりで開いては、絵を眺めながら違うお話を作って延々と遊んでいたのを覚えています。幼稚園に入ると『エースひかりのくに』という月刊絵本に夢中になりました。

文字も絵本で覚えた

いまだに全作の文も絵も覚えているくらい好きで、初めて「文字が読めた!」と感じたのもこのシリーズでした。『おやすみなさいフランシス』は今見るとかわいいのですが、子どもの頃は怖くてたまらなかった。あなぐまの女の子のフランシスはベッドに入っても眠れなくて、壁のひびが蛇に見えたり。私もそういう子だったので震え上がりました。最初の恐怖絵本といえるかもしれません(笑)。

絵本は子どもが自分で選ぶことが大切

自分で選んだ絵本からの感動は大人になっても鮮明

通っていた幼稚園では毎年1回バザーがあり、そこで気に入った絵本を1、2冊、母が買ってくれたんです。完全に自分で選べるのがうれしいから、一生懸命選びました。

『はなをくんくん』もそのひとつ。ずっとモノクロだった絵の中に、最後だけ黄色いお花が出てきた瞬間、鳥肌が立った、初めて絵本で感動するという体験をした作品です。その記憶は大人になっても鮮明に残っているので、子どもが自分で絵本を選ぶことは、すごく大切だと思いますね。

町田尚子さんのおすすめ絵本

『じのないえほん』

ディック・ブルーナ(作) 石井桃子(訳) 福音館書店 本体700円+税

男の子は何をしているのでしょう? 歯をみがくところかな? 男の子が朝起きて寝るまでを絵のみで表現した赤ちゃん絵本。

 

『はなをくんくん』

ルース・クラウス(作) マーク・シーモント(絵)
木島 始(訳) 福音館書店 本体1100円+税

冬眠していた動物たちが突然目をさまし、はなをくんくんさせています。詩的な文章で、自然の営みをやさしく教えてくれる名作。

 

『おやすみなさいフランシス』

ラッセル・ホーバン(作) ガース・ウィリアムズ(絵)
松岡享子(訳) 福音館書店 本体1100円+税

ベッドに入っても眠れないあなぐまの女の子フランシス。部屋の隅にトラがいる
みたい? 彼女は眠ることができるのでしょうか…。

絵本の力に打ちのめされた2冊

幼稚園に行きたくなくて、絵本を読むのが楽しみだった

私は幼稚園に行きたくない子で、しかも骨折して通えなかった期間があり、家にいる時間が長かったので、絵本を読むことが唯一の楽しみでした。でも次第に大人っぽいものが読みたくなり、絵本の世界に戻ったのは高校時代。美術専攻で周りは絵を描く人ばかりでした。長谷川集平さんの絵本は同級生に薦められて読んで、心が震えて大好きになりました。最近『とんぼとりの日々』をあらためて読んで、理由がわかりました。

絵が単なる文の説明になっていない。文と絵が合わさることで、読み手の想像が膨らむんです。構図もロングショットがあったり、映画みたいでかっこいい。自分が絵本を描く時、文章に書かれてないところを描こうとするのは、長谷川さんの影響のような気がします。

美大生時代には絵本の創作を学ぶ

美大時代に絵本創作の授業を受けた川端誠さんから学んだことも大きいです。絵本作家として生きていく大変さを伺ったこと、何より粘土で1羽1羽、鳥を描いた『鳥の島』に圧倒されて、逆に絵本が遠くなったというか。川端さんや長谷川さんのような作家がいる世界に入りたいだなんて、簡単に言ってはいけないと思ったんですよね。

『しでむし』

舘野 鴻(作) 偕成社 本体1800円+税

子育てをする虫・しでむしの一生を精密なタッチで描写。しでむしのまわりに
広がる森の命のつながりが生き生きと伝わってくる。

『ゆきがふる』

蜂飼 耳(作) 牧野千穂(絵) ブロンズ新社 本体1400円+税

森の中を歩いていたふうちゃんは雪の日だけにあらわれる森の中の道の先
へ…。人気作「うきわねこ」のコンビによる幻想的なお話。

ヨーロッパなどを旅して、気に入った絵本を買う

物語であっても本当のことだと思ってもらえるように

美大卒業後はデザイン事務所に入りました。でも絵本はやっぱり好きで、お金を貯めてヨーロッパなどを旅して、現地で気に入った絵本を買うのが定番でした。『白雪姫』はイギリスの書店で見つけた途端、綺麗さと怖さが共存する画に魅了されました。小人もかわいいキャラではなく怖いくらいリアル。「作者は本当に白雪姫や小人を見て描いたのではないか」と。「この世界はある」と信じさせる力があります。

最近では、牧野千穂さんの『ゆきがふる』もそうです。しかも文章以上のことを絵が表現しているのが素晴らしいです。舘野鴻さんの『しでむし』の、図鑑とは違う精密な絵と構成にも衝撃を受けました。虫の話と思いきや、最初にネズミの死体がバーンとあって。命の連鎖をありのままに描きながら、たった15見開きの中で、ミクロからマクロに広がる振り幅の大きさに感動しました。

ここに挙げた大好きな絵本のような作品を私も描けたらなと願っています。私が絵を担当した怪談えほん『いるのいないの』を読んだお子さんが「これ、本当の話?」と聞いたという感想を伺ってすごくうれしかったので。物語であっても本当のことだと思ってもらえるように、丁寧に描いていきたいです。

町田尚子さんが影響を受けた絵本

『とんぼとりの日々』

長谷川集平(作) 復刊ドットコム 本体1800円+税

とんぼとりがヘタな2人の少年。ある日やって来た転校生は、不思議な道具
を作ってとんぼをつかまえ…。文章も味わいのある1冊。

『鳥の島』

川端 誠(作) BL出版 本体1600円+税

身を守り群れて暮らす鳥たち。そんな中、海の向こうに憧れて1羽の鳥が飛び
立った! 生きることの意味までを問う壮大な感動作。

 

『白雪姫』

ジョセフィーン・プール(文) アンジェラ・バレット(絵)
島式子(訳)  BL出版 本体1600円+税

圧倒的な画力で描いた『白雪姫』。知っているお話なのに、はっとさせられる
シーンが満載で、子どもはもちろん大人も夢中に。

 

町田尚子(まちだ・なおこ)
1968年東京都生まれ。武蔵野美術大学短期大学部卒業。絵本に『いるのいないの』『あずきとぎ』(共に作・京極夏彦 岩崎書店)、『うらしまたろう』(文・山下明生 あかね書房)、『おばけにょうぼう』(文・内田麟太郎 イースト・プレス)、『さくらいろのりゅう』(アリス館)、『だれのものでもない岩鼻の灯台』(文・山下明生 絵本塾出版)、『えほん遠野物語 ざしきわらし』(原作・柳田国男 文・京極夏彦 汐文社)など。

町田尚子さんの代表作

『ネコヅメのよる』

町田尚子(作)WAVE 出版 本体1400円+税

町中から集まったネコたちが夜空を見上げて待つものは? 町田さんが愛猫をモデルに描いた代表作。猫好きでなくても心を奪われる。

提供/『おひさま』2017年12/1月号 イラスト/松栄舞子 文/宇田夏苗

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